マランツのAVプリを当代一流のクリエイターはどう聴く?古賀健一さん×マランツエンジニア 特別対談
マランツの設計エンジニアが古賀さんのスタジオを初訪問!
ドルビーアトモスの音源作品制作の第一人者として知られるエンジニアの古賀健一さん。自身のXylomania Studio(シロマニアスタジオ)においてデノンのAVアンプを愛用していることはよく知られているが、それでは「マランツ」のAVアンプについてはどう見ているのだろうか?
古賀さんのスタジオにフラグシップAVプリアンプ「AV 10」、そして今年発売になった「AV 30」を持ち込んで早速検証してみた。
今回は、普段は福島県白河市にてAVアンプの開発に携わっている渡邉敬太さんと飯原弘樹さんも古賀さんのスタジオに初めてやってきた。飯原さんは“弱電”系、つまり低い電圧で動作するアナログプリ段とデジタル信号処理やDA変換周りを担当、渡邉さんはパワーアンプ系や電源など高い電圧の回路を主に担当している。
AVアンプ開発のエンジニアとドルビーアトモス制作エンジニアの対談という貴重な機会となった。
古賀さんのXylomania Studioには、古賀さんが普段メインで使用しているStudio 1と、主にレンタルスタジオとなるStudio 2の2部屋が用意されており、いずれもドルビーアトモス制作ができる環境となっている。
今回の取材ではStudio 2にマランツのAVプリアンプを持ち込んだ。スピーカーはPMCのプロ向けCiシリーズを配置し、最大11.2.6.4ch(※)の制作にも対応する。ドルビーアトモスやAURO-3Dはもちろん、下方向のある360 Reality Audioにも対応する本格スタジオである。
(※11.2.6.4chという場合、最初の数字(11)が平面レイヤーのスピーカー数、二番目の数字(2)がサブウーファーの数、3番目の数字(6)がトップレイヤーのスピーカー数、最後の数字(4)が下方向のスピーカー数となる)
デノンとマランツのAVプリを徹底比較!
Studio 2には、普段はデノンの「AVC-A1H」が設置されている。こちらは制作過程に使用しているというより、検証盤(プレス工場から提供される、マスプロダクションの直前にチェックするためのディスク)や、最終製品をチェックするために活用されている。
「実際に自分が作ったサウンドが、一般家庭でどのように再生されているか、制作者側もきちんと理解していないといけないと思うのです」というのは古賀さんの強い信念である。
デノン「AVC-A1H」を導入した理由については以前の記事でも語っていただいているが、15chのプリアウト出力を持つこと、またアナログ出力があること、という意味で、その当時(2023年時点)では「AVC-A1H」一択であったという。
デノンの「AVC-A1H」はパワーアンプまで一体となったAVアンプだが、Xylomania Studioではパワードモニター(アクティブスピーカー)を使用しているため、実は「AVC-A1H」はプリアウトモードで利用している。
今回のマランツ「AV 30」そして「AV 10」はプリアンプとなるため、スタジオのデノンAVアンプからそのまま置き換えて比較試聴が実現できる。スタジオクオリティの7.1.4ch環境で、AVアンプの比較ができるという貴重な機会となった(なお、AV 30は7.1.4chまでの対応なので、今回はその環境で聴き比べを行っている)。
「空間表現」にはマランツが生きる!
マランツのAVアンプについての古賀さんのインプレッションは?
「以前は環境の制約(9.1.6chを出力できる)から、デノンしか選択肢がなかったのですが、今聴くと正直マランツAV 10の方が良い、と思う部分もあります。楽しく音楽を聴くならばデノンのほうがよいですが、シビアにミックスチェックや映画の仕事を行うことを考えると、マランツのほうに可能性を感じます」とエンジニア目線で高い評価を与える。
古賀さんがドルビーアトモス制作に携わっているOfficial髭男dismの『OFFICIAL HIGE DANDISM LIVE at STADIUM 2025』で聴き比べをしたところ、特に「空間表現」にはマランツに分があり、「スタジアムの空間を意識した音作りがそのまま再現されています」とコメント。
「小さい音や空間の広がりについては特にマランツは素晴らしくて、解像度の高さ、SNの良さを感じます」と大絶賛する。
一方のデノンは、「音のエネルギーの塊をいかにリスナーに届けるか、ということに大きな魅力を感じます。ローミッドのガツンとした感じ、ベースの低音感などはデノンの魅力がありますね」と、デノンとマランツ、それぞれの開発理念や音作りの違いについても深く納得の表情を見せる。
その再生音の違いについて、Xylomania Studioで初体験した開発陣も大きくうなずくところがあったようだ。
マランツの渡邉さんは、「古賀さんのスタジオで初めて聴かせていただいて、圧倒的に違うのはやっぱり情報量かなと思いましたね」とコメント。
「マランツの方が情報量が多くて、すごく奥行を感じます。解像度も高く、細かい音も聴こえますし、どこから鳴っているっていうのが明確に聴き分けられます。モニターとしてご評価いただいていることがとてもよくわかりました」と言葉を続ける。
そして「私たちは日々そういった聴き比べをしていますが、短時間の試聴にもかかわらず古賀さんにもその違いをしっかり感じ取っていただいて、とても嬉しく思います」と開発者冥利に尽きる様子を見せた。
「AV 10」と「AV 30」の違いはどこにあるのか? 渡邉さんによると、「AV 10(15.4ch)はフラグシップモデルとして妥協なき機能と音質を追求したもの、AV 30(11.4ch)はそれに対して、市場のニーズを汲みながら、よりコンパクトにお求めやすい価格を狙ったものとなります」とのこと。
ユーザーの使用環境についてアンケートを取ったところ、「7.1.4ch」までのチャンネル数でシステムを組んでいるユーザーが8割近いという結果が出たそうだ。制約なく音質を徹底追求するAV 10、そしてその技術を引き継ぎながら、現実的に扱いやすいAV 30という位置付けとなっている。
エンジニア同士のディープな質問が炸裂
開発者に直接話を聞ける機会も珍しいためか、古賀さんはマランツの音質設計について、矢継ぎ早に質問を投げかける。
まずはマランツのセパレートアンプの技術的なこだわりについて。
まず重要なのが電源部。通常、アンプにおいては、特にパワーアンプ部が大きな電力を使うため、デノンのAVアンプにおいては特にパワーアンプの作り込みが重要となる。
だが、パワーアンプ部を持たないマランツには大電流の回路が存在しないため、より“贅沢”に電源部を活用することができる。
「マランツのAVプリではEIアルミケースとケイ素鋼板でシールドされた品位の高いトランスを使用しています。これはパワーアンプを設計しなければならないデノンと一番異なる点で、ノイズが低く、よりSNを追求した音質設計ができます」と渡邉さん。
また周波数の近いノイズや信号が干渉し合うことで発生する電気的ノイズのことを「ビート」と呼ぶが、狭い筐体内に多くの機能を盛り込むAVアンプは「ビート」との戦いでもある。
その点でもやはりセパレートアンプは有利で、「例えば電気的特性としてのS/Nは同じ値だとしても、さまざまな周波数帯の音が同時に出ていると、どうしても相互干渉してしまいます。パワーアンプを別筐体にするメリットはその点にもあるのです」と飯原さん。
飯原さんが実装を担当した「デジタルフィルター」についても話を聞いてみよう。こちらもマランツのみに搭載された機能で、「1.スローロールオフ」と「2.シャープロールオフ」の2種類を用意。好みに合わせて設定ができるという。
「デジタルフィルターも聴き比べましたが、全然違いますね!僕は1の方が好きです」と古賀さんは断言する。
デジタルフィルターの切り替えは、マランツだけに搭載された機能となる。飯原さんによると、「高域のTHD等のスペック上では、2.の線形位相のシャープロールオフのほうが有利ですが、聴感的には1.のスローのほうが優れています。それはインパルス応答を見ると分かるのですが、人間の耳の特性として、プリエコーを敏感に感じ取ってしまいます。スローのほうはプリエコーが出ないので、聴感としてはこちらが有利なのです」という。
きちんとした設計思想のあるアンプで確認することが大切
渡邉さんも飯原さんも、「マランツの音作りは、(一体型AVアンプの)Cinemaシリーズから大きく変わっています」と力を込める。
「AVアンプに関しても、よりマランツのHiFiシステムに近づけたいと考えており、デバイスの選定から大きく変わっています。評論家の方にはオーディオビジュアルとHiFiは別物だよ、と言われることも多いのですが、設計者の目標としては同じで、特性面でも音質面でも同じレベルに持っていきたいと考えているのです」
古賀さんもそれを受けて「やはりきちんとした設計思想のある機器を通す音楽的豊かさがあります」と大きく頷く。
「正直、以前のマランツでは、HiFi的なスピード感が欲しいけれど、オーディオビジュアル的にはまだそこに追いついていないのかな、と思っていた部分がありました。ですが今回のAV 10、そしてAV 30はその点も追求していることがとてもよくわかりました」
そして、測定だけではわからない、人間の耳でなければ判断できない音があると言葉を強める。
「AVアンプではルーム補正の機能などもありますが、たとえば他のスタジオなどに行った際に、測定だけで判断してしまって、結果“実体のない音”になってしまっている事例を見かけます。AVアンプはとても多機能で、イコライザーや補正機能も充実しているからこそ、正しい使い方について、オーディオ機器メーカーと、音楽制作者がもっとコミュニケーションを図りながら、ユーザーに対してお伝えしていく必要があると思います」
測定は重視しながらも、最後はやはり聴感で追い込んでいく。AVアンプのエンジニアと音楽制作のエンジニア、役割は違えど良質な音を追求する者同士として、やはり響き合うものがあるようだ。
マランツのAVプリをスタジオに導入したい!
最後に、こちらも古賀さんがドルビーアトモス設計を行った坂本龍一×高谷史郎による『TIME』(Blu-ray)を視聴した。元々劇場向けに制作された作品をBlu-rayとして再編成したもので、朗読やサウンドインスタレーションなど、ドルビーアトモスフォーマットが存分に生かされた作品となっている。
古賀さんはこの『TIME』をマランツの「AV 30」であらためて聴き直しながら、「空間がより埋まっている感じがしますね」とコメントする。
「この作品に関しては、(AV 10より)AV 30の方が音の鮮明さが上がっている気もします…やはり世代的に新しいことで、音質的に有利な点があるのかもしれませんね」
古賀さんは、ドルビーアトモススタジオ制作のコンサルタントも多く手がけている。
「マランツのAVアンプは、特に映画系の制作スタジオには間違いなく推薦できます。スタジオは多くの場合パワードモニターですから、AVプリまでの機能があれば良いんです。映画では、効果音や劇伴、セリフなど様々な音が活用されていますから、それぞれの丁寧な仕事が見えてきますよね。最近ではゲームの制作スタジオにも良さそうです」
今後のドルビーアトモススタジオで、マランツのAVプリが活用される現場も増えそうだ。そして、「僕のStudio2もマランツに変えようかな」と古賀さんは真剣に検討を始めた。
「今回聴き比べをして、マランツの現在の音作りについてよく理解できましたし、Studio2は映画制作をメインに考えているので、セパレートアンプの方が有利なことがとてもよくわかりました。今ある「AVC-A1H」はStudio1の方に持っていこうかな?」と夢を膨らませる。
HiFiに迫る音質設計を狙うマランツのAVセパレートアンプ。そのクオリティは、音にこだわるスタジオエンジニアをも納得させるクオティに到達している。自宅で活用する場合にも、ホームシアターのクオリティを、まさにプロフェッショナルレベルに高めてくれる存在と言えるだろう。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)


