TEXT. 山之内 正


■使いやすく、鳴らしやすいV-50シリーズ

V-50Nの底面部。3点支持のスパイクが付属する【クリックで拡大】

V-50はこの価格帯の平均を大きく上回る質感の高い仕上げが最初に目を引く。塗装に深みがあるBR(ブラウン)とPB(ピアノブラック)、斬新なデザイン処理が新鮮な印象を生むN(ホワイトシカモア+ピアノフィニッシュ)と3種類の仕上げが選べるバリエーションの充実ぶりも、エントリークラスのスピーカーとしては珍しいことだ。コストの制約が厳しいこのクラスでは、突き板仕上げを採用すること自体、簡単なことではない。それを考えるとV-50シリーズはかなりのバーゲンプライスといえるだろう。

元気が良く明るいサウンドは、ホーン楽器やパーカッションが活躍するジャズ・フュージョンやポップスとの相性がよい。アコースティックギターの弦のテンションの高さ、ピアノのクリアで粒立ちの良いタッチなどが浮かび上がり、コンパクトなサイズに収まりきらない力強さがある。ボーカルは音像が積極的に前に出るし、パーカッションやピアノが刻むリズムも前向きで推進力がある。ベースはすっきりと抜けが良く、音が出る瞬間のインパクトが生々しい。このサイズの2ウェイモデルにしては能率が高めなので、組み合わせるアンプを選ばない点もよい。使いやすく、鳴らしやすいスピーカーである。

■V-70NWはリボン型ユニットの良さを味わいたい人におすすめ

V-70はオーソドックスで落ち着いた外見を身にまとうが、グリルをはずすとリボントゥイーターが姿を現し、普通の2ウェイスピーカーとは異なるたたずまいに気付かされる。コンパクトな2ウェイスピーカーにリボン型ユニットを採用する例は珍しいが、それはウーファーとのスムースなつながりを実現するのが簡単ではないことが一般的な理由だ。本機は北欧の定評ある専業メーカーのユニットを導入し、クロスオーバー周波数やネットワーク回路設計のカット&トライを繰り返すことにより、その課題を克服したのだという。最初の一音から、その成果がうかがわれる本格的なサウンドが聴き手に迫ってくる。

シンフォニックな響きのオーケストラをかけると、音場の広さと伸びやかさにまず感心した。楽器と楽器の間の空間の見通しがよく、しかも余韻は全体が柔らかく溶け合い、温かみのある響きに包まれる心地よさを味わえる。巧みに設計された小型スピーカーは空間が伸びやかに広がるものだが、V-70にはその良さがそなわっている。リボンユニットならではの指向性の広さと音離れの良さがその資質に大いに貢献していると思うが、低域のレスポンスもしなやかで、高域の反応の良さとうまく調和している。

声楽曲や室内楽の上質な響きにも耳を傾けたい。ささやくような弱音のソプラノは特に美しさが際立ち、表情がとても豊かでよく歌う。チェロの高音域はビブラートの動きが柔らかく、適度な艶が乗って潤いも引き出す。リボン型ユニットの良さを手軽に味わいたい人にお薦めしたい逸品である。

山之内 正
Tadashi Yamanouchi

神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間を過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。