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【連載】佐野正弘のITインサイト 第8回

FeliCa非搭載 “最後の砦” モトローラが陥落。ついに対応スマホ投入に至った事情

2022/06/02 佐野 正弘
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携帯電話の歴史を語る上で欠かせない端末メーカーの1つ、米モトローラ・モビリティ。前身のモトローラ時代より、3G、2Gどころか、1Gの時代から日本に進出している古参のメーカーで、現在もオープン市場(SIMフリー)を中心に、継続的にスマートフォンを投入している。

そのモトローラ・モビリティの日本法人であるモトローラ・モビリティ・ジャパンが、5月30日に新製品の説明会を実施。6月3日に発売予定のスマートフォン「motorola edge 30 PRO」「moto g52j 5G」の2機種について紹介したが、そのラインアップからは、同社の日本市場における大きな戦略転換が見て取れた。

新製品2モデルから見て取れる、同社の大きな戦略転換



なかでもそのことを象徴しているのが「moto g52j 5G」だ。これはモトローラ・モビリティの中で最も売れ筋となっている、ミドルクラスのスマートフォン「moto g」シリーズの最新機種だが、「j」と付いているとおり、日本市場に向けたカスタマイズがなされており、何より同社がこれまで積極的に対応していなかったIP68の防水・防塵性能と、FeliCaに両対応していることが大きな特徴となっている。

新たに発売される「moto g52j 5G」の背面にはFeliCaのマークがあり、ついにFeliCaに対応したことが分かる

FeliCaに関して言えば、同社が搭載スマートフォンを最後に提供したのは、2012年にソフトバンクから販売された「RAZR M 201M」と、およそ10年前のこと。オープン市場に軸足を移して以降は、FeliCaの採用に消極的な姿勢を貫いてきた。

2012年にソフトバンクから販売された「RAZR M 201M」が、これまでモトローラ・モビリティ製FeliCa搭載スマートフォンの最も新しいモデルとなっていた

それゆえ、ある意味FeliCa非搭載を貫く “最後の砦” となっていたモトローラ・モビリティ。なぜ採用に消極的になったのか、一転してここにきて採用に転じた理由をひもとくと、そこには同社を取り巻く歴史が大きく影響している。

そもそもモトローラ・モビリティは、前身のモトローラの端末販売が大きく落ち込み経営不振になったことを受け、2011年に端末部門を分離して設立された企業。その後同社は2012年に米グーグルへと売却され、さらにその2年後の2014年にはレノボ・グループに売却。現在はレノボ・グループの中で携帯電話事業を担う存在となり、北米や中南米を中心に高いシェアを獲得するなど安定感を取り戻しているが、そこに至るまでにはかなりの紆余曲折を経ているのだ。

日本市場でも、その影響を受けるかたちで携帯電話会社向けのビジネスを縮小し、オープン市場向けへと軸足を移すに至っている。であるが、オープン市場では携帯電話会社による割引が期待できず、価格が製品の評価に直結するためコストパフォーマンスが非常に重視される傾向にある。

そうしたことから、同社ではオープン市場での主軸を、ミドルクラスの「moto g」やその下のクラスとなるエントリーモデルの「moto e」シリーズに置いていた。海外で提供されている低価格の端末を、ほぼそのままの形で投入することにより、高いコストパフォーマンスを実現する戦略を取っていた。それゆえ、カスタマイズが必要で、コストが上乗せされてしまうFeliCaへの対応には消極的だったわけである。

オープン市場での戦略を変化させた、中国新興メーカーの日本市場参入



ただその傾向は、古くからオープン市場に参入している多くの海外メーカーに共通して言えることでもあり、珍しいものではなかった。だが、その風向きが大きく変わってきたのが、OPPOやXiaomiなど中国の新興メーカーが日本市場に参入して以降だ。

これらのメーカーは、海外で大きなシェアを持つ一方、日本市場への参入時期は遅く、市場での存在感を示すには一定のインパクトを打ち出す必要があった。そこで両社は、オープン市場で対応がほとんど進んでいなかった、防水・FeliCaなど日本独自仕様への対応に目を付け、積極的に対応機種を投入することで日本のユーザーから信頼を得て、人気やシェアを急速に高めたのである。

モトローラ・モビリティが、moto g52j 5GでFeliCa対応を推し進めるに至ったことにも、それら新興メーカーの存在が少なからず影響したことは間違いない。対抗してFeliCaを搭載することで競争力を保つ狙いと考えられる。ただそこで問題になってくるのは、カスタマイズによってコストが上乗せされることだ。かつてモトローラ・モビリティ・ジャパンの幹部が、FeliCa搭載で1万円のコストアップになると説明し、話題になったこともあった。

しかしながら、現在モトローラ・モビリティ・ジャパンの代表取締役社長を務める松原丈太氏は、「FeliCa対応にかかるコストはさまざまな要素があり一口では説明しづらい」としながらも、「現在の感覚では1万円というコストアップになるとは考えていない」と話していた。実際moto g52j 5Gは、同社のオンラインストアで3万9,800円と、従来のmoto gシリーズと大きく変わらない価格を実現できており、以前よりは低コストでFeliCa搭載を実現できるようになったことが、今回の対応につながったとも言えそうだ。

現・モトローラ・モビリティ・ジャパンの社長の松原氏は2020年に就任。それ以降、FeliCa対応コストも下がっていると考えられる

FeliCa対応だけではない、もう1つの戦略転換



しかしながら、同社の戦略転換を示しているのはFeliCa対応だけではない。もう1つの新機種であるmotorola edge 30 PROからも、大きな戦略転換を図った様子を見て取ることができる。


もう1つの新機種「motorola edge 30 PRO」。チップセットに「Snapdragon 8 Gen 1」を搭載したハイエンドモデルながら、価格は8万円台に抑えられている
先にも触れた通り、日本における同社の主力スマートフォンは現在moto g/eシリーズだが、2021年には日本にもフラグシップの折り畳みスマートフォン「razr」シリーズの「motorola razr 5G」を投入。低価格モデルだけでなく、端末バリエーションの強化を図るようになった。


モトローラ・モビリティは折り畳みスマートフォン「motorola razr 5G」でソフトバンク向けの端末供給を再開できたが、まだ定期的な端末供給には至っていない
そして、同社の端末シリーズの中で日本市場に唯一投入されていなかった、スタンダードな形状のハイエンドモデル「edge」シリーズも、やはり2021年10月より「motorola edge 20」と「motorola edge 20 fusion」の2機種を投入し、展開を本格化。そして今回のmotorola edge 30 PROの投入により、日本でedgeシリーズを継続投入していく意向が示されたといえるだろう。

そこまでして同社がラインアップを広げる狙いはどこにあるのかといえば、やはりそれは、携帯電話会社向け端末供給の再開を本格化させるためではないかと考えられる。スマートフォンにある程度詳しい知識を持つ利用者が多いオープン市場向けとは違い、老若男女に幅広い端末を提供する必要がある携帯電話会社向けに端末を供給するには、防水・FeliCa対応によるローカライズ、そしてラインアップ強化が欠かせなかったといえるだろう。

モトローラ・モビリティは、motorola razr 5Gで2021年にソフトバンク向けの端末供給を再開させたが、現在のところそれに続く端末は出てきていない。しかしながら、日本でスマートフォン事業を一層拡大する上で、携帯電話会社への端末供給は避けて通れない道でもある。

ローカライズとラインアップの拡大で、携帯電話会社からの信頼を再び獲得できるかが、日本市場における同社の今後を大きく左右すると言える。

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