レグザが到達した高画質の頂点
インタビュー風景
現代の映画、舞台芸術はそのビジュアル表現において「コントラスト感」がますます重視される潮流が生まれつつある。そして新しいREGZA<レグザ>では、最新のコンテンツに対応した画がつくり上げられている。松山氏、山之内氏が自身のリファレンスソフトを持ち寄り、新REGZA<レグザ>の表現力を語り合った。



−−「コントラスト感を重視する」。これが新REGZA<レグザ>の画作り上のキーワードと言えそうです。今までのディスプレイは階調表現力に重きをおいて開発されるケースが多かったと思いますが、なぜその方針をあえて変える必要性があったのか、お話しをうかがうことにいたしましょう。

松山 それは、コンテンツの作り方と意識が変化しているからです。決してテレビを観る視聴者の環境だけが変わっているわけではありません。例えば映画の世界では、ヨーロッパでまず変革が始まり、ハリウッドにもそれが伝播しています。

山之内
 どのように変化しているのですか?

松山 メイン照明とサブ照明の関係が変わりつつあります。メインライトが広範囲に撮影場所を照らしている中で、サブライトを顔に当てると陰を作ることなく人物を描写することが出来ます。これが映画撮影のセオリーです。ところが最近では、昔では考えられなかったカメラスピードと撮影範囲の広さを、演出上の武器として用いる映画が多くなってきました。

山之内 サブライトを多くの箇所に配置するのは手間もコストもかかりますしね。

松山 あえて映像のテイストを統一せずに光を落とすところは落とす。顔の陰がきつくなってもしょうがないという発想です。

山之内
 そうすると、当然、コントラストが非常に強い映像になりますね。

松山 観客がその手法を支持したこともあり、これが現在の映像文化全体のトレンドの一部となっているのです。

山之内
 ディスプレイ側でもその動きに対応する必要がありますね。

松山 その通りです。かつてのブラウン管方式ではコントラスト感の強い映像は表現出来なかったけれども、現代のフラットディスプレイでは、いわゆる硬い映像を容易に作ることが出来ます。

▲ZH500/ZV500シリーズには、Z3500シリーズより継承する映像処理エンジン「パワー・メタブレイン」を搭載。ファームウェアを更新し、新たな高画質技術が投入されている(写真はクリックで拡大します)

山之内 映画だけでなく、舞台芸術の世界でもやはり変化が起きています。かつてはオペラ、バレエ、演劇のいずれでも、リアルさを追求することが目指す方向性として一致していました。つまり、観客はあたかもそこの世界に実際にいるかのように体験・実感出来るようなセッティングを作り込んでいたわけです。ところが時代が下がるに従って、リアリズムを追求することが必須条件ではなくなりました。抽象化・象徴化されたセットを多用する舞台が多くなってきたのです。

松山 舞台でもセオリーを崩すものが出てきたということですね。

山之内 コントラストの強い照明を当てる舞台設定が非常に増えてきたのです。そのことで従来とは違う緊張感を生み出そうという動きです。個人的に受け容れられるものもあればそうでないものもありますが、演出手法が新しい感動を与えることに成功しているケースは確かに存在します。当然、家庭用のテレビでも舞台上の新しい冒険が表現出来なければなりません。


山之内 さて、今回私が特に映像チェックに活用したのは『シャイニング』と『オペラ座の怪人』です。前者はダニーという子役の肌色が、柔らかくて透明感があるかどうかに注目しました。視聴の結果、新REGZAが<レグザ>非常に素直な描写力を持っていることが分かり、大変満足致しました。『オペラ座の怪人』については、『シャイニング』とは画作り上で対極にある作品として選びました。つまり、人為的に作られた映像の面白さや刺激、美しさを描ききることが出来るかどうかを確かめたわけです。この作品に関しては、あまりにも「ツルッ」とした滑らかさが目立ちすぎて、フィルムグレインが感じられないと批判する方もいると思います。ですが、それ自体が制作者の意図なのです。その意図をしっかりと新REGZA<レグザ>は表現していたと思います。リアリズムに溢れた作品と全く逆の作品、この両者を一台のディスプレイで正確に映し出すことが出来たと思います。

松山 「ZH500」「ZV500」では、全体的に暗い映像に対してのコントロールが非常に巧みになってきたと思います。いやらしい色付きが減ったことで、映像の質を高めている。数世代前の東芝の液晶は、階調云々の話をする以前に、青系の色付きが目立っていました。ですが、最近のモデルではその欠点が完全になくなりました。

山之内 余計な色付きがなくなれば、階調も生きてくるはずですね。

松山 ええ。そして、今回の製品ではコントラスト感を重視することで、黒が黒らしく表現出来るようになりました。全く表情がない無の映像、本当の意味での闇が映像として今回の製品では感じられるようになってきました。

山之内 明るめの映像ではいかがでしたか?

松山 『オール・ザ・キングスメン』を観ました。これは窓外からのハイライトの光と室内に座っている人物の対比、写真としての完成度が高いショットを選んでチェックしてみましたが、ここが非常に上手く表現出来ていましたね。この作品を撮ったカメラマン、パヴェル・エデルマンはアンジェイ・ワイダと組んだこともある、ヨーロッパの良心と言っても良いカメラマンですが、ヨーロッパ的な暖かい光をフィルムに定着出来る人なのです。この作品の中には、ノイズっぽく見える必然性があるシーンがあります。あえてそのノイズを取って欲しくない、ノイズとして見えないノイズを感じさせて欲しいと思っていました。良い意味での映像の粗さ、階調の繋がりの中にある粗さを感じることが出来れば、そこに空気感が感じられるということなのです。それを期待していたのです。

山之内 コントラスト感が大事だとは言え、階調性を全く無視するわけにはいきませんからね。

松山 階調と階調の繋ぎにある空気感も出して欲しいと思って観ていたのですが、REGZA<レグザ>は意外とこれがいけるのです。ノイズが見えるという単純な意味ではなく、空気が感じられるのです。「シャープネス・オプティマイザー」の働きの中にそれを表す力が込められているのでしょうか。

山之内 クリント・イーストウッドの『許されざる者』もご覧になっていましたね。

松山 このディスクには、ホワイトバランスの取り方がデリケートにならざるを得ない表現の難しいシーンがあります。REGZA<レグザ>はそのシーンも難なくクリアしていましたから、テレビとしての完成度がさらに高まったことが良く分かりました。

▲本体の側面と背面にHDMI入力端子を4系統装備。x.v.ColorやDeep Color、1080/24pの映像信号入力に対応する(写真はクリックで拡大します)