エソテリックには、薄型の筐体と優美な曲面構成のフロントパネルを持つ「ハイエンドエレガンスシリーズ」(Zシリーズ)と呼ばれる製品群がある。2006年に登場した第1弾はデジタルプレーヤーのSZ-1とプリメインアンプのAZ-1の2本立てで、セット100万円級と、その佇まいと音の美しさにふさわしい「ハイエンド入門編」というべきセグメントに位置する製品だった。

 
SZ-1
 
AZ-1

それが、このたび登場した第2弾たるデジタルプレーヤーSZ-1s/プリメインアンプAZ-1sは、その美しく頑丈な筐体をそのままに、前作から若干の機能を省略した構成ながらどちらも36万7500円というプライスタグをつけてきた。

SZ-1s(上)とAZ-1s(下)

機能省略といってもSZ-1sのXLRアナログ出力と両者のiLINK入出力くらいのもので、AZ-1sはむしろ新規にUSB入力が付加されているのが目につくくらいだ。AZ-1sはデジタル入力をそのままPWM増幅するピュアDクラス構成だし、両者のクロックをシンクロさせるワードシンク端子も引き継がれている。

あの優美なフロントパネルは完全な手作りで、斜め上方を向く面一つをとっても、下縁の曲線に沿ってグラデーションを描きながら108本のラインが穿たれているという。とてつもない手間のかけようなのだ。

そんな新世代Zシリーズに、新たなジャンルの製品が加わった。デジタルプレーヤーとプリメインアンプの一体型コンポーネントのRZ-1である。

RZ-1

デジタルプレーヤーはもちろんSACD/CDの両対応で、今作は同社としては初めてトレイなしのスロット・ローディング方式を採用している。

RZ-1はZシリーズの薄いサイズを維持するため、トレイ方式ではなく、信頼性の高いスロットイン方式を新たに採用している

内蔵DACは32ビット精度で、RCAとTOSの入力からは192kHz/24ビット、USB入力からは96kHz/24ビットまでの信号を受けることが可能だ。アナログ入力はRCA2系統で、うち1系統をPHONO入力に切り替えられるというのも見逃せない。

 
RZ-1の内部には、大型のコンデンサーやトランス類がギリギリの状態で収めされている。これは、あくまで音質にこだわるエソテリックのこだわりである
  RZ-1の背面端子部。スピーカー端子は1系統。アナログ入力は2系統で、1系統はPHONO(MM)端子だが、切り換えにより通常のLINEとしても使用可能。デジタル入力は光/同軸各1系統の他、USB端子も搭載され、PCなどからの音楽データにも対応している
SACD、CDはもちろんレコードからPCオーディオまで対応しているのは嬉しい限りだ

アンプ部の増幅回路はPWM方式のいわゆるD級増幅だが、D級ならではの駆動力を生かしながら、アナログ的な質感を追求しているという。

フロントパネルはシリーズ共通、あの手の込んだパネルが採用されている。トップ/サイドとも分厚いアルミのヘアライン仕上げで、特に鳴き止めさされていないがまったく鳴かない。

底/裏面も極めて頑丈だ。足は真鍮削り出しのクロームメッキで完璧に鳴かない。いずれもシリーズ全体に引き継がれた資産というべき、素晴らしいキャビネットである。

RZ-1を開発されたエソテリック・カンパニー開発部次長の加藤徹也氏は、大きな電気店へ行っても最近はオーディオコーナーが寂しく、特に本格派の香りがする製品は皆無に近い、ということに失望を感じていたという。

「確かに大きな単品コンポーネンツを揃えるのは家族が許してくれない。でも、さりげなく存在感のある製品が欲しい、というお客様は決して少なくないと思うんです」と加藤氏は語る。

確かに本機1台にスピーカーを組み合わせるだけでシステムが完成し、デジタルディスクはそのまま聴けるし、アナログプレーヤー(MM対応)はじめ、他の機器も接続可能で、さらにUSBでPC内に取り込んだ音源も高品位に再生できるのだ。家庭内の音楽再生の”核”として、理想的な1台といえるのではないか。

 

“Definition”2モデルと組み合わせたところ
RZ-1に似つかわしいスピーカーシステムとはどういったものだろうか。これだけの内容と佇まいを持つシステムだ。高品位で現代的なサウンドを持つことはもとより、やはり見た目も美しく、新たな息吹を感じさせるようなものを組み合わせたくなるではないか。

そうなると、折しもこの秋にデビューした、あるスピーカーが自ずと浮かんでこようというものである。そう、タンノイのディフィニションシリーズだ。

同社伝統の同軸2ウェイ「デュアルコンセントリック」ユニットは、ウーファーはパルプとハイテク繊維ほかの素材を混抄した新開発のもので、トゥイーターは35kHzまでの超高域再生を誇り、前面に取り付けられた優美な同心円形状を持つテクノ・ウェーブガイドが完璧な球面波を放射する。

キャビネットは、ユニットのフレームまで含めてバッフルを完全なフラッシュサーフェス化、緩やかにリアへ向けて湾曲した側面も実に美しい。この曲面構成のおかげで内部の定在波もほとんど発生しない。材質は堅く響きの良いことで知られるバーチ(樺)材である。側面まで含めて完全なピアノ仕上げが施されている。カラーはダークウォルナット、チェリー、ブラックの3色から選べる。

ネットワークは素子のクオリティを厳選、さらにネットワークコンポーネント全体をマイナス190℃まで冷やし、時間を管理しながら元へ戻す「ディープ・クライオジェニック」処理を施すなど、現時点で考えられる高音質処理はすべて取り入れているという。

今回の試聴はエソテリックにある広い試聴室にて行われた

今回はまずブックシェルフ型のDC8を組み合わせ、SACDから聴き始めた。クラシックはプレイボタンを押した途端、曲が始まる前から冒頭のトランペットは涼やかに伸び、弦もさらりとした質感を保ちながら分厚く展開する。低弦の安定感と厚みもひとかどのものだ。

ジャズはウッドベースがややソフトな質感で、実物大の音像を表現する。ピアノは輝かしく広がり、打鍵のスピード感のようなものをよく伝えてくる。ドラムは皮の振動がそのまま空気を震わせているような質感だ。RZ-1はスリムな筐体ながら、大した駆動力の持ち主である。シンバルの明るくクールな響きも耳に快い。

ポップスはボーカルが聴こえた途端、時間が過ぎるのを忘れた。歌姫の微笑みが見えてくるような表現である。基本的にはディスクの内容に大きな色付けをすることなく出してくるタイプのシステムだが、そこはエソテリック、やはり美味しい水、旨い酒の味わいを彷彿とさせる、淡いが深い滋味に満ちた音である。

続いてCDをかける。クラシックはまずマスターテープのヒスノイズが実にきめ細かく、耳に障らないことに気づく。冒頭、コントラバスの強奏はソフトな質感で堂々たる迫力を聴かせる。コンサートホールの広がりはやはり巧みに表現する。今回試聴したエソテリックの試聴室はDC8にはやや広すぎるかというくらいの空間だが、大編成オケの迫力を存分に表現することには驚かされる。

ジャズはライブ会場でさざめく観客の環境ノイズがリアルに聴こえてくる。ピアノは伸びやかで美しく澄んだ音色だ。ドラムの闊達さも胸に響く。ベースはふっくらした質感で、聴く者にくつろいだ気分をもたらしてくれる。

ポップスは、ソロを始める前のギタリストの息遣いがリアルに聴こえてくれギョッとした。わざと少し歪ませたような成分と、徹底してリアルに仕上げた箇所との差が際立って聴こえるのが実に面白い。大した懐の深さだ。

製品についての説明を受ける炭山氏

続いてフロア型のDC8 Tを聴いてみる。まずSACDから。クラシックはDC8と音場の密度が違う。低域はローエンドがさらに伸び、スピード感も向上、スピーカーの器の大きさをそのまま素直に表現している感じだ。

ジャズはピアノの伸びやかさが大きく向上、絹目を思わせる滑らかな残響がまた耳に心地よい。ウッドベースはグッと締まり、スピード感が向上しながらスケール感はやはり実物大だ。

ポップスはボーカルの再現力が格段にアップ、もともとデュアルコンセントリックの声の再現力は折り紙付きだが、この潤いを帯びた艶かしいまでの質感は他をもって代え難い。

CDもクラシックでは迫力が大幅に増し、どんな強奏でも音場がまったく揺るがないのは驚異的だ。

ジャズはライブ会場の雰囲気がさらに濃くなり、演奏者のリラックスぶり、そして演奏に込めた気迫のようなものが胸を打つ。ポップスはエンジニアが込めたエフェクトの具合が完全に分解されるような表現だ。

DC8 Tはウーファーをプラスすることによりデュアルコンセントリックの安定度が大幅に増し、その一方でRZ-1がそれらを存分に駆動し切っている、ということであろう。多くの人に聴いてもらいたい組み合わせである。

■主に試聴したソフト
カモミール〜ベスト・オーディオ/藤田恵美
ポニーキャニオン
(SACDハイブリッド)

 

マーラー:交響曲第5番/ジンマン指揮チューリッヒ・トーンハレ室内管弦楽団
ソニーBMG
(SACDハイブリッド)

オータム・イン・シアトル/山本剛トリオ
Fim
(SACDハイブリッド)
ワルツ・フォー・デビイ/ビル・エヴァンス
プレスティッジ
(CD)
 
RZ-1とDC8の組み合わせは、とりわけ声の再現に痺れた。

試聴したSACDはボーカリスト藤田恵美の歌唱にエンジニアをはじめとするスタッフが心底惚れ抜き、慈しみながら育て上げたというイメージが強い盤だが、そんなスタッフの思いがそのまま聴こえてくるような表現なのである。ジャズはどちらかというとアコースティックなピアノトリオなどが向いているのではないだろうか。

DC8 Tではクラシックの大編成オケを揺るぐことなく鳴らしきってしまうのが素晴らしい。オケの人数が見えてきそうな解像度、コンサートホールの空気全体を揺り動かすグランカッサ、ティンパニの表現も良い。プラスウーファーの旨味が存分に発揮された感じだ。

ジャズはライブ盤のステージイメージ、演奏者と観客がともに醸し出すライブ感が見事なまでに再現された。また、古い録音のヒスノイズがまったく耳につかないことにも驚かされる。ディフィニッションのトゥイーターが優れているのであろう。

 
【開発者の声】

エソテリック(株)企画開発部 次長 加藤徹也

RZ-1は「インテグレーテッドミュージックシステム」と命名されたCD/SACDプレーヤーとアンプが統合されたシステムです。そのシステム名にあるようにミュージック(音楽)を楽しんでいただく事を最も大事にして設計しました。

一体型のシステムですが、SACD再生に対応したメカを採用したり、32ビットDACにPCからの高解像度音楽ファイルを入力できたり、ハイエンド指向の製品である点は従来の路線と変わりません。

しかし、その一方でPHONO入力をつけるなど、音楽メディアの垣根にとらわれない柔軟な発想をひとつにまとめ、カジュアルなリスニングスタイルでもストレスを感じさせない使いやすさがRZ-1の新機軸といえるポイントです。

またRZ-1は、すべてにおいて「本物」であることも重視しています。それは無垢のブロックから8時間を掛け削り出されたアルミフロントパネルであり、天板に彫刻されたESOTERICというブランドネームであり、アルミのずっしりとした手応えのリモコンであり、そして奏でられる音楽から伝わる演奏家のパッションやエネルギーです。

RZ-1を作り出すために私たちは、社内外のものづくりの匠たちと協力して、部品の1点1点を吟味しました。そしてお客様の手に届けられる製品1台1台は、丁寧に組み立てられる文字通りのハンドメイド製品です。私たちが拘り抜いて作ったRZ-1に触れてみてください。

 
RZ-1の開発へ携わった加藤徹也氏も先におっしゃっていたが、昨今のオーディオ界は、ディープなマニア向けの製品とごくごく簡単なゼネラルオーディオに、極端な二極分化が進んでいるような気がしている。

どこの世界でもそうだが、高度なマニア層というものはさほど大きくも広くもない。しかし、世の中で音楽を愛し、日常的に聴かれている人は、それこそ桁違いに多いことだろう。そういう人たちに、本当に美しい音楽の世界を味わってもらいたい。素晴らしいオーディオの世界へ入ってきてもらう“扉”の役割りを本機が果たしてくれないものかと思う。

また、われわれ“一般の”オーディオマニアにとっても、RZ-1は1台でデジタルプレーヤーとアンプを賄い、さらにUSB入力まで持っているから、リビングルームやPCルームのオーディオを劇的にクオリティアップさせることも可能であろう。

こういう使い方の場合、薄型でスペース効率の良い筐体もありがたい。ちょっとしたサブシステムのつもりでいたら、ネットラジオがこんなに良い音で聴けるのかと驚いた。

それに、SACDはかかるしアナログプレーヤーも接続できるしで、ハッと気がついたら専用リスニングルームのメインシステムをお留守にさせて、リビングで音楽を聴く時間がすっかり増えてしまった。そんな事態すら想像させるRZ-1の万能ぶりには、拍手の惜しみようがない。幅広い層に安心して薦められる製品である。