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日常の中に潜むオーディオという遊び

カセットの魅力再発見!懐かしの中古デッキで思い起こすオーディオ“原体験”

公開日 2025/08/14 06:45 生形三郎
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オーディオの原体験は「カセット」にあり!

今、カセットテープが再び熱い盛り上がりを見せている。ポータブルなプレーヤーや小型スピーカーを内蔵したモデル、そして、いわゆるラジカセタイプの製品が多数リリースされ、市場を賑わせているようだ。

以前より、カセット全盛期に作られた「ラジカセ」や「ミュージックテープ」の中古売買が賑わいを見せたり、カセット専門店が登場したりと静かに話題となっていたが、ここにきて、アーティストによるカセットテープでの作品リリースが増えたり、先述のプレーヤー機器が続々と登場したりと、より一層カセットへの注目が集まっている。

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例えば、2023年末に公開され話題を呼んだヴィム・ヴェンダース監督の映画「PERFECT DAYS」で、カセットテープの音楽が映画を構築する重要なモティーフとして登場していることも、まさにこの流れを体現しているものだろう。

そして、これまであまり意識していなかったが、1980年代生まれの筆者自身も、実は、オーディオの原体験は、カセットテープの音であることを再認識させられた。

30年以上保管してあったカセットテープ。紙ケースのヨレ具合が味を出すカセットのパッケージも好きだった

父親はカセットデッキで熱心にクラシックのエアチェックをしていたし、幼少の頃、親にねだって買ってもらったダブルカセットタイプのラジカセをベッドの脇に据えて、眠りにつく前に、いつも音楽やラジオを聴いていたことを思い出す。

さらには、今で言うボイスレコーダー的な用途のポータブルタイプのカセットレコーダーで日常のさまざまな音を収集して遊んだ記憶、思春期にはカセットMTRで自作曲の多重録音に没頭した記憶などがどんどん蘇ってきた。 

すると、すっかりと遠のいていたカセットテープの音を今、改めて聴いてみたい、そんな想いが日に日に増していき、とうとうカセットデッキを入手してしまった。

ソニーの中古カセットデッキをゲット!

できれば、当時自分が使っていたラジカセを買い直してみたかったのだが、さすがにそれはすぐには見つからなかったので、まずは試しにと、中古のカセットデッキを買ってみることにした。

当時ソニー製の機器を使っていたので、今回もソニー製を選んでみた。タイムカウンターやレベルメーターの動きが懐かしい。やはりオートリバースやダブルカセットは便利だ

調べると、家から少し離れたお店に在庫があるようだったので、週末にドライブがてら4歳の息子を引き連れお店に直行。購入したデッキを車のラゲッジスペースに放り込んですぐさま帰宅し、実家から引き上げてきた40年ほど前のカセットテープをセットし再生した。

久しぶりに胸がワクワクした。ノイズリダクションを効かせた、カセットテープならではのマッタリとした質感と、あの細くて薄いカセットテープの頼りなくも生き生きとしたサウンドが、遥か遠い日の記憶を一気に蘇らせたのだ。

普段仕事で接しているホームオーディオ機器やスタジオ機器の音と客観的に比べてみると、ダイナミックレンジ(小さい音から大きな音までの幅)や周波数レンジ(高い音から低い音までの幅)も当然狭い。そして、テープの劣化も含め再生ピッチは不安定だし、もちろんノイズや歪み感も多い。

だが、その不完全な再生が心地よいのだ。不完全だからこそ、音楽に対する聴き手の想像力を刺激するのだと筆者は思う。普段接しているリアルな音がローファイな(そこまでローファイではないが)音に姿を変えてパッケージされることによって、聴き手それぞれの想像が拡がる。

そして何より、それらの不完全な音は、どこか愛らしく、まさに、何の気なしに、日常の中で違和感なく「遊ぶ」のである。

そもそもオーディオ再生の魅力は、その何かしらの不完全さが成せるものなのだと筆者は常々思っている。勿論、実際の音と聴き間違うほどのリアルな音響体験も可能であるが、いずれにせよ、聴き手がそこから何を聴き取って頭の中にイメージするのかが重要であると思うのだ。よって、場合によっては、不完全な方が、ある意味ではリアルな体験を呼び起こすかもしれない。

聴き手へ想像の余白を残すカセット

実際にカセットの音は、気軽な環境で聴いてこそ、その魅力が発揮されるとも思う。筆者宅の場合では、チャンネルデバイダーを用いたマルチアンプ構成のスピーカーよりも、小口径のフルレンジスピーカーがしっくりくる。そう、まさにラジカセの音である。

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そして、試しにと、かつて父親が使っていたような、入念なケアを重ねて音質を追求したハイファイ指向なテープデッキも知人に借りて聴いてみたのだが、やはり、程よくチープなデッキの方が自分にとっては軽快かつ自然体で、自分の中の「カセットの音」のイメージに近く、好きな音のようだった。

やはりここでも、音の情報全てを描き切ろうとするようなスタンスのシステムよりも、敢えて画角を絞り込んだ視界で音響を捉えるような、聴き手へ想像の余白を残すようなシステムの方が筆者はしっくりくると感じたのであった。

聴き手にとっての良い音は様々だし、聴き方によって全く違って聴こえる。音の世界は本当に面白いと改めて実感した機会であった。

そして何より、30年以上振りに正対したカセットテープの音は、実に愛らしくて胸を打つ、特別なものであった。

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