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無限の可能性を秘めた技術Another Trackとは

麦わらの一味と映画を観る?『ONE PIECE STAMPEDE』副音声上映は新しいリピート鑑賞のカタチだ

2019/09/03 永井光晴
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音声はトリガーにすぎない。コマンドは発想しだい

さらに言うならば、トリガーとなる音声データ(音声指紋または透かし)を認識したあとは、それに対応するコマンド(命令)は何でもよい。今回はAnother Trackが、ワンピースの副音声を再生するように運用プログラムされているだけ。例えばスマホの画面に文字を表示させたり、画面を七色に光らせたりすることもできる。マイクとスピーカーを持ったロボット(SHARPのロボホンなど)と組み合わせて、Another Trackで動作させることも可能なのだ。

同じく映画館のスマホを使った、バリアフリー向けの「UDCast」(ユーディーキャスト)というサービスがある。映画に合わせて、聴覚障がい者向けにスマホやスマートグラスに字幕を表示させたり、視覚障がい者向けに音声ガイドを再生するもの。実はこちらもエヴィクサーの同一の技術の応用例である(UDCastのサービス開発・提供はPalabra株式会社が行っている)。

スマートグラスで観劇をサポートすることも

このようにAnother Trackは、我々が認識していないだけで、すでに多くのエンターテインメントへの応用例がある。

劇団四季では、『ライオンキング』と『リトルマーメイド』において、スマートグラスを使った多言語字幕サービスをAnother Trackで制作している。スマートグラスはエプソンのMOVERIO(モベリオ)BT-350を使用。Another Trackによってタイムラグなく字幕の表示が可能となっている。対応言語は「英語」「中国語(簡体字・繁体字)」「韓国語」「日本語」で、観客は舞台から目を離さず、ハンズフリーで観劇することができるようになった。

字幕表示にはエプソンMOVERIOを利用

このサービスは、東京・品川の四季劇場「夏」と福岡・キャナルシティ劇場で上演中のミュージカル『ライオンキング』と、大阪四季劇場と北海道四季劇場で上演中のミュージカル『リトルマーメイド』において、エヴィクサーが技術供与したイヤホンガイド社が劇団四季とともに、料金1,000円(要保証金3,000円)で提供している。イヤホンガイド社といえば、昔から歌舞伎のイヤホン解説などでも知られる。インバウンド対策だけでなく、聴覚障がい者の観劇をサポートすることができるようになる。

街頭ビジョンをつかって音声を同期させる

さらに、東京・西新宿駅前の大型商業ディスプレイ「ユニカビジョン」では、2018年5月に『ももいろクローバーZ スペシャル上映会』が、やはりAnother Trackを使って行われている。街頭ディスプレイを使ったプロモーションは枚挙にいとまもないが、繁華街の喧騒や往来する車の騒音で音声が聴きづらいこともある。そこで、ももクロのスペシャル上映会では、Another Trackをダウンロードしたスマホをユニカビジョンにかざして、音声を同期させた。

新宿西口駅前ぺぺ広場には事前告知でファンが集まり、各々がヘッドホンやイヤホンをつけてペンライトを持ってイベントに参加した。

まるで友人との鑑賞パーティーに参加しているよう

では、いよいよ『ONE PIECE STAMPEDE』のAnother Track上映だ。上映は8月30日(金)以降、『ONE PIECE STAMPEDE』を上映する映画館のすべての上映回で楽しむことができる。

映画館でのチケット購入や入場などに変更はない。鑑賞料金も追加されることはない。いままでどおりだ。ただし自分のスマホとイヤホン・ヘッドホンを持参することを忘れないようにすること。

劇場のスクリーン入口にはAnother Trackサービスの注意喚起がある。「上映時の音響機能にかわりはありません。スマートフォンに接続したイヤホンをつけた方が一部いらっしゃることだけご留意くださいませ」というのが、面白い。

スクリーン入り口にはAnother Trackに関する注意書きが

上映前、できれば映画館に足を運ぶ前に、自宅などで準備をしていくことをオススメする。劇場に高速インターネット回線があるとは限らないからだ。先にアプリをインストールするのはもちろん、WiFi環境のある場所で音声ファイルをダウンロードしていくべきだ。

あらかじめアプリをインストールしておき、視聴の準備をしておく

Another Trackアプリを立ち上げて、上映開始を待つ。上映がはじまると、30秒程度で音声同期する。麦わらの一味9人がしゃべっている。キャラクターを演じる声優の挨拶からはじまり、シーンごとに製作裏話、そのシーンに出てくるモノや衣装などの意味を紹介してくれたりもする。ふつうに観ていると気づかない隠れキャラや登場人物解説もある。キャラクターが喋っているというだけでなく、ワンピースマニアの友人との鑑賞パーティーに参加しているような印象だ。

上映中のAnother Track画面はほどなく照度が落ちて暗くなる。照度が落ちるといっても、映画館は暗室だ。最初はドリンクホルダーにスマホを立てていたが、「映画館ではスマホの電源はOFFにして」というのがマナーである。昨今のスマホは大画面なので、暗転した劇場内では画面の光は気になる。バッグや服のポケットにスマホをしまっても、上映中の映画の音量は大きいので、スマホのマイクでアプリとシンクロする点でまったく問題はなかった。

ヘッドホンの形状は、インナーイヤーやオーバーヘッドのどちらでも問題ないが、スマホのアプリ再生音量は大きめに設定しておいたほうがいい。というのも、クライマックスの爆音では副音声が聞こえづらくなるが、上映中のスマホの操作は避けたい。

ちなみに使用したスマホは購入間もない新品モデルで、ほぼフル充電で鑑賞に臨んだが、観賞後のバッテリー残量60%台まで落ちた。もし残量が半分以下だと、鑑賞中に電源が落ちてしまう可能性がある。

Another Trackは画期的技術であると同時に、発想しだいで活用の場が広がる無限の可能性を秘めた、なんとも頼もしい “純日本製” 技術である。当然、これがワールドワイドに活用されることにも期待したい。

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