音質を追求した「科学的アプローチ」で業界を牽引。AudioQuestのこだわりをセールス担当者に訊く
2024/01/18
5月のミュンヘン・ハイエンド終了後、ヨーロッパブランドの工場や開発拠点を回って来ることを毎年の恒例としているが、今年はオランダにあるオーディオクエストのラボを訪問する機会を得た。
オーディオクエストは、1980年にアメリカ・カリフォルニア州にてスタートしたケーブルブランド。現在もアメリカ国内向けが最大の市場だそうだが、グローバルにも成長著しい。そこで、ヨーロッパ向けの拠点として、2007年よりオランダのローゼンダールという街に倉庫兼ラボを稼働させている。今回訪問したのはこのオランダ・ラボである。
日本では、ディーアンドエムホールディングスが輸入商社を担当している関係で、Bowers&Wilkinsのスピーカーとセットで提案されることも多く、愛用者も多いブランドであろう。
世界的に見ても老舗と言えるケーブルブランドの一つであり、ミュンヘン・ハイエンドにおいても “アクセサリーメーカー単体” で大型ブースを構えている数少ないメーカーである(他にはノードストやヨルマ、クリスタルケーブル&シルテック、インシュレーターのアイソアコースティックといったスーパーハイエンドブランドが自社ブースを展開している)。
なぜオーディオクエストのラボに興味があったのか。それは、3年前にクエストのグローバルセールス担当アダムさんにインタビューした時に、「NASAとアメリカ軍、そしてオーディオクエストだけが所有している特別なバーンインマシンがある」と聞いていたからだ。その機械はアメリカ本国のほか、オランダのラボにも設置されているという。“そんなすごい” マシンが一体どんなものなのか、以前から気になっていた。
ローゼンダールは、アムステルダムから南へ約140km、ベルギーとの国境にも近い小さな街である。アダムさんの運転するフォルクスワーゲンで、アムステルダムから田園地帯を走ること2時間。
高速道路で移動しながら初めて知ったことだが、オランダは「山がない」国である。道路沿いには農場も多く、ウシやウマはのんびりと草を食み、オランダの名物である風車も多く見かけた。アムステルダムの市内は美術館やコンサートホール、ショッピングセンターが多く観光客で賑わうが、少し都市を離れれば見渡す限りに真っ平らな大地が続く田園地帯である。
オランダは、田園地帯の中にぽつんぽつんと工業団地があるようで、ローゼンダールもそんな街の一つである。なぜローゼンダールなのかとアダムさんに尋ねると、「ヨーロッパの中でも地価が安かったこと(笑)、それからロッテルダムの港に近く、世界中に出荷しやすい場所だからです」という答えが返ってきた。日本を含む、アメリカ国内向け以外の出荷は基本的にこの倉庫から発出されるそうだ。
このラボで働くスタッフは30人ほど。一部ケーブルの製造も行っておりその点については後述するが、とにかく大事なのは「ロジスティックスです」とアダムさん。オーディオクエストの製品ラインナップは広く、ケーブルの長さ違いも含めると膨大な量になる。
この倉庫にはおおよそ27,000種類の製品が管理されているそうで、各国からの注文を間違いなく処理して出荷に載せるのは大変なことだろう。「優秀なロジのスタッフがこのラボを支えてくれています!」と胸を張る。
倉庫は高さ10mほどあろうか、棚の上の方まで製品がぎっしり詰まっていて、そのラインナップの豊富さに改めて驚く。もっとも数が多いのはもちろんケーブルで、スピーカーからインターコネクト、USBにHDMIとあらゆるジャンルが揃う。HDMIだけでも、数十種類あるだろう。PSEの関係で日本に入ってきていない電源ケーブルや、海外のオーディオショウでよく見かける「Niagara」という電源フィルターも見かけた。
ディスコンになってしまった製品も一部保管されている。「そういえば……昔ヘッドホンもありましたよね?」2015年に記者がCESに初取材に行った際にも話題になったのでよく覚えている。「えぇ、ヘッドホンをやっていた時期もありましたが、あまりうまくいかなかったので今はやっていません」。
DragonFlyなどの小型DACはいまも続いている。またLightning対応のケーブルもあったがこの辺りは時代の趨勢に合わせてすでに終了。
気になる「バーンインマシン」は1Fの倉庫エリアの端に設けられている。タタミ1.5畳くらいの小さな部屋で、壁にケーブルがいくつもぶら下がっていた。
「高圧がかけられているので、近づく分には構いませんが、絶対に触らないでくださいよ!」とアダムさん。「ケーブルをベストな状態で出荷するために、このマシンで全てバーンインを行っています。ケーブルによって最適な電圧、時間が異なるので、それぞれに合わせて設定しています」。
電源ケーブルは50Vで何時間、などそれぞれ規定があるそうで、傾向として太いケーブルは電圧も高く、長時間バーンインを行う設定となっているそうだ。もっと大かがりな機械を想像していたので、思ったよりこじんまりしていたのでちょっぴり拍子抜け。
ケーブルも一部このラボで製造されている。製造ルームにはいくつものロールになったケーブルが置かれており、必要な長さに応じてカットし、コネクターを装着する。おそらく「THUNDERBIRD」のものであろう太いケーブルも見える。あまりに太くてカットするだけでもかなり力がいりそうだ。
「ここでは比較的難易度の高い、製造にスキルが必要なケーブルを作っています」とは製造スタッフの言葉だ。安いモデルは別の場所で機械化されているものもあるそうだが、ここではすべて手作業で組み上げられていく。
近年はスピーカーのスーパーハイエンド化に伴い、ケーブルブランドにもスーパーハイエンド化の波が訪れている。オーディオクエストも、先般発表された70万円クラスのスピーカーケーブル「Brave Heart」や、トップラインの “Mythical Creatureシリーズ” など、ハイエンド製品にも力を入れてきている。
製品のクオリティコントロールを考えると、自社のラボ内で製造工場を持つというのも合理的な判断なのだろう。
最後にリスニングルームを案内してもらった。マジコをメインスピーカーに据えたスーパーハイエンドシステムと、反対側にはB&Wによるカジュアルなシステムの2つを用意している。オーディオクエストのラインナップはメーター千円から100万円クラスの製品まであるので、やはり複数のシステムでテストが必要なのだ。
せっかくの機会なので、マジコをメインとしたシステムで、日本では聴けない電源ケーブル聴き比べをさせてもらった。アンプはイタリアのRIVIERA、もちろんNiagaraの電源フィルターも活用されている。
電源ケーブル「BRIZZARD」と「DRAGON」の比較試聴、アネッテ・アスクヴィークの「Liberty」で聴けばその違いは歴然。微細な情報量が詳らかにされて、より深い世界観に誘われる。マジコのマッシブで強靭なサウンドは、やはり良質な電源ケーブルでよりその美点を引き出されると再確認。
B&Wのシステムはもうすこし優しく、リビングでゆったりと音楽を聴くような柔らかさに満ちている。こちらはプライマーのCDプレーヤー&プリ・パワーアンプが活用されている。
“20ドルで買える感動を” というのは創業者ビル・ロウ氏の理念だが、お求めやすい価格帯の製品をしっかり継続していることは嬉しい。
オーディオクエストの主力製品はケーブルであり、スピーカーやアンプといったコンポーネントの間をつなぐ、あるいは役割を強化するためのアクセサリーがメインビジネスである。だからこそ、オーディオ/ビジュアル産業の巨人たちの動きを敏感に捉え、柔軟に製品開発に活かしていくフットワークの軽さが必要となる。
それでも、創業時の理念である「少額の投資で感動を広げたい」という思いは今も変わらず息づいている。そんな思いを抱きながら、オーディオクエストのラボツアーを後にした。