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長野拠点のパブリックレコード社長がコメント

世界最大のラッカー盤製造工場が全焼。残る日本メーカーは「数ヶ月分の在庫確保済み、増産計画前倒しも検討」

公開日 2020/02/14 19:05 ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
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世界で2つしかないラッカー盤の製造工場のひとつが山火事により火災、全焼したというニュースが2月10日に飛び込んできた。

アメリカのカリフォルニア州にあるApollo/Transcoという会社で、これまで世界のラッカー盤の供給の大多数を担っていた。

AFP通信などの報道によると、壊滅的な被害を受けたという。アナログレコード製造のためにはラッカー盤は絶対に必要なアイテムであり、だからこそ、この事故が世界のアナログ業界に与えるインパクトは計り知れない。

しかし、もう1つラッカー盤を製造できる会社が日本にあることは、あまり知られていない。長野県上伊那郡宮田村にあるパブリックレコード(株)という会社で、1976年に創立、1982年からラッカー盤の製造をスタートさせた。音楽再生メディアがCDに移り変わった時代になっても、ラッカー盤の製造をやめずにその技術を現代まで継承し続けてきた会社である。本業は塗装屋でもあり、金属板に「一切のゴミを入れず、完全に真っ平らに」ラッカーを塗布する非常に高い技術を有する会社である。

長野県上伊那郡宮田村にあるパブリックレコードの工場

なお、ワールドニュースでは「MDC」という会社名が日本でラッカー盤を作る会社として名前が登場している。このMDCというのは、実はパブリックレコードのラッカー盤を国内外に販売するための商社の名称。「MDC」「ラッカー盤」等の検索キーワードでは、パブリックレコード社に到達できないので注意して欲しい。

そもそもラッカー盤とはなにか? それは、アナログレコードの製造にあたり一番最初に音溝を削られる「原盤」である。サイズはレコードよりも一回り大きく直径35cm程度。薄いアルミ板に塗料のラッカーが両面に塗られており、柔らかいため針で削って溝を作ることができる。ラッカー盤にマスター音源を物理的な音溝として刻み、それをもとに大量生産のレコードの元となるスタンパーが作られる。

キング関口台スタジオで稼働するカッティングマシンVMS77。左の丸いところにラッカー盤が置かれ、針で音溝を削っていく

アナログブームと言われて久しく、アナログレコードの需要は世界的にも爆発的に増加している。ポール・マッカートニーやテイラー・スウィフトなどの大物アーティストが続々と新作のアナログレコードをリリースしており、レコードの生産枚数も、日本だけをみてもここ10年で10倍以上に増えている。その勢いはまだまだ終わりそうもない。

この事故がアナログブームに水を差すのではないか、アナログレコードの価格高騰が起こるのではないかと心配しているスタジオ関係者も少なくない。

しかし、必要以上にパニックになる必要はなさそうだ。パブリックレコードの奥田社長によると、以前から需要の高まりを受け、ラッカー盤の増産計画を立てていたという。この度のApollo/Transcoの工場火災を受けて、その計画の前倒しも検討しているという。

ラッカー盤を持つパブリックレコードの奥田憲一社長

「たくさんお問い合わせを頂いておりますが、数カ月分の在庫はありますから大丈夫ですし、今後の増産計画も前倒しで進めていくので、安心してください」と語る。

ラッカー盤の製造工程の一部。汚れなどが入らないよう厳重なクリーンルームで製造されている

ラッカーは引火しやすく、取り扱いには注意が必要だ。しかしパブリックレコード社は日本の消防法にのっとった万全の対策を施しており、火災の危険はないと言う。

パブリックレコードのラッカー盤は、これから世界中で活用されていくことになるだろう。東洋化成は長くアジア随一のレコードプレス工場として活動を続けてきており、2018年からはソニーも自社でプレス工場を新たに建設、レコードのリリースをスタートさせている。

世界のアナログブームを次の世代に牽引していく原動力は、日本が保持し続けてきた高いアナログ技術になるのかもしれない。

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