「iPhone 4」とアップルのクラウド戦略

編集部:風間雄介
2010年06月08日

「iPhone 4」
アップルが「iPhone 4」を発表した。日本でもソフトバンクモバイルが6月24日から発売を開始する。

酒場に落とした筐体が発見されるというハプニングによって大まかな仕様が分かっていたこともあり、大きなサプライズはなかったというのが率直な印象だが、それでも実際に仕様が発表されてみると、アップルの考えを示唆する部分が少なくないように思う。

今回の発表で一番興味を引かれたのが、iPhone 4の内蔵フラッシュメモリーが16GB/32GBと、昨年発表された「iPhone 3GS」と同じ容量だったことだ。アップルのこれまでのやり方を踏襲すれば、記憶容量を上げながら価格を据え置く、もしくは下げるという手法を採ってくるだろうと考えていた。

特にiPhone 4では、新たにHD動画の撮影や編集、再生が可能になった。HD動画を長時間録画すると容量を圧迫するので、普通に考えたらストレージ増量が必要になるところだ。

当たり前の話だが、アップルがストレージ容量を増やさなかったのは、ユーザーが容量拡大をさほど求めていない、あるいは必要としない環境が整いつつあるとアップルが判断したからだ。もちろんコストとの兼ね合いもあるだろうが、本当に必要なのであれば、ためらわずに容量を増やしただろう。

今回のアップルの決断の背景に「クラウド」の存在がある可能性は高い。

人気の高いEvernoteやDropBox、SugarSyncなどサードパーティーのクラウドサービスを利用すれば、クラウドに様々なデータを置いておき、ネット環境さえあればいつでもどこでも、必要に応じて取り出すことができる。有料プランに移行すればかなりの容量を確保できるので、筐体内のストレージ容量にこだわる必要はなくなる。

実際、記者もDropBoxに動画を置いておき、外出先の3G回線で再生することが時たまあるが、再生開始までのバッファリングに時間がかかるのが難点ではあるものの、いざ再生が始まれば快適に視聴できるので重宝している。iPadを購入する際16GBモデルにしたのも、これまでの経験から、内蔵容量にこだわる必要がそれほど大きくないと分かっていたからだ。

だがアップルはこれまで、圧倒的な購買力によってメモリーを安価に仕入れ、製品のコストパフォーマンスを高めることを大きな武器の一つにしてきた。iPodなどスタンドアローン型デバイスでは引き続きこの手法は有効だろうが、スマートフォンでこの伝家の宝刀を抜く意味が薄れた今、アップルはどのようにクラウドに関わっていくのだろう。

アップルは、今後ますます重要になるクラウドサービスの主役の座を、サードパーティーやグーグルなどに譲るつもりなのだろうか。それとも自前のクラウドサービスを拡充させるのだろうか。これが今、iPhoneについて記者が一番興味を持っている部分だ。

たとえば、同社の純正クラウドサービス「MobileMe」の普及がそれほど進んでいないにも関わらず、今のところテコ入れ策は発表されていない。また、以前からアップルがクラウド型iTunesを準備しているという噂が燻っているが、これも今回のWWDCで発表されることはなかった。

iPhoneが検索エンジンをGoogleやbingなどに委ねているように、すべてをアップルが提供することはできないし、エコシステムを回していくためには役割分担も重要だ。またクラウドサービスを本格的に展開するには、データセンターの整備など莫大な投資が必要になることも確かだ。

だが、これらの障壁を乗り越えてでも、アップルがクラウドサービスに本格進出する価値はあると考える。

今後、クラウドの重要性が増せば増すほど、機器単体では十分な競争力を保てなくなる。それどころか、グーグルのChrome OSが目指す方向性に顕著なように、クラウドがデバイスを丸ごと呑み込む時代がやってくる可能性すらある。アップルがどのような戦略でクラウドに向き合っていくのか、今後の発表がますます楽しみになってきた。

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