新開発の「高画質マスターエンジン」を搭載し、これまでのAQUOSシリーズからさらに進化した映像処理を実現したDS6ライン。その画作りのねらいと高画質を支える新技術の詳細について、山之内 正氏がAVシステム事業本部 要素技術開発センター 副参事の小池晃氏にインタビューした。

 

シャープ(株)AVシステム事業本部 要素技術開発センター 副参事の小池晃氏(左)と山之内 正氏(右)
山之内氏:今回のAQUOS DS6ラインには「高画質マスターエンジン」という映像処理エンジンが搭載されています。AQUOSがこういった名称を前面に押し出すのは初めてのことではないでしょうか。はっきりとした意志が感じられ、一歩踏み込んだ印象を受けます。

小池氏:その通りです。「高画質マスターエンジン」は映像信号処理をブラッシュアップすることで、さらなる高画質化とエコを両立させるものです。現在の液晶テレビでは省エネやエコが非常に重要なテーマとなっていますが、消費電力を落としたことにより画質が犠牲にならないようにすることが大切だと考えました。

山之内氏:その考え方に私も賛成です。テレビは基本的にエンターテインメントのための機械です。いくら消費電力を抑えても、それによって映像に影響が出てしまい、映像を見る楽しみが少しでも薄れるようなら、せっかくのエコの意義が薄れてしまいます。

小池氏:そうですね。私どもとしては高画質とエコの両立はもちろん、さらに充実したネットワーク機能を盛り込むことで、お客様に付加価値を提供したいと考えております。

山之内氏:「高画質マスターエンジン」については別項で解説していますが、「Wクリア倍速」の映像を実際に見てみたら、ずいぶん効果が高いことに感心しました。

小池氏:動画解像度を向上させる技術には4倍速・240Hz駆動などの処理がありますが、私どもとしては、この技術をしのぐ、放送を受信するテレビとして有効な機能と考えております。カメラのパン時に生じるぼやけを検出し、倍速処理する際に輪郭強調等で鮮鋭化することで、動画ぼやけを抑えることが可能になりました。

山之内氏:その効果は着実に出ていますね。倍速駆動から4倍速駆動への進化は、ソースによってはなかなか効果を感じにくいこともあるのですが、「Wクリア倍速」では効果が非常に体感しやすいと感じました。

 

DS6ラインと旧モデルを見比べる山之内氏
山之内氏:DS6ラインの映像は非常にコントラストが高いのも特徴です。同じスペックのパネルを搭載した旧製品と比べても、消費電力が下がっているのに、映像はむしろ明るく感じます。

小池氏:それはまさに「高画質マスターエンジン」の成果ですね。単純にバックライトの本数を減らすと画面が暗くなってしまうので、新たな光学シートを採用したり、高画質マスターエンジンの新たな映像処理アルゴリズムによりコントラスト感を高め、明るさ感を引き出すことができました。

山之内氏:「アクティブコンディショナー」ではコントラスト感の改善に加え、適応型のノイズリダクションも追加しましたね。尾引ノイズがほとんど発生しないことに驚きました。

小池氏:映像コンテンツには、ノイズリダクションを強く働かせるべきもの、そうでないものなど様々なパターンがあります。アクティブコンディショナーでは映像を細かなブロックに分け、それぞれのブロックの動きを分析することで、ブロックごとにノイズリダクションの効果を細かく調整しています。シーンに応じて最適なノイズリダクションになるよう、自動的に調整するのが特徴です。ただしこれを単純に適用すると、映画のフィルムグレインまでノイズとして判定して除去してしまうので、映画ソースと判断した場合にはノイズリダクション効果を抑えています。また今回のDS6ラインでは、ビットレートに応じてMPEGノイズリダクションの効果を調整する機能も搭載しています。BSや地デジのビットレート、またCSのような放送局や番組によって様々なビットレートで放送されており、動画を高画質に視聴するのに有効だと考えています。

デジタルノイズリダクションの設定画面。アクティブのほか強/中/弱/しないの4段階の設定も行える

山之内氏:ユーザーにとって「アクティブコンディショナー」の最大のメリットはどこにあるとお考えですか?

小池氏:これまでも「プロ設定」に色々な機能を追加してきましたが、これらを使いこなせる方の数はどうしても限られます。「アクティブコンディショナー」では細かな機能をご存じなくても自動的に最適な画質に調整しますので、どなたでも高画質な映像をご覧いただくことが可能になります。

 

山之内氏:さて、ここからは実際の画作りについてくわしく聞いていくことにしましょう。ずばり、DS6ラインの画作りの特徴はどこにありますか?

小池氏:今回のDS6ラインでは、「ダイナミックモード」「標準モード」「映画モード」「映画リビングモード」など、すべての映像モードで画質をこれまでのAQUOSからブラッシュアップしました。

山之内氏:AQUOSにはこれまで培った画作りの伝統があるかと思います。今回の画質のブラッシュアップはその延長線上にあるのか、それとも新しい発想を盛り込んだのか、どちらでしょう。

小池氏:どちらも該当しています。新しい発想という部分では、ダイナミックモードの画作りをこれまでと変えました。また映画モードのように、これまでの思想を崩さず、着実な進化を遂げたモードもあります。標準モードなどでは「アクティブコンディショナー」によってよりコントラスト感の高い映像を実現できました。

 

「原信号に忠実」という基本的な思想は全くぶれていない、と語る小池氏
山之内氏:当サイトの読者はメインソースとして映画をご覧になる方が多いと思います。その場合には「映画モード」と「映画リビングモード」の2種類を用意していますね。

小池氏:はい。まず「映画モード」ですが、これは文字通り映画ソースに含まれている信号をそのまま引き出すのがねらいで、輝度特性(2.2のガンマ)と色特性を、原信号に対して忠実であることをねらいに作り込んでいます。これによりフィルム感を表現しています。これまでの映画モードと思想は全く変えていませんが、今回、階調をよりなめらかに表現することが可能になりました。

山之内氏:それはどういった技術で可能になったのでしょう。

小池氏:2004年以来AQUOSでは、入力信号を超えた階調を再現する、当社独自のBDE(Bit Depth Expansion)階調表現技術を搭載してきました。今回DS6ラインに搭載した「高画質マスターエンジン」ではこの技術を一層ブラッシュアップし、当社のリアル10bitパネルの性能をあますところなく引き出すようにしました。グラデーション映像(ランプ波形)などをご覧いただくと、これまで微妙に段差が見えていた部分もなめらかに表現でき、12ビット相当の味わい深い階調表現が可能になっていることがお分かりいただけると思います。

山之内氏:「映画リビングモード」も進化したようですね。

小池氏:映画リビングモードは、暗室から明るめのリビングまで、様々な明るさに対応する映画視聴用モードです。

今回「映画リビングモード」には、新たに本体前面の明るさセンサーとの連動機能を設けました。明るい部屋では色温度を9,300Kに設定しているのですが、部屋を暗くすると6,500Kにまで自動的に落ちます。もちろん、バックライトの光量も同時に下がります。このときの映像の変化は1分程度かけて行われますので、お客様が急激な映像変化に驚かれることはありません。つまり、映画リビングモードでアクティブ設定をONにしておけば、映像内容や周囲の明るさに応じて最適な映像に調整してくれるというわけです。

山之内氏:それにアクティブコンディショナー機能による効果も加わるわけですね。

小池氏:そうです。映画リビングモードでも輝度特性(2.2のガンマ)を固定していますが、アクティブコントラストによって階調を保持したままゲインを持ち上げます。さらにバックライト制御もシーンの明るさに連動して同時に行い、コントラスト感を高めています。明るめの環境で映画を観る際にもしっとりしたフィルムテイスト映像を表現できます。

 

山之内氏:さきほど「画作りに新しい発想を盛り込んだ」と仰ったダイナミックモードは具体的にどう変わったのでしょう。

小池氏:AQUOSはご購入者の年齢層が幅広いので、ダイナミックモードの明るい映像が好みという方もいらっしゃいます。このため、これまでのAQUOSでは「家庭でも使えるダイナミックモード」をテーマに、輝度ピークを飽和させないという方針で取り組んできました。

ただし、明るさをやや抑えめに設定していたため、店頭などでは他社製品に比べ、やや暗く感じられることもあったようです。そのため今回は思い切って、ダイナミック感、パワー感を強め、映像のインパクトを高めました。ただし、一概に明るさを高めるのではなく、放送コンテンツで時折見られる、輝度100%を超える映像については自動追従して、すべての階調を自然に表現できるよう気を配っています。

たとえば最新のデモソフトではバレエの「コッペリア」をテーマにしているのですが、バレリーナの筋肉の躍動感や質感は、映画(リビング)モードや標準モードだけではなく、ダイナミックモードでもしっかりと表現できているのではないかと思います。

 

フルHDのインターネットサービスを大画面で閲覧するインパクトは想像以上に大きかった、と山之内氏は語る
山之内氏:ネット機能が充実しているのもDS6ラインの特長の一つです。「Yahoo! JAPAN for AQUOS」などのフルHD対応サービスを実際に見てみると、フルHDであることがこんなに大きな意味を持つのかと驚きました。

小池氏:PCモニターは大きくても20-26インチ程度が中心ですが、今回のDS6ラインでは52V型モデルまでご用意しています。このサイズでフルHDの航空写真などを見ていただくと、非常に大きなインパクトがあると思います。

山之内氏:さらに「Yahoo! JAPAN for AQUOS」向けの新サービス“動画チャンネル”がスタートし、DS6ラインはこのサービスに対応しています。ネットを中心に映像コンテンツがますます多様化していますが、画作りを手掛けられているお立場として、今後どのような方針で臨んでいきますか。

小池氏:AQUOSシリーズは輝度特性(2.2のガンマ)を基本に、「原信号に忠実であること」を基本に画質を作り込んでいますが、この基本は崩さずにやっていきたいですね。動画にしても静止画にしても、変に加工してしまうと非常に見づらくなり、目が疲れてしまいます。

 

山之内氏:コンテンツの多様化という意味ではゲームも無視できませんね。

小池氏:DS6ラインにはゲームモードも用意しており、コントローラー操作からの追従性を重視し、遅延を極力短くしました。また画質については、長時間集中して画面を見ても目が疲れにくいよう工夫しています。

山之内氏:最近、デジカメで撮影した写真をテレビで見るというスタイルが徐々に定着してきました。この点についてはいかがですか?

小池氏:我々としてもこのニーズに対応したいという思いから、今回「フォトモード」を新設しました。このモードではsRGBに近い映像が得られます。HDMIケーブルでデジカメを接続したり、AQUOSレコーダーの「アルバム」機能を使って写真を表示するときに、より美しい静止画表示が可能になります。

山之内氏:こうしてお話を伺って、DS6ラインには本当にたくさんの注目技術が盛り込まれていることがわかりました。

小池氏:やはりテレビは高額な商品ですから、せっかくお買い上げ頂いたら少しでも良い画質で見ていただきたいという思いで、シーンに応じて自動的に映像を調整するアクティブコンディショナーやWクリア倍速などを搭載させていただきました。映像解析処理のノウハウや技術は日々進化し続けていますが、今回トライした様々な技術は、今後のテレビ開発の大きな資産になるのではないかと思います。開発の立場からも満足できる製品に仕上がったと自信を持っています。

山之内氏:本日はありがとうございました。