チェルノフ・ケーブルとサブゼロ処理研究所とのコラボ商品を試聴してみた
井上千岳チェルノフのスピーカーケーブルを、サブゼロ最高峰<SE処理>したコラボ商品「HST-STANDARD 1.0 SPEAKER WIRE」を聴く
対象となっているのは「STANDARD 1.0」というエントリークラスのスピーカーケーブルで、導体径17ゲージの平行タイプである。チェルノフ独自のBRCという銅素材で、不純物の含有量を最適な状態にコントロールした専用の線材としている。
これにサブゼロ研究所でも最高峰の「SEバージョンHST処理」を施したのが本製品である。「HST(ハイパー・サブゼロ・トリートメント)」はサブゼロ研究所の独自の超低温処理プロセスで、液体窒素による液浸法ではなくガス法によっている。
コンピューター制御での精密な温度および時間管理が可能で、そのプログラミングが同研究所独自のノウハウになっているわけである。特にSEは24時間1サイクルの工程を2度繰り返した後に、特殊な物性処理を加えたもので、最もグレードの高いバージョンだ。
このSE-HST処理によって、最もベーシックなエントリーモデルが確実に一桁あるいはそれ以上も価格の違うハイエンド・ケーブルに変身する。改善とかグレードアップといったレベルではなく、全くの別物と思った方がいいくらいの変化である。その詳細をお伝えすることにしたい。
エントリーモデルという面影はどこにもなく、ハイエンドそのもの
「STANDARD 1.0」は以前から知っているが、本来素直でくせのない音調のケーブルである。レスポンスに偏りがなく、また刺のような硬質感も感じられない。
全ての音が引っかかりなく真っ直ぐに出てくる感触で、このクラスのケーブルとしては出色の優品と言っていい。音調は素直だが、質感が痩せずしっかりした厚みがある。また鳴り方が伸びやかで、朗々とした感触にも富んでいる。
SE処理ではそれがどう変わるのだろうか。改良というより別物と言った方が近いと先に触れたが、実際に聴いてみるとエントリーモデルという面影は最早どこにもなく、ハイエンドそのものの再現性がいきなり現れる。
音調は朗々というよりももっと引き締まって緻密で、奥の奥まで研ぎ澄まされたような精度の高さを感じる。バロックでは楽器ひとつひとつがしっかりした存在感を持ち、瑞々しい鮮度を備えて音色にきめ細かな艶が乗っている。
ヴァイオリンもそうだが、チェロの低音でも微細な輝きがが弾むような手触りで出てくる。艶やかで明るい音色がまったりと流れているのとは段違いと言っていい。また響きが深く、空間のずっと後ろの方まで潤いに富んだ余韻が漂っているのを感じるのである。
響きが深く、ダイナミズムが目に見えて増し、峻烈なクライマックスを描き出す
ピアノは低音が単によく沈んでいるだけでなく、芯が太く和音が重厚な重なり方を見せる。重いのではない。厚くしかも弾力的なのである。高域のタッチもずっと強さが増し、一音々々がぐっと深く叩かれて陰影が濃い。音のひとつひとつが丁寧に扱われて、骨格の強い腰の据わった感触が加わっている。
コーラスはレンジが大きく広がり、余韻の伸び方がずっと楽々としてまた潤いに富んでいる。ハーモニーが柔らかく空間に充満し、刺々しさや濁りのない純粋で澄み切った響きが豊かな抑揚を見せる。解像度もぐっと高まっているのである。
オーケストラは目の前からすっかり靄が消えてしまったように晴れやかで、アンサンブルの全容が隈なく見渡せるように感じる。奥行も深い。前方に弦楽器、最後方に打楽器という位置感が手に取れるような見え方をする。
どの音にもエネルギーが乗り、瞬発力が利いて華やかな色彩感がいっそう鮮やかに冴える。そしてダイナミズムが目に見えて増し、強弱の抑揚が大きく広がって峻烈なクライマックスを描き出すのである。
HST処理は入念な注意と最新の技術で最適な処理法を確立しているが、ここではそれが極めて効果的な方向で発揮されたと言っていい。オリジナルと両方を黙って聴かせたら、おそらく同じものだとわかる人は皆無であるに違いない。
オーディオ評論・井上千岳氏
(試聴ソフト)
?「ヴィヴァルディ:四季、海の嵐他」
フェデリコ・グリエルモ(Vn) 新イタリア合奏団
マイスター・ミュージック MM-4529
?「アルベニス:入江のざわめき/細川夏子」
細川夏子(ピアノ)
マイスター・ミュージック MM-3092
?「ドイツ・ロマン派の合唱曲集〜『ラインの乙女』」
ラファエル・ピション(指揮) アンサンブル・ピグマリオンほか
ハルモニア・ムンディ/キング・インターナショナル KKC5643(HMC 902239)
「サン=サーンス:交響詩集」
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮) レ・シエクル
ハルモニア・ムンディ/キング・インターナショナル KKC6761/2(2CD)