メルセデスAMG×ブルメスター、その格調高き音。車両の世界観とマッチした品位あるカーサウンド
メルセデス・ベンツのスポーツブランド「メルセデスAMG」の中で、最もブランドを体現しているのが「AMG GTクーペ」だろう。そのAMG GTクーペに2024年10月、新たなグレードとして「GT43」が加わった。

ドアを開けると、豪華な室内と共にブルメスターの文字が。メルセデスとブルメスターというドイツの饗宴をお届けしたい。
走りだけではなく快適性も突き詰めるのがGTの姿
自動車の高級グレードには「GT」や「グランツーリスモ」という言葉を使うことが多い。その語源は18世紀にまで遡る。当時イギリスの支配階級や貴族の子弟たちは教育の最後の仕上げに、グランドツアー(イタリア語でグランツーリスモ)と呼ぶ、数か月から2年間程度のイタリア旅行を行っていた。そして、芸術や文化、歴史などの教養を身に着けていたという。
当時の移動手段は馬車が主流。路面も今とは違い荒れていた。そこで貴族たちは、フランスやイタリアの制作工房(カロッツェリア)に、長期にわたる移動に耐えうる快適な馬車を作らせていた。高性能車のはしりだ。
21世紀になり社会構造が変わっても、グランドツアーの名は自動車業界に残った。自動車黎明期から、長距離走行を速く移動できる高出力のエンジンを搭載し、快適なキャビンと十分な荷室がある高性能車(≒フラグシップ)に、グランツーリスモまたはGTの名が与えられている。GTの名を冠するメルセデスAMG GTクーペは、同ブランドの象徴でなければならない宿命を負っているのだ。
計11基のブルメスタースピーカーを搭載
メルセデスAMG GT43は上質でスポーティな室内だけでなく、エンターテインメント(カーオーディオ)にもぬかりのない装備を揃えた。それがスピーカーユニット11基、パワーアンプ出力600Wというブルメスターのシステムだ(編集部注:日本ではブルメスターはアンプ等のエレクトロニクスを中心に導入されているが、本国ではスピーカーも数多くラインナップしている)。
スピーカーの細かい仕様については不明なので、見える範囲での取付位置だけお伝えする。ダッシュボードの中央にセンタースピーカー、Aピラー近くにトゥイーター、ドアにミッドレンジとウーファー、後席にフルレンジを配置する。サブウーファーの姿は見当たらなかった。
センターコンソールに置かれた大型の縦長タッチディスプレイから、オーディオセッティングのメニューを開いてみた。サウンドモードはピュアとサラウンドの2種類のみ。サラウンドモードに、コンサートモードやらライブモードといったものはないところに、潔さや自信の現れを感じた。
イコライザーは、バス/ミッド/ハイの3バンド。左右のバランス調整は片側10段階で変更が可能だ。前後調整のフェーダー機能は用意されていない。サウンドフォーカス機能を使うと、サラウンド時にバランス機能を使うよりも効果的な没入感が得られる。
他社の純正カーオーディオではあまり見かけない機能として「ラウドネスのレベル設定」が挙げられる。これは音量に応じて低域量を適切なレベルに変更するもので、4段階に設定可能だ。
他社にはない機能で最もユニークなのは、好みの音を創るのに役立つ「パーソナルサウンドプロファイル」機能。車両を止めた状態で実際に様々な音を聴きながら質問に応える形でレベル調整をしていくと、その人に合った好みの音調バランスになるという。今まで様々なカーオーディオに触れてきたが、そのような機能は初めて。試してみるとバランスだけではなく、音の立ち上がりなどが大きく変化する。
格調の高さ、品位の良さで楽音を聴かせる
ピュアモードを選択し、フォーカスは全席にセット。左右バランスがセンターであることを確認した上で試聴を開始した。だがサブウーファーがないためか、ちょっと低域が足りない様子。2レベルほど上げてバランスをとった。
高域に輝きをもたせた、明るめでありながら重厚なドイツサウンドが車内に響き渡る。格調の高さ、品位の良さといった言葉がピッタリで、それが車両の世界観とマッチしている。感心したのは低域をあげると大抵、ドアの内張りを叩いて低域が濁るのだが、そのようなことがなかったこと。車両剛性が高く、ユニットをしっかりと取り付けられていることの証左だ。
第12回ヨーロピアンサウンドカーオーディオコンテストの課題曲であるキアン・ソルターニの「シューマン:チェロ協奏曲」は、奏者達が力と若さに漲り、体躯がひとまわり大きくなったような印象。演奏もグラモフォンレーベル特有の音とブルメスターシステムの音がマッチングしてか、ベルリン・フィルのような突進力と一糸乱れぬ完璧さを感じさせる。
もう一つの課題曲であるジェイコブ・コリアーの「シー・プット・サンシャイン」は、緻密に構築された音世界を、余すことなく再現。左右の拡がる音像とセンターに定位するボーカルのコントラストも見事だ。気になる低域も、より深い再現をみせて納得のパフォーマンスだ。
サラウンドを選ぶと、全体的に音圧が上がると共に、低域量も増加するようだ。ソルターニは指揮台に立ったかのような、コリアーは音楽の中により没入していったかのような再現で愉しませる。
格調の高さ、品位の良さで音楽を聴かせる本システム。自動車の中で過ごす時間を楽しみながら、さらに音楽を知りたい、音楽の教養を深めたい、と己の克己心を鼓舞してくれる。時代は変わったが、欧州では今でもグランツーリスモの考えが生きているのだろう。
ちなみに本システムは標準搭載のシステムで、しかもメルセデスAMGのみならずメルセデス・ベンツの車種でもブルメスターのオーディオシステムを標準搭載している。ドイツの完璧主義で作られたクルマは、音も思想も完璧を求めているのだ。
(車両協力:メルセデス・ベンツ日本)
