レグザが到達した高画質の頂点
インタビュー風景
より奥深い映像表現を可能にする高い性能を獲得した薄型テレビ。高品位なソースが増えている現在、多様化した視聴環境のなかで、薄型テレビの能力を最大限に引き出すためには何が課題となっているのだろうか。評論家の松山氏と山之内氏が分析した。

−−ユーザーの方がこれからのテレビに求めているものは何か?その課題にきちんとメーカーが答えているのかどうか?今回はこういったテーマでお二人に論じ合って頂きたいと思います。

液晶テレビを始めとする最新フラットディスプレイは高い水準のクオリティを獲得しているのは間違いありませんが、果たしてそのメリットをユーザーの方全てが享受できているかどうかは分かりません。なぜなら、テレビ性能の100%を引き出すためには映像調整機能などを高度に使いこなす必要があるからです。全てのユーザーが等しく高クオリティの恩恵を受けるためには、テレビの仕組みや構造を全面的に見直し、新たな提案を行う時期に来ているように感じられます。


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▲山之内 正氏

山之内 最近、東芝が行った調査によれば、いわゆる映像調整モードを積極的に活用している方はごく僅かで、比率で言えば3%程度に過ぎないということのようです。実態としては確かにこの程度なのかもしれません。

松山 非常に少ないですね。

山之内 現在、家庭用テレビで視聴できるコンテンツの種類は非常に多岐に渡っています。そして信号形態も多様化している。SD信号とHD信号があり、HD信号の中には解像度の違うものが混在している。それだけでなくMPEG-2やMPEG-4 AVCといったコーデックの違いもあります。これらを一台のディスプレイで全てを表現する必要性がありますが、視聴者側でもデジタル映像の恩恵を受けるためには、かつてのアナログ放送の頃とは異なって、信号形態や視聴環境を見極めて最適な調整を行う必要性があるはずですね。ですが、実際にはあまりにその操作が複雑すぎて、せっかく乗せた機能が満足に使われていないという可能性が高いはずです。

松山 これは、フラットディスプレイ全盛の時代だからこその固有の問題というわけではなく、かつてのブラウン管時代でもやはり同様に映像調整機能はほとんど使われていなかったと思います。

山之内 一回決めた映像モードをほとんど変えずに、その後は調整も行わない、というのが大多数のユーザーの方の視聴スタイルだとしたら、確かに悲しいことです。場合によっては店頭用ダイナミックモードそのままで観ている人もいるはずです。

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▲松山凌一氏

松山 ブラウン管の頃とは違うのは、現在ではデジタル調整機能が充実してきて、より緻密な調整が可能になって、コンテンツの奥深さを味わえるようになりました。映像調整の重要性は確実に上がっています。

山之内 ただ、そのためには高度の使いこなし技術が要求される…。

松山 機能が進化した一方で、観る側の視聴行動パターンは旧態依然としたスタイルのままです。設計者の立場からすると、一生懸命作り上げたもの(複数の映像モード)を活用してもらえないのは、非常にストレスが溜まるでしょうね。

山之内 そうだと思います。

松山 ブラウン管テレビと液晶テレビの総合力の違いや優劣はさておき、最新の高性能液晶テレビにおいては、既にブラウン管を越えている部分もあります。

山之内 それは特にどの部分ですか?

松山 黒の階調の出方です。これは確実に旧方式を凌駕しています。ブラウン管テレビが表現する黒色は、安定性に難があり、絶対基準と言えるような黒は家庭用テレビでは存在していませんでした。一方、液晶の場合は安定した黒を出すことができて、暗部階調の出方も非常に正確です。輝度やコントラストの部分に関しては、ブラウン管と比べるとまだ不足している部分も確かにありますが、それとても調整が正確にできるのは現代のデジタルテレビならではの強みなのです。

山之内 せっかくできるのに使わないのは、いかにももったいないですね。

松山 映画であれ、通常のテレビ番組であれ、制作者には意図があります。どのようなコンテンツであっても、輝度やコントラスト、階調等々の各映像要素には計算された意思が込められています。テレビ側でもその意図を忠実に再現するだけの実力を獲得しつつあるのに、全く違う映像で観られているケースも多いはずです。やはりそれはコンテンツ制作者に対して失礼だと思いますね。

山之内 現代においては、テレビ鑑賞空間の環境も画一的ではありません。空間を照らす照明の種類も多様化しています。一昔前の日本の住宅には天井に大きな蛍光灯を付けて部屋の全ての光を賄うケースが非常に多かったのです。

今でも基本的には同じ構造が多いのでしょうが、オーソドックスな状況だけを想定してテレビ作りを行えば良いという時代ではありません。光源の中心から遠くなるに連れて段階的に暗くなるという単純明快なものではなく、陰影や勾配も含めた、あるいは硬軟入り乱れた立体的な照明環境を持つリビングルームが最近は多くなっています。

松山 そうですね。

山之内 できる限り部屋を明るくしてテレビを観るのであれば、例えばダイナミックモードのまま観ていても不満を感じないのかもしれません。ですが、多様化した現在の視聴環境では、それぞれの状況に応じて最適な映像モードを選ぶ必要性が増してきているはずです。

松山 かつての平均的な日本の住宅の作りはいわゆるオープンスタイルが主流だったのです。外光をできる限り取り込むことが大事で、それをさえぎって暗くするという考え方は通常の発想ではありません。その慣習が未だに日本人の中には残っているわけですよ。ですから、映像モードの違いによる見え方については、もっとメーカー側で情報を提供する必要がある。取り扱い説明書にそのことを明記するようになってきましたから、改善は進んでいると言えますが。

山之内 同じ設定のままでは、状況によっては映像の見え方が変わってくるということに気付き始める方が徐々に増えてくるでしょうね。

松山 昼間と夜間では光の取り込み方に変化をつける。このことを私たち日本人は考え始めています。テレビそのものがフラットディスプレイに置き換わるプロセスも、ちょうどその動きとリンクしています。ですから、今までは映像調整を行わなかったが、これからも何もしないということもないはずです。

山之内 ですが、ユーザーの行動に責任の全てを委ねるわけにはいきませんから、やはりテレビセット側でコンテンツ制作者の意図が伝わるように作り込んで、製品を市場に提供する必要性があるでしょうね。