CDプレーヤーが再ブーム!? FIIO、Shanling、水月雨、新世代CDプレーヤーを一斉試聴!
2025/04/29
以前の記事でCDプレーヤーの再興について述べたが、その熱は一過性のものではなく、さらにヒートアップしているように見える。今回紹介するShanling(シャンリン)の「EC Zero T」はその熱量を手に取って感じ取れるような製品だ。国内では6月20日より発売され、価格は89,100円となる。
EC Zero Tは端的にいうとポータブルCDプレーヤーだが、いままで見慣れたいわゆる“ディスクマン”のような製品とはまるで異なっている。あたかも高級CDプレーヤーのような透明ガラス風カバーが採用され、筐体はアルミニウムCNC加工の一体成形だ。まるで据え置きのCDプレーヤーをそのまま小さくしたようなミニチュア感覚が楽しめる。それでいてさほど重いわけではなく、バッテリーで動作が可能なのだ。
またデザイン性だけではなくCDを固定する部分には本格的なマグネット・クランプ方式が用いられるなど構造的にもしっかりと作られている。
実のところ透明カバー部をあまり強く掴まないようにするなど、持ち運びには少々気を使うが、据え置きのCDプレーヤーを持ち運ぶ感覚がユニークだ。筆者のようにポータブルCDプレーヤーに馴染んだ経験があっても、ノスタルジーよりも斬新さが勝るように感じる体験である。最近の中国製ポータブルCDプレーヤーはたしかに日本のそれを手本にして始まったかもしれないが、日本製品を超えて新たな世界に踏み出しているかのようだ。
そしてEC Zero Tは外側だけではなく、むしろ内部が斬新だ。DAC部はShanling独自設計によるディスクリート方式のR-2R DAC「Kunlun(コンロン)」が搭載され、R-2R DACらしくOSモードとNOSモードのフィルタリング選択が用意されている。
またアンプ部は真空管方式とトランジスタ方式の切り替えが可能となっている。真空管はこの種のポータブル機でよく使われるレイセオンのサブミニチュア管である「JAN6418」をデュアル搭載している。真空管はショックに弱いが、それには独自の防振対策がなされている。
内部設計はShanlingが先行して発売しているヘッドホンアンプ「EH2」をベースとしているように見えるが、アンプ部に真空管を搭載したのは本機独自の設計だ。R-2R形式のDACはPCM再生で変換の少ない滑らかな音再現が可能であり、R-2R DACと真空管の組み合わせは、よりアナログ志向の音を念頭に設計されたことを窺わせる。
USB-DACとしても使用することができ、据え置きとしても使いやすいように外部電源を使用できる機能も搭載されている。外部電源はDC入力ではなくUSB-Cを使用する。バッテリーの持続時間は実測で9時間ほどだ。
まさにデザイン良く、内部も充実したポータブルCDプレーヤーである。このEC Zero Tを早速外に連れ出して使用した。 大きな透明カバーは開けやすくCDをトレイにセットしやすい。CDの出し入れの際のカバーの開け閉めも軟質プラスチックの頼りない感じではなくソリッドだ。
操作はハードボタンを使用する。小型の液晶が搭載されていて、操作は難しくない。キーロック機能も搭載されている。設定はハードボタンのメニューボタンを押下して、スキップとバックキーで項目選択をする。
先述したOS/NOSまたは真空管/トランジスタの切り替えはメニューから行う。なお忘れた方も多いと思うので念のために書いておくと、曲を進ませる時はスキップキーの長押しである(実は筆者も忘れていた)。
外出時に電車移動や買い物などで実際に使ってみたが、さほど音飛びせずに再生することができる。カバンに入れて体の横に下げておくと普通に歩いたり階段を急いで降りたりするくらいでは音飛びすることはない。音飛びが発生するタイミングの遅れからから推測すると、スペックにはないが数秒程度の音飛び防止バッファが搭載されているようだ。
据え置きCDプレーヤーのミニチュアのような本機を戸外で使用するだけでも愉快な感覚だが、本機の魅力はやはりその音の良さだ。まずNOSモード、真空管モードでそれを確かめた。
アカペラ女声コーラスグループ「Aura」の曲では、声が美しくソプラノの伸びがあるだけではなく、すうっと音世界に吸い込まれそうな音空間の深みがあり、ホールに響く余韻が感じられるような音の情報量も感じ取れる。
エレクトロポップ・バンド「Delerium」の曲ではOSモードとトランジスタモードの組み合わせの方が音の打撃感がより鋭くシャープだ。それでいて刺激成分がまだ十分に抑えられているのはR2R DACの本質的な効果だろう。音の力強さは一般的なDAPと比較してもかなりパワフルに感じられる。
音色をより美音にしたい時はNOSモードあるいは真空管モードにして、よりパンチを生かして明瞭感を出したい時はOSモードあるいはトランジスタモードにすると使い分けが容易だ。NOSモードとOSモードの差は大きいと感じた。
USB-DACとしても優れた音質で楽しめる。平面型を鳴らし切るようなパワーが必要な時はさすがに据え置きのEH2に劣るが、音色や解像力などでは大きな差が出ない。据え置きオーディオ機材として使用しても十分な音質であり、特にCD再生では秀逸な音質で楽しめる。
ちなみにバッテリーで聴く時は電源モードがB(バッテリー)位置であることを確認する方が良い。実はバッテリーのみのときもDC入力位置で音が聴けるのだが、この場合はなぜか音質が良くない。これは使用しているうちに気がついたのだが、はじめから注意した方が良いだろう。
欲を言えばボリュームにはもう少しトルク感があり、しっとりと動く方が高級感が出ると感じた。また特殊な等速のリッピング機能はあるが、外付けCDドライブとして使用できないのが残念で、これは最近の他の中国製CDプレーヤーと同じだ。さらに言えばこのデザインに適した専用ケースも欲しいところだが、それはユーザーの探す楽しみとなるだろう。
Shanling「EC Zero T」は、デザイン性やCDでの音のアナログらしさなど、唯一無二の個性で「欲しくなる機材」である。
実用性としてはDAPに劣るけれども、趣味性が高いのだ。なによりCDが回っているのを見るのは楽しいし、停止している時はCDのジャケットアートを楽しめるのも良い。毎日ではなくとも、たまに持ち出したくなる機材だ。CDでなければこの音が味わえないという理由もある。
最近ではヘッドフォン祭で発表されたDUNU「CONCEPT R」や、前回の記事で触れた水月雨「DISCDREAM 2」のように、ハイエンドなポータブルCDプレーヤーがトレンドともなっているが、どれも個性的だ。こうしたポータブルCDプレーヤーの高級化が、趣味性の高さを引き出しているとも言えるだろう。
CDプレーヤー人気が再燃しているということは、なによりもオーディオにまだ趣味性の要素がしっかりと残っているということの表れではないだろうか。