エソテリックの「ハイエンドエレガンスシリーズ」(Zシリーズ)は、2006年にSACD/CDプレーヤーのSZ-1とプリメインアンプのAZ-1が登場している。いずれも優美な曲線パネルを持つ薄型の筐体が特徴で、エソテリックらしいクリーンで力強い音と併せ、人気の高いモデルであった。その2機種がこのたびモデルチェンジ、それぞれSZ-1sおよびAZ-1sとなった。

SZ-1s(上)とAZ-1s(下)
SZ-1s(上)とAZ-1s(下)

まずは共通部分から概要を見ていこう。美しいフロントパネルはアルミ1枚板からの切削加工で、何と40mm厚ブロックからの削り出しという。もちろん叩いても完璧に鳴きはゼロだ。美しさと強さを兼ね備えたパネルである。トップとサイドのパネルも5mmはありそうなアルミ板で鳴かない。ボトムとリアのパネルも頑丈そのものだ。脚は真鍮削り出しに美しいニッケルメッキで仕上げており、もちろん鳴きはない。ACは3Pインレットで、付属ケーブルは極太の丸形断面、2Pプラグのものだ。AZ-1sからSZ-1sへワードシンク信号を送るための端子が装備されている。

SZ-1sはアナログ出力がRCA×1系統、デジタル出力はRCA/TOS各1系統。RCAはすべての端子が金メッキ削り出しだ。アース端子がついているのが珍しい。AZ-1sはLINE3系統、うち1系統をPHONOと切り替えることができる。デジタル入力はRCA/TOS各1系統に加え、PCからの高品位再生用にUSB端子が新たに装備されており、これからの音楽ソースにも対応。スピーカー端子は独WBT社の高級タイプ(トップラインシリーズ)が採用されている。

SZ-1sの背面端子部   AZ-1s
SZ-1s(左)とAZ-1s(右)の背面端子部。デジタル、アナログとも十分な端子を有している。ワードシンク端子としてBNC端子も両者に用意される。また、アンプにはデジタル入力を装備、USB端子も搭載され、PCなどからの音楽データにも対応している。さらにPHONO入力を装備しているのも嬉しい限りだ

前作から変わった点というと、iLINK入出力が省かれたこと、それからSZ-1sにはXLR出力がなくなったことがあげられるくらいである。何より驚くのは価格だ。SZ-1は57万7500円、AZ-1は52万5000円であったが、新作はどちらも36万7500円なのである。シャーシや主要パーツ類を引き継ぎ、わずかな簡略を図った状態でこの価格はバーゲンなどという言葉では言い表すことができない。

まず試聴室のレファレンススピーカーであるモニターオーディオ「GS60」をつないで聴いてみることとした。

モニターオーディオ「GS60
この項では編集部のレファレンススピーカー、モニターオーディオGS60(¥682,500・ペア)を組み合わせて基本的なパフォーマンスを検証した

SACDから聴く。クラシックはコンサートホールのS席で聴くような、堂々のオケ表現が眼前に現れた。冒頭のソロTpはやや枯れた音色だが、これは奏者がそう意図して吹いているのだ、ということがはっきりと伝わってくる。

弦はサラリとした質感だが、大編成の厚みを克明に表現し、トゥッティの強奏時にもバイオリンやチェロ1本ずつの胴鳴りの温かみが伝わってくるような響きが実に好ましい。シンバルはごく自然な輝かしさを伴って最高域まで伸び切り、グランカッサは風の吹き抜けるような質感で部屋全体の空気を揺さぶる。

ジャズはことさらにレンジが伸びているという感じもないのに、ピアノのさりげないが深く艶やかな質感、余韻の消えゆく様の美しさはどうだ。ギターも特にホットなプレイというわけではないのに、奏者の思いがそのまま伝わってくるような鳴り方だ。

ウッドベースもまさに今ここで弾いているような質感である。何かの質感に似ていると思ったら、オープンリールの再生音だ。ティアック/エソテリックの伝統がなせる技か、それともオリジナル・マスターテープの音を忠実に引き出しているのか。

ポップスは、録音エンジニアがボーカリストに惚れ込み、歌声を大切に大切に収録した、ということがありありと伝わってくる。伴奏のピアノやストリングスが声と同じくらいのボリュームで入っているのだが、明らかに声がくっきりと立って聴こえるのだ。ここまでの再現を聴くことができるシステムにはそうそう出会えることがない。まさに「鏡のような再現性」といってよいだろう。

そして、CDも一通り聴いたが、驚くべきことにSACDとほとんど音質傾向の違いがない。滑らかさや余韻の美しさは明らかにSACDへ軍配があがるが、CDでも「鏡のような」再現性はまったく減ずることがない。まったく素晴らしいシステムである。

前作はまさに「ハイエンドの入り口」というべきセグメントに属していた。それが、今作はほんのわずかな機能の省略のみで基本的な物量と技術を引き継ぎながらセット70万円台を実現したのはものすごいことだと思う。

この価格帯なら、マニア向け入門編たる1台10〜20万円級のシステムをお使いの人にとって、グレードアップに好適なクラスといえるだろう。それでこれだけの高級感と高品位サウンドが得られるのだ。これなら同価格帯からの買い替えでも音質的にはグレードアップであろうし、もう少し下のクラスへ買い替えを考えている人も、少し頑張ってここまで手を伸ばしておいた方がよいだろう。

今作で省略されたi.LINKはSACDをデジタル接続するためのものだろう。確かにAZはデジタルアンプだが、PWM方式の高効率アンプはパルス幅を連続可変できるのである意味「アナログアンプ」ともいえる。質の良いケーブルを介してアナログ接続してやれば、SACDの高品位サウンドを余すことなく楽しむことは可能なのである。

この組み合わせが奏でるサウンド傾向を短くまとめるなら、どこにも強調感やけれん味、衒いといった要素を持たず、といって無味乾燥でもない。「美味しい水」「旨い酒」「鰹の一番出汁」を思わせる、特上の高品位サウンドである。これはまさしくエソテリック固有のキャラクターといってよい。他をもって代え難いシステムといえるだろう。

 
【開発者の声】

エソテリック(株)企画開発部 次長 加藤徹也

エソテリックのSACDプレーヤーをご検討なさるお客様の中にも、本物、良いものが欲しいのだけれど、あまり大きくて武骨な製品だとご自分の生活空間に置きたくないという声が近年多く聞かれるようになりました。反面、小型や薄型でデザイン重視の製品には肝心のメカニズムに物足りなさを感じてしまうジレンマもあるようです。

今回のSZ-1sはエソテリック自慢のVOSPメカニズムでDISCの情報を余すところなく引き出ます。その上で解像度一辺倒の音質で押し通すのではなく、より自然に、より気持ちよく音楽を楽しめるようにというテーマで開発しました。持ち前の情報量を活かしたナチュラルで豊かな音色を感じていただけたらと思います。

エソテリック(株)企画開発部 開発技術グループ1係 根岸正生

AZ-1sは音色や響きの美しさとデザインの美しさが両立できたのではないかと思います。大型のアンプにはないエレガントなデザインを持ち、お客様がストレスなく音楽に没頭していただけるように技術や工夫を盛り込み開発しました。小柄なアンプですが音質には一切妥協せずに設計しています。

LINE入力を中心にPHONO入力やデジタル入力も備え、適応性も広く持たせました。特にUSB入力を装備したことで、音楽ファイルも手軽に再生できるようになりました。パソコンからのノイズを伝えないような工夫もしてあります。必ずしも96kHzなどのハイサンプリングデータに限らず、例えば無料でストリーミング配信されているネットラジオでクラシックコンサートを楽しむのはいかがでしょうか。パソコンを使ったストリーミング再生と、従来からのディスク再生の間にある「壁」をなくすことで、お客様の音楽ライフをより豊かにする一助になれればと願っています。