公開日 2026/06/25 16:47

スタジオエンジニアが“本気”で追い込んだワイヤレスイヤホンの実力は?MEMSドライバー搭載、「NEXIEM」の新挑戦

完全ワイヤレスイヤホンの「原点」とも言える音
編集部:筑井真奈
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エミライは、現在クラウドファンディング中の完全ワイヤレスイヤホン「NEXIEM Limited Studio Master Edition」についての説明会を開催。本機のイコライジングに関わっているprime sound studio formのエンジニアによる解説が行われた。

prime studio sound formのエンジニアである峯岸良行氏、森元浩二.氏、太田敦志氏

NEXIEMは、FIIOやiFI audioなどの輸入を手掛ける輸入商社であるエミライの自社ブランド。大手メーカーが手を出しにくいコンセプト、オーディオファンへのユニークな試みをしたいという思いから立ち上がったブランドで、「NEXIEM Limited Studio Master Edition」(以下NEXIEM)はその第二弾プロダクトとなる。

「NEXIEM  Limited Studio Master Edition」

エミライは、以前NOBLE AUDIOの「FALCON」の音質チューニングにも協力した経緯もあり、イヤホン開発における独自のノウハウを積み重ねてきた。今回のNEXIEMは、「MEMSドライバーの新しい可能性を感じており、これを製品化することがひとつの目標です」と開発に関わる島幸太郎氏は力説する。

高域にはMEMSドライバー、そして10mm径の大型ダイナミックドライバーを搭載したハイブリッド構成で、Embeded Transmission Line(ETL)と呼ばれる気流の流れを整える技術も搭載されている。

オーディオの音質チューニングというと、特にピュアオーディオの世界においては機構的、電気的に音質を突き詰めるのがふつうのありかただが、「完全ワイヤレスイヤホンの音質設計においては、イコライジングが必須となります」と島氏は力を込める。

イコライジングが避けられないならば、いっそ「音のプロ」であるスタジオエンジニアと一緒に音を作り込むことで、新しいイヤホンの可能性が追求できるのではないか、というのが島氏のアイデアである。

島氏は過去にサプライヤー(部品メーカー)と音質設計をしたこともあるというが、「片耳で調整してくれ」と言われることもあり、それでは質の高い音響製品を作り込むことができない、という問題意識もあったという。

そんな前代未聞の取り組みに協力してくれたのが、エイベックスのスタジオであるprime sound studio formの峯岸良行氏、森元浩二.氏、太田敦志氏。峯岸氏は名古屋芸術大学で教鞭をとるほか、アイナ・ジ・エンドの「革命道中」のドルビーアトモスミックス制作も手掛けるなど、学術と実制作の両面から音の可能性を追求している。

森元氏は長年浜崎あゆみの録音に関わってきたベテランエンジニア、太田氏はLDHの作品制作に関っているという。現代の最先端の音作りに関わるエンジニアたちの耳によって、「NEXIEM」の音質は練り上げられている。

これまで「音質監修」を謳う形でスタジオエンジニアがオーディオ製品開発に協力してきた事例は多い。だが、今回は、エンジニアたちが自ら設計ソフトをあやつり、納得いくまで作り込んでいる点が画期的な点である。

開発途中の「NEXIEM」。ハードウェア的にはすでに完成しており、イコライジングを最終調整して出荷される

逆にいうと、エミライ側は最終的な“音決め”には積極的には関与していない(もちろん意見交換やサポートはおこなっている)。これも既存のオーディオメーカーにはなかなか難しい点でもあり、オーディオメーカーではなく、オーディオを専門とする輸入商社であるからこそできる新しい取り組みでもある。

エミライ側からは、エンジニアたちに「違和感のないようにしてください」というリクエストを出したのみということで、基本的な音質チューニングはエンジニア側に一任された。

ではそのイコライジングというのは、具体的にどういう手順で行われるのか?説明会では「QUALCOMM TRB1200」と書かれた青いボックス型の専用開発ツールが披露された。開発作業の流れとしては、これとイヤホンを有線で(無理やり)接続。ボックスはWindowsパソコンと接続し、専用ソフトウェアでイコライジングデータを作成、イヤホンに書き込むという形となる。

QUALCOMMの開発ツール

ソフトウェアにはグラフィックイコライザーとパラメトリックイコライザーが入っており、その設定で音を作り込んでいくのだという。

森元氏は今回のプロジェクトについて、「エンジニア的に答えはひとつしかない、それを目指そう」という思いで進めてきたという。

もちろんエンジニア個々人の好みの傾向はあるにせよ、この曲はこう聴こえる、というゴールはエンジニアは必ず持っている、その答えに向けてチューニングを行っているという。

ちなみに、チューニングにおいてはいきなり QUALCOMMのソフトをいじるわけではなく、DAW上で音源そのものについて、望ましいカタチのイコライジングを作成。それに類似したカーブを QUALCOMMのSoC側で作成して書き込む、という流れで行ったそうだ。

エンジニアチームはDAWの扱いには習熟しているので、そのほうがより狙った音質に近づける、という考えからそのスタイルが採用されたという。

専用プログラムも作成しながらスタジオエンジニアの手で音質を追い込んでいった

DAWである程度イコライジングを作り込んでから、SoCに類似のカーブを書き込むという手法を採用

音質チューニングは3か月程度の時間をかけて追い込んできた。4月のヘッドフォン祭、また5月の札幌・ポタフェスにも開発途中の実機を持ち込み、来場者からのフィードバックも反映されている。

現時点で9割くらいの完成度で、スタジオの他のエンジニアやメディアも含めた多くの人にさらに聴いてもらい、最終的な詰めを行っていくという。

4月のヘッドフォン祭の会場でもNEXIEMの音質のA/B比較を行い、多くのフィードバックを得た

ということで試作機のサウンドを聴かせてもらった。まずは「素の状態」から、ということで、まったくイコライジングされていないイヤホンの音を聴くと…これはなかなかに厳しい。例えるならば3日間外に放置した食パンをかじっているような味気なさで、パサパサガサガサ、潤いも艶も感じられない。

完全ワイヤレスイヤホンと専用開発ツールを首にかけられるネックバンドもエンジニアチームの自作

続いてエンジニアチームが作り上げたEQをかけて聴かせてもらうと、これが驚きの瑞々しさとナチュラルさを引き出してくる。帯域バランス感も自然で、過度な強調感がない。

イコライジングによって、“自然な音質”が得られるというのもなかなか不思議な話でもあるが、最初のガサガサ食パンを食べたあとでは、その結果にも納得せざるをエない。

オーディオは”趣味”のアイテムなので、自分の好きな音を追求する、という楽しみがあることは大前提の上だが、メーカーごとの様々な音づくりの思想の違いを楽しむ、ということも大きな魅力である。

そのためには、ある意味「原点」を知ること、原点の音を理解したうえでその差分を捉えたほうが、その違いはより明白になる。NEXIEMはその「原点」になりうるイヤホンなのではないか、とも感じた。

もちろん価格帯的に1万円クラスのイヤホンなので、音質面で限界があることもたしかだ。低域の深みや高域の伸びやかさなどには課題も感じられるが、それも含めて”高価格帯イヤホン”ではどれほどの音質設計がなされているか、ということを判断する材料にもなるだろう。一家に一台、リファレンスとして手元において損はないイヤホンというわけだ。

「NEXIEM limited Studio Master Edition」は現在GREEN FUNDINGにてクラウドファンディング中で、支援金額は12,100円から。支援期間は当初の予定から延長され、7月31日(金)までとなっている。

「イベントでのお客さんの声も反映されていますから、ある意味クラウドファンディングらしい製品開発ができたんじゃないかと考えています」と島氏。製品開発のスタイルまで含めた、オーディオの新しい可能性を秘めたプロジェクトに期待である。

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