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待望の中級ハイブリッドイヤホン

AKG「N40」を3人の批評家がレビュー。“3つのAKG史上初”イヤホンの実力を徹底解剖

公開日 2016/07/29 10:00 岩井 喬/野村ケンジ/山之内 正
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山之内 正がレビュー

「音楽を聴く楽しみ」に浸らせてくれるイヤホン

AKGは音楽の聴かせどころを心得たブランドである。Nシリーズの上位モデルとして登場した「N40」も例外ではなく、試聴を進めるにつれて、その印象はどんどん強まっていった。音質チェックのために最初は耳を緊張させて分析的に聞いていくのだが、ふと気が付くと音よりも音楽と演奏そのものに引き込まれている。音の出方に気になるところがあると、そうはいかず、なかなか演奏に集中できないのだが、N40の音はそれとは対極で、すぐに音楽に浸ることができる。

まず、声の生気あふれる感触が素晴らしい。スコットランド室内管弦楽団のサポートでソプラノのエリザベス・ワッツが歌うモーツァルトのアリア集(リンレコーズ)を聴くと、ツェルリーナやフィオルディリージに成り切ったワッツの見事な歌唱に感嘆することしきり。瑞々しい中音域と転がるような高音の輝きをストレートに引き出し、発音も明瞭そのもので、どの音域にも引っかかりがない。ダイナミック型とBA型の2ドライバー構成だが、そのことを意識させないつながりの良さと統一感のある音色にも感心させられた。


イ・ソリスティ・ディ・ペルージャのヴィヴァルディ《四季》(カメラータ)を聴くと、音域バランスの巧みなチューニングに気付かされる。低音は締まりすぎず、かといって節操なく緩むこともなく、低音楽器が一番低い音域からアンサンブル全体を支えてリズムを確実にリードする。さらに、この音源では周波数レンジに余裕のあるハイレゾ録音のメリットが非常にわかりやすく、N40の再生帯域の広さをうかがわせた。ローエンドも超高域も限界点を聴き手に意識させず、自然に伸びているので、超低音の暗騒音から倍音領域の微妙な揺らぎまで実感させる。まるで開放型のヘッドホンやスピーカーで聴いているようなオープンな音場の広がりは、N40を選ぶ大きな理由になりそうだ。

付属する3種類のフィルターを交換しながら、レイチェル・ポッジャー率いるブレコン・バロックのヴィヴァルディ《調和の霊感》(チャンネルクラシックス)を聴く。

メカニカル・チューニングフィルターは手だけで簡単に交換できる

「REFERENCE」からフィルターレスの「HIGH BOOST」に変えると、ギターやチェンバロの高音域がスッと浮かんでリズムの振幅が大きくなるが、ヴァイオリンの高音域が刺激的になる様子はなく、聴き疲れするような音調にはならない。

また、高域の減衰が大きくなる「BASS BOOST」に変えると、今度は低弦やテオルボが刻むリズムに厚みが増し、低音楽器がアンサンブルが牽引している事実に気付かされる。このフィルターで聴いても低音が過剰にふくらんだり、楽器のイメージが広がりすぎることがないので、重心が低いバランスを好むクラシックファンならこちらを常用するのもありだろう。N40のフィルターは純粋なアコースティック方式なので、極端な音調変化などの副作用がなく、情報量が犠牲になることもない。

入念なチューニングときめ細かい音質調整機能で「聴く楽しみ」を追求したN40は、フラグシップのK3003と同様、あくまで音楽を中心に据えた設計思想を貫いている。アーティストとの距離を縮めて演奏に浸りたい音楽ファンにお薦めしたい。

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