AQUOS DS6ラインに搭載された「高画質マスターエンジン」は主に3つの要素で構成されており、それぞれ異なる効果を発揮するのだが、3つの要素が複合的に作用するケースもあり、最終的な画質改善度はかなり大きい。いくつか実例を挙げながら、具体的な効果を紹介することにしよう。
「Wクリア倍速」は撮影時のシャッタースピードなどに起因するカメラのぼやけを検出し、シャープネス補正などの画像処理後に補間を行う高度な倍速処理で、従来の補間処理に比べて鮮鋭感の高い映像を再現する効果がある。動きのある映像を表示したときに、既存の倍速駆動に比べて明らかに見た目のクッキリ感が向上しており、しかもその効果はあらゆる方向の動きに発揮される。

そのため、スポーツやライブステージなど動きの激しいプログラムはもちろんのこと、ドラマやドキュメンタリーなどでも画面全体の切れの良さが際立ってくるのだ。その効果の大きさを4倍速駆動に匹敵すると表現することも可能だが、コンテンツによってはそれ以上の改善効果を実感できるものもある。

「Wクリア倍速」では、一般的な倍速駆動処理に加え、カメラがパンした際に生じるぼやけも除去する。これにより、さらに鮮明な映像を可能にした


それは「Wクリア倍速」と「アクティブコンディショナー」が相乗効果を生む例において、よりはっきり認められる。「アクティブコンディショナー」は、ノイズ低減やコントラスト調整など、通常は手動で行う画質調整を、シーンごとに自動的かつ複合的に適用する機能で、その設定はなかなか巧みだ。

たとえば、映画やライブコンサートの暗いシーンで、人肌の色合いや色の濃さが沈んでしまう場合など、ほどよい加減で色を乗せ、見た目のコントラスト感が向上。さらに、背景の暗部など、ややノイジーに感じられる部分には適量のノイズリダクションが適用されるため、ざわざわとしたノイズが消えて、落ち着いた印象を生む。コントラスト改善やノイズ低減のさじ加減が巧みなので、それぞれのシーンの雰囲気が一変してしまうようなことはないし、フィルムのグレインが消失してしまうといった副作用も見当たらない。画質改善処理の按配をていねいに追い込んだ結果だろう。

明るい環境だけでなく、完全な暗室での視聴も行った。映画リビングモードでは明るさセンサーによって、画面輝度や色温度を自動調整する


「アクティブコンディショナー」の効果によってコントラスト感が向上し、ノイズ感が収まった映像では、最初に紹介した「Wクリア倍速」の効果がいっそう際立つ。やや明るめのリビングルームで家族がいろいろなコンテンツを楽しむ場合など、常用をお薦めしたい機能である。

映画モードでは倍速駆動やアクティブコンディショナーをオフにすることにより、従来のAQUOS同様、原画に忠実な映像を再現することもできるわけだから、画質調整に精通した映画ファンは両方の設定を上手に使い分けるといいだろう。

DS6ラインが従来モデルに比べて消費電力を大幅に抑えていることは仕様を見れば明らかだが、それを実現できた主な理由として、きめ細かいバックライト制御の存在が大きい。バックライトを単純に減らしただけでは画質への影響が大きく、明るさムラが発生するおそれがあるが、DS6ラインではその心配はないとみてよい。「アクティブコンディショナー」がコントラスト感の改善に寄与していることもあり、実際の映像は、高輝度・高コントラストパネルを導入した場合の印象に近いのだ。

画質を向上させたうえで電力消費も抑えるという志向は、これからの社会環境の変化を見据えたアプローチとして高く評価できる。

山之内 正 Tadashi Yamanouchi

東京都立大学理学部卒。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、定期演奏会も開催する。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はAV/オーディオ機器の評論にも反映されている。