【上海ショウ】DYNAUDIOの日本展開は今後どうなる? 上海ヘッドオフィスのキーマンに聞いた
筑井真奈7月11日(金)より開催している上海オーディオショウ。日本メーカーやJBL、ソナス・ファベールといったメーカーとともに、DYNAUDIOの動向も気になるところだ。今回、DYNAUDIO上海のAPACゼネラルマネージャー、エンゾ・ヤン氏に最新動向を伺う貴重な機会を得た。
そもそもなぜ、DYNAUDIOの話を上海で聞けるのか。デンマークで創業したDYNAUDIOだが、2014年より中国に拠点を置くテクノロジー企業・Goertek(ゴアテック)に買収され、その傘下にある。
ゴアテックはスマートフォンやAR/XRなど各種エレクトロニクス産業に関わる巨大テクノロジー企業。そのゴアテックの下に、オーディオビジネスを主体とするGoer Dynamics(ゴアダイナミクス)がある。そしてゴアダイナミクスの上海オフィスがヘッドクオーターで、そこにDYNAUDIOのヘッドオフィスがあるという構造になっている。
実は2024年初頭から、DYNAUDIOの正規国内代理店は存在しない。それは本国の意思決定メカニズムの変更に伴うもので、引き継ぐ代理店についてもいくつかの噂はあったが、本稿執筆時点では確定していない。
いうまでもなくDYNAUDIOは国内で多くのファンを抱えている。これほど多くのファンを持つスピーカーブランドが、日本で代理店がない状態が続くのは異例のことだ。「今後、DYNAUDIOの日本展開がどうなるのか」というのは、今回の上海取材で特に知りたいと思っていたことの一つでもある。
アジア・パシフィックエリアのゼネラル・マネージャーのヤン氏が語る結論から先に述べると、「日本市場を魅力的なマーケットと認識しており、DYNAUDIOのこの先30年を考えたときに、適切な関係性を築きたい」という強い意志があるようだ。日本メディアからの取材を申し込んだ際も歓迎された。まずはこの対応にホッとした、というのが率直な感想だ。
この1年半、さまざまな輸入代理店との交渉も続けてきたそうだが、現時点では「近いうちに日本の現地法人を立ち上げる」ことを考えているのだという。ちなみにかつてのDYNAUDIO JAPANは日本法人ではなく、あくまで輸入商社だ。どちらが適切かはブランド展開のスタイルにもよるので一概に言えないが、より強く本国の意向を反映できる現地法人という形態を検討している、というのが現時点での考えのようだ。
ヤン氏の話を深掘りする前に、現在のDYNAUDIOの状況を整理しておこう。なぜゴアテックは、DYNAUDIOを買収したのか。その背景には発展著しいEVやその関連産業への期待がある。
上海の街を歩いていても、半分以上の車はEVなのではないか、と思うほどにEVが覇権を握っている。おかげで街が静かである。BYDや上汽通用汽車は言わずもがな、見知らぬエンブレムの車も多い。日本車はほとんど見かけず、テスラやベンツ、アウディ(ガソリン車もあるが、多くはEV)も見る。自動車産業が日本や欧米と全く異なる発展の仕方をしていることを、改めて目の当たりにした。
ゴアテックは、DYNAUDIOが長年培ってきたカーオーディオ向けのOEM事業に注目した。EV、そして車載オーディオのさらなる市場拡大を見越しての買収であろうことは容易に想像がつく。
ちなみにゴアダイナミクスは、DYNAUDIOのほかに、完全ワイヤレスイヤホン等を展開するLibratone(リブラトーン)というブランドや、ARデバイスなどを手がけるXEOというブランドも手がけている。
また、今年頭にはデンマークのハイエンドオーディオブランド・Gryphone(グリフォン)の株式も取得した、ということが海外メディアを中心に話題となっていた。ほかにもイマーシブオーディオのコーデックであるAURO-3Dのチームも傘下に持つ。
ハイエンドから最先端テックまで、幅広くオーディオにまつわるブランドを傘下に収めているのは、車載はもちろん、ホームオーディオも含めたシナジーを考えての動きであろう。
ビジネス上のさまざまな目論見はあるにせよ、ヤン氏はあくまで「DYNAUDIOは音楽によりそったブランドでありたい」と強調する。「ライフスタイルに寄り添った製品、リビングなどで音楽とともにある製品展開を行っていくことを考えています」。上海ショウにおいても、アクティブスピーカーの「Confidence 20A」(スタンド内にアンプが内蔵されている)と、レガシーデザインの「Contour Legacy」をメインに展示を行っていた。
DYNAUDIOは、ハイファイスピーカーブランドのなかでも、アクティブスピーカーへの取り組みが非常に早いブランドであった。近年ではB&WやJBLなど、アクティブスピーカーを展開するハイエンドブランドが増えてきているが、DYNAUDIOは2012年の時点でハイレゾも伝送できるアクティブモデル「XEO」を展開し、その後「FOCUS」シリーズとラインナップを広げてきた。まさにアクティブ・ハイファイの市場を牽引してきたブランドのひとつと言って良いだろう。
ヤン氏も「ネットワークも十全に活用して、シンプルに、しかし音質を妥協しないシステムを提供し続けることを大切にしていきます」と語る。その一方で、Contour Legacyのような昔ながらのファンを大切にしたパッシブ・シリーズも継続する。
「MUSICというBluetoothスピーカーもありましたよね、そう言ったラインナップも拡充していくのですか?」と尋ねたところ、それについてはあまりポジティブではない様子。ゴアダイナミクス傘下にLibratoneという、よりそちらのジャンルに強そうなブランドを持つこともあるのだろう。「DYNAUDIOらしい」プロダクト展開により注力していく、という思いも感じられた。
「日本は特殊な市場です」という声は、多くの海外メーカーから耳にする。どの国でもローカライズには特別な苦労があるだろうが、特に日本においては「シビアなクオリティへの要求」に加えて、オンラインではなく「リアル店舗の販売力の強さ」もあるようだ。
別のメーカーから聞いた話だが、中国ではいわゆる量販店はほぼ消滅し、「オンライン」か「専門店」に二極化している傾向にあるという(オンラインに強いぶん、返品も容易であるという声もある)。これに対して日本市場は、伝統的なビジネススタイルとオーディオファンの志向がいまも強く残っているという特徴があるのだろう。
いずれにせよ、日本市場での展開を検討し続けていることに安堵した。日本の高級家具ブランド・カリモクとのコラボレーションも準備しているという。「1年ほどで良いご報告ができると思いますよ」とヤン氏。海外メーカーの時期に関する言及はしばしばズレることがあると念頭におきつつ、DYNAUDIOの日本市場への再上陸を期待してやまない。