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連載:世界のオーディオブランドを知る(4)オーディオの“イノベーター”であり続ける「LINN」の歴史を紐解く

公開日 2025/01/29 06:30 大橋伸太郎
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こうしたLINNのトータルな音質追求とシステム思考を完結させるワンピースのような製品が1998年に出現する。同年10月9日の東京国際フォーラムの一室。日本のオーディオジャーナリズムの目の前にあったのは、コンパクトながら、ただならないオーラを放つ銀色の物体だった。創業25周年記念のCDプレーヤー「CD12」。アイコニックなLP12に比肩できるものをCDで作ろうという野心が、コードネームからも伺えた。

「CD12」

メカニズム部のピックアップはシャーシやスピンドルモーターからフローティングでアイソレートされ、その動作は自社開発したDSPのデジタルサーボで制御された。D/Aコンバータ部には独自の4Dジッターレス回路を搭載、電源部にはスイッチング電源を独自進化させたブリリアント電源を採用した。アルミニウム金属塊から削り出された堅固な存在感は、LINNプロダクツの礎となった、キャッスル・プレシジョン・エンジニアリングが金属切削工場だったことを思い出させた。

内覧会の時点ではCD12の価格は伏せられていた。実機を前に日本での価格を肌感覚で筆者は150万円、同行の副編集長は200万円を予想した。はたして、CD12の日本での価格は280万円だった。デジタル時代の12は桁違いの技術密度の産物だったのである。

この時期LINNは、初のスタジオモニターグレードのフラグシップスピーカー「KOMRI」を発売する。5ウェイ・6スピーカー構成、バスユニットは定石のアクティブ型。当時の価格で480万円(ペア)。CD12とKOMRIは同社の新しい顔であった。英国流ホームオーディオの伝統的価値観 “GOOD COMPROMISE(ほどよい妥協、生活のなかのバランス)” に留まっていては、もはやアイヴァーの初志に到達することができない段階にきていた。LINNはハイエンドの領域に脚を踏みいれた、いや踏みいれざるを得なかったのである。

「KOMRI」

一方で、“シンプル・イズ・ビューティフル” の軽快なCDレシーバー「CLASSIK」が世界的にヒット、日本価格25万円とリーズナブルな同機は、販路やプロバガンダの工夫も手伝ってLINNの名を一気にポピュラーにした。対照的なふたつのLINNにしたたかなバランス感覚をみる。当然のようにCD12は誕生と同時に名機となる。しかしLINNは十年の後に、その成果をこともなげに捨ててしまうのである。

■オーディオのゲームチェンジャー出現



オーディオとITの融合が模索されていた2007年、LINNは「KLIMAX DS」(以下、DS)を発売する。DSはDigital Streamの略。世界最初のネットワーク音楽プレーヤーである。開発の背景には、1982年にLINNレコーズを設立し長くクラシックCDの制作を行い、録音の現場からオーサリング、さらには家庭での再生で発生する諸問題まで熟知していたことがあった。

AD/DA、フォーマット変換を経た末による録音現場の音質からの乖離はもちろん、CDには再生の都度強力なサーボをかけてドライブメカがディスクを高速回転させエラー訂正しつつ、データを読み取るルーティンの負荷が宿命的につきまとった。

「KLIMAX DS」

それらを取りのぞいた “メカレスプレーヤー” 、振動とノイズの発生源の記録媒体を外部に分離した “ストレージレスプレーヤー” の音質上のアドバンテージに、誰よりも早く気付いたのである。DSにはローディングトレイはもちろん、操作スイッチが見当たらなかった。操作はプレーヤーソフト「Kinsky」「Kazoo」をPCやタブレット等手持ちの端末にインストールして行う。指で触れる可動部分がひとつもない。触感が存在の一部だった20世紀との訣別であった。

192kHz/24bitまでのネイティブ再生を実現したDSは、ハイレゾファイルのダウンロード販売を背景にソース機器の最上位となるが、LINNが賢明だったのは、ネットワーク音楽プレーヤーの着想を独占せず、世界的にフリーとしたことだった。

ストリーミングからインターネットラジオまで、ネットワーク再生機能はいまや世界中のアンプに欠かせない。DSは音質に優れるばかりでなく、ソフトウェアのアップグレードで性能や機能を向上させることができた。オープンアーキテクチャーをソフトウェアで実現したのである。

DSの成功はLINNに大きな決断をうながした。デジタルストリーミング再生こそ今後のオーディオの “本流” と結論し、2009年末をもってCD再生機の製造を終了することを発表した。売り上げの減少は避けられないが、LINNの確信はゆるがなかった。

DSのあともLINNはオーディオの革新の手を休めない。2013年にデジタル伝送システム「Exakt」を完成、ロスレス伝送によるスピーカーシステムの音質の抜本的な改善に取り組む。

DSの登場は、1970年代、LP12がやって来た時の衝撃の再来ともいえる。1980年代にコンパクトディスクの製品化で、1990年代にDVD開発で、2000年代にはSACDやブルーレイディスク、HDMIで主導的な役割を果たした日本のAVオーディオメーカーが、なぜDSを生み出せなかったのか、逆になぜLINNにそれが成し得たのか...。ネットワーク再生の可能性に気付いても製品に育つ土壌が日本にないのである。

2021年発売の「KLIMAX DSM/3」シルバーアノダイズ仕上げ

2025年現在、LINNプロダクツ社の従業員数は170名、工場は創業の地グラスゴーの一ヶ所のみである。創業52年を経て製品カテゴリーは多岐に渡り、今や「北の名門」として世界的な声望を誇っている。

事業規模が大きくなれば、背負うものが大きくなり八方美人の製品作りになる。LINNはそれを自身に許さなかった。冒頭のアイヴァー・ティーフェンブルンの「私の夢は、他のどこを探しても手に入らない素晴しく音の良いミュージックシステムを作ることだった」を堅守していくには、果断さと行動力を失ってはならないのだ。

アナログプレーヤーLP12を丹精をこめて作り続けるが、LINNの売り上げにアナログが占める割合は全体の数パーセントに過ぎない。しかし、LP12は進歩の歩を止めず、その存在が21世紀の今LINNを輝かせる。一方で古い技術、固定観念は潔く脱ぎ捨て顧みないオーディオの前衛である。それが矛盾なく共存する唯一無二の存在である。LINNがLINNである限り、これからもオーディオのイノべーターであり続ける。


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