単品のシステムにこだわって音を追求する姿も大事なことだと思うが、RZ-1&DC8 Tのように気取らず、シンプルに音楽に浸れる組み合わせは現代社会に適合したものかもしれない。

特にポピュラーなソースの場合、聴きたいポイントをフィーチャーして持ち上げてくれるような傾向にあり、SACDやLPの再生ではDC8 Tが持つゆったりとした低域の深さが、より音楽の核心を増強してくれるような効果がある。

ロックでもバラード曲でその強みが活きてくるが、スローテンポの曲調やシンプルな構成の60〜70年代のサウンドにも相性が良いだろう。逆に最近のヒットソングのようにアタックばかり目立つものでは本システムの良さは引き出し難いかもしれない。

 
ASIA『OMEGA』
2010年発売。オリジナル編成では4作目となる最新作。2008年の復活作の延長線上にあるサウンドだが、その一方で穏やかな境地をも窺わせるメロディに溢れたロック・アルバムだ。UK出身の面子が奏でる音は、英国の空気感を漂わせる重厚な低域を中心に、耳あたりの良い滑らかなボーカルと煌びやかなギターリフ、ふくよかなオルガンが重なっていく。優しい声の温もりと、安定したバンドのグルーブ感が階調豊かな音を紡ぎ、安心して聴いていられる。
The BEATLES『The BEATLES』
09年最新リマスターCDから、通称『ホワイト・アルバム』のステレオ通常盤を試聴。多重録音によって個々のメンバーが作りこんだサウンドは当時としては音数が多いものだったはずだが、現在のシーンと比較すると非常にシンプルに感じられる。しかし、ボーカルの粒立ちや立ち上がりの良さ、立体的な定位など、最新作にも匹敵する透明度を実感できる。リズム隊も太さがあり、ギターもエッジが効いているが、低域は太く厚みがある。伸び伸びとした優しい音色だ。
Michael Jackson『THE THRILLER』
SACD輸入盤。82年に発表されたモンスター・ヒットアルバム。SACDならではの空間のスムーズな広がりを感じるとともに、濃密なアナログテイストが溢れている。「Thriller」ではすっきりとしたシンセも細くならず、ベースは適度に締まり良い。音場は澄みきっており、ボーカルはキッチリとセンターに像を結ぶ。「Beat It」ではキレ良いリズムと奥行きある音場が展開。エディ・ヴァン・ヘイレンによるギターソロも粒立ち良く、滑らかだ。
JOURNEY『GREATEST HITS』
02年発売のSACD盤。黄金期のメンバーによるヒット曲を網羅しており、96年の『TRIAL BY FIRE』からも選曲されている。その中の「WHEN YOU LOVE A WOMAN」では潤いある輪郭と肉声感あるボーカルとハリ良いストリングスのバランスが保たれ、深みあるアンプトーンが響くソロギターも情感に溢れる。すっきりした音場に映えるシンセと、ドラムやベース、ギターリフの重厚な「SEPARATE WAYS」では、中音域に艶がありボーカルはソリッドに引き立つ。
Suara『キズナ』
09年発表の4作目のアルバム。邦楽では数少なくなったハイブリッドSACDでリリース。叙情的なボーカルを楽器と見たてた音作りが行われている。そのボーカルは潤いと艶やかさに溢れ、ローエンドの厚みは伸び伸びとして、丁寧な粒立ちが映える高域とのバランスが取れている。「天使がみる夢」では冒頭のアカペラパートで、息遣いのリアルさに驚く。肉付きも良く伸びやかで、リズム隊のラウドな押し出しとクリーンギターの倍音の際立ち感とが共存している。
BOSTON『WALK ON』
94年発売の4作目。輸入LPを試聴。打ち込みを一切使用せず、生演奏で通したアナログ多重録音は、非常に緻密で厚みがあり、太くリッチなエレキサウンドを堪能できる。「I NEED YOUR LOVE」では重厚なリズム隊と、ダブリングギターの倍音がハリ良く目立つ。ボーカルもクッキリと分離し、奥行きも充分。「LIVIN' FOR YOU」のダブリング・ボーカルはやや細身だが優しいタッチで、リズム隊も柔和だ。情熱的なギターソロでは深いハーモニーが味わえる。
Billy Joel『THE STRANGER』
77年に発表された、ビリー・ジョエルの出世作で、グラミーにも輝いた名盤。発売30周年記念としてLP(輸入)もリリースされた。180gの重量盤だ。全体的に伸びやかで、各々の音像は質感滑らか。「MOVIN' OUT」では、凝縮されたキック&ベースの押し出し良く、ボーカルは伸び良く素直で、レンジ感、立体感も良い。「THE STRANGER」のピアノはアタックが少し甘めで、すっきりとした高域と太目の低域がバランスよい。
中島美嘉『FIND THE WAY』
03年発表のシングルLP盤。アメリカプレスによる45回転仕様。発売当時シングルCDはレーべルゲート仕様だった。重厚なストリングスはアタックがマイルドで甘く広がる低域が心地良い。ボーカルの音像はソリッドに定位し、リバーブの余韻も清々しく感じられる。ピアノのローエンドもゆったり伸び、ハーモニクスも豊かに響く。潤いに満ちた音場で、高さもあり、澄み切った音ヌケの良さも味わえる。粒立ち良い質感と色彩豊かな音色が魅力的だ。
筆者プロフィール
岩井 喬  Takashi Iwai

1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオで勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。