ものづくりの会社としての共通点と独自性に共感
ホームオーディオに迫る極上のカーサウンド。三菱自動車「アウトランダーPHEV」、ヤマハとの協業の背景を訊く
日本販売車種としては初となるヤマハブランドオーディオを採用したことで話題を集める三菱自動車のフラグシップSUV「アウトランダーPHEV」。なぜヤマハなのか? どのようなシステムなのか? そして気になる音は? JR田町駅近くにある三菱自動車本社ショールームを尋ね、キーマン達に話を伺うと共に、気になる本機を試聴した。
誰もが最初に疑問を抱くのは、なぜ三菱自動車がグループ会社でダイヤトーンブランドを擁する三菱電機グループではなく、ヤマハと手を組んだのかということだろう。本プロジェクトのかじ取り役である矢口氏に尋ねた。
「三菱電機さんは、同じ三菱ではありますけれど、必ずしもそこに縛られる関係ではなく、ひとつのサプライヤーとして捉えています。また、私達は過去には米インフィニティをはじめ、様々なオーディオブランドと手を組んできました」。ちなみに前期型のアウトランダーはBOSEのシステムを採用している。
それでは、なぜヤマハと手を組む道を選んだのか。矢口氏は『ものづくりの会社としての多くの共通点と独自性に共感』したからだという。「ヤマハは『自ら一歩を踏み出そうとする人々の勇気や情熱を後押しする存在でありたい』というMake Wavesをブランドプロミスとして掲げています。これは、三菱自動車の『志をもったお客様を私達はサポートする』というブランドメッセージDrive Your Ambitionと共通しています」。
フィロソフィだけで手は組めるものなのか? 矢口氏は言葉をつなげる。「アウトランダーは冒険心を持った方々が一歩を踏み出したくなるようなクルマです。そこに求められる安心感や安全性、快適性などを考えた際に、どういう音がよいのだろうと色々と検討した結果、ヤマハの音とその根底に流れるものが、最もアウトランダーの方向性に合っていました」。こうして三菱自側はヤマハと手を組むことを決めた。
続いてヤマハ側に話を聴こう。まず失礼ながらカーオーディオの世界において、ヤマハの知名度は高くない。ヤマハ側の窓口である本陣氏に同社のカーオーディオシステムの歴史を尋ねた。
「ヤマハが車載オーディオを手がけ始めたのは2017年頃です。2018年に中国の自動車メーカーの車両に初採用され、2020年より量産開始しました」。このように歴史が浅い上に、量販店で購入できるアフターマーケット向けに商品はラインアップしていない。さらに採用車種も海外専用車。一般ユーザーが存在を知らないのも当然だ。
そしてこの度、ヤマハブランドオーディオが、満を持しての国内販売車に搭載される運びとなった。「採用して頂いた背景であったり、技術面にご評価を頂いたところに本当に嬉しく思います」と、本陣氏は頬も緩ませて語った。
アウトランダーPHEVが採用するヤマハブランドオーディオは2種類。ひとつは標準搭載のDynamic Sound Yamaha Premium。前席はAピラーにトゥイーター、ドアにウーファーをマウントした2ウェイ、後席はドアに2ウェイのコアキシャルユニットを配置し、車両全体としては8スピーカーで構成。
そしてもう一つが、アウトランダーの最上位グレードP Executive Packageまたはベーシックグレード(M)以外にメーカーオプション(198,000円)で設定が可能なDynamic Sound Yamaha Ultimate。センタースピーカーやサブウーファー、専用パワーアンプを搭載した12スピーカー仕様で、本稿ではこのシステムについて解説する。
まずはユニットについて。前席Aピラーおよび後席のドアには25mmトゥイーターをマウント。磁気回路に一般的なスピーカーに対して2.5倍の駆動力を確保すべく大口径マグネットと、コイル材として銅クラッドアルミ線を採用。振動部の軽量化に成功し、切れのよい音を実現していると謳う。
ダッシュボート上面には90mmミッドレンジを3基搭載。振動板には、ヤマハのホーム用フラッグシップスピーカーNS-5000に使われているZYLON(ザイロン)を強化繊維として混練したポリプロピレンを採用し、厳しい車載要件を満足させると共に、音質調整の為に、繊細な調整を行っているという。磁気回路は、放熱性と駆動力を高めるべく、ボイスコイル径をこのサイズではよく使われる20mm径ではなく25mm径と大口径化している点も見逃せない。
前席側ドアに搭載するウーファーは6x9インチの楕円形。振動板はミッドレンジと同素材を採用している。こちらも大口径ボイスコイルや大型マグネットを用いているとのこと、磁気回路を大型化した理由を尋ねると大入力対応のほか、前後ストロークの対称性とすることで高いリニアリティを確保、結果、楽器本来の音が出せるという。
前席は3ウェイ構成であったのに対し、Premiumと比べて後席の2ウェイ構成はトゥイーターとウーファーを別置きとすることで、後席でのステージングの向上を図っている。
トランクスペース右側に200mm径サブウーファーを配置。デュアル・ボイス・コイル方式を採り、2ch分のパワーアンプ出力を受け止め、力強い低域を車室内に届ける。
これらのユニットは、ドアに専用の補強パーツを取り付けたり溶接スポット増しをするなど、強度を高めると共に共振対策がなされている。運転席・助手席の窓ガラスには、外部からのノイズの低減に効果があるアコースティックガラスを採用。肉厚のドアパッキンと併せて、静寂な車内空間づくりに貢献している。
パワーアンプ回路はクラスDで、運転席と助手席の下に各1基搭載。助手席下には中高域用として7チャンネル分/最大出力770W、運転席下には低域用4チャンネル/最大出力880Wが割り当てられている。これらの電源は車両に搭載する大容量の走行用バッテリーからではなく、他のクルマと同じように鉛蓄電池から給電している。フューズに関しても接触抵抗の低減を図るために特別なパーツを採用しているとのこと。
ヘッドユニットの画面サイズは12.3インチと大きく見やすいもの。音源はBluetoothのほか、USB、ラジオ、テレビなどと多彩。もちろんハイレゾ音源の再生にも対応しており、最高192kHz/24bitまでのPCM信号に対応する(DSDは非対応)。
専用ユニットを開発・搭載し、車両に制振処理を施しただけに留まらない。ヤマハが長年培った自社製DSPを用いて、TRUE SOUNDを標榜するヤマハのサウンドマイスターの手による徹底的な音響コントロールが施されている。そのパラメーターは、気分や音楽によって選べるサウンドタイプとしてLively、Signature、Powerful、Relaxingと4種類。さらにリスニングポジションも前席、後席など5種類用意されている。
サウンドマイスターの疋田氏によると、カーオーディオはスピーカーの位置も左右非対称であるほか、リスニングポジションが4つあるなど、ホームオーディオとは大きく異なると語る。いっぽうホームオーディオと比べてリスニングポジションが固定されるため、サウンドマイスターの作る音をそのままエンドユーザーに届けることができる環境であるという。
今回ヤマハが届けたかった音とは何か。ヤマハはアコースティック楽器、電子楽器を問わず、世界最大の総合楽器メーカーである。楽器本来の音を知るがゆえ「原音再生」を目指したのかとサウンドマイスターに問うと、「それも重要ですが」と前置きした上で、「ヤマハとして一番重要視しているのは、音源の作り手の想いです」と語る。
「単に音源の情報を100%引き出すといった表層的なものではなく、アーティストや楽曲制作者のこだわりや想いを、車室内空間に再現することを心がけました。アーティストは音楽を作る際、全身全霊をかけて、多くの時間を費やしています。そうして作られた音源を、その場で聴いているような雰囲気で再現することが大事であると考えます」と、音楽制作者に対する敬意を語った。
前置きが長くなったが、「車内の、どの位置でも感動が届けられるかが、とても重要なのです」という想いが込められたDynamic Sound Yamaha Ultimateを聴くことにしよう。
アウトランダーPHEVは、エンジンをかけずとも電気だけで動作する。これは駐車場で音楽を聴きたいという時にとても有益だ。なによりエンジンの動作音で弱音部分をかき消されることがないのは最大の美質だ。
サウンドタイプはクラシックにマッチするというSignatureをセレクト。リスニングポジションを前席として、USBメモリに配信サイトで購入したハイレゾ音源を入れて試聴を始めることにした。サウンドタイプを変更するのが結構面倒だったり、選曲画面でアートワークが出ない時があるのは改善して頂きたいところだ。
音が出た瞬間、クリアネスとワイドレンジに耳を奪われた。ノリと勢いで聴かせるのとは対照的な、丁寧に音情報を積み重ねて紡がれる美しい音世界。淡い色彩で彩られた日本の美意識を体現しているといってもよい。
感心したのは、耳の高さや試聴位置を多少上下前後させても、大きく音のバランスを崩さないこと。一般的なカーオーディオではスピーカーユニットと耳の位置が近いためスイートスポットが限定されやすい。だが、本システムは質感のよいシートに身を委ねている限り美音を享受できる。この美質をヤマハのサウンドマイスター疋田氏に話すと、測定時にマイクを複数本用いて同時計測した等の秘密の一端を教えてくれた。
カルロス・クライバー指揮バイエルン国立歌劇場管弦楽団のヴェルディ「椿姫」は、サウンドステージの広さが印象的だ。クライバーらしい躍動的なオーケストラ、イレアナ・コトルバスの典雅な歌声、プラシド・ドミンゴの朗々たる響きが三位一体となりリスナーに感動を届ける。ここでクライバーにしては静的に感じられたのでサウンドタイプをSignatureからLivelyへと変更。するとドライブ感のある演奏へと変化した。個人的にはこちらの方が好みだ。
色々と聴いたが、最も驚いたのが中島美嘉の名バラード「雪の華」のTHE FIRST TAKE版だ。スタンウェイピアノの響きの美しさに加え、収録マイクが拾ったピアニストのペダル音をしっかりと再生。本来は収録してはいけないノイズ成分ではあるものの、入っている音をしっかりと再現するあたりに本機のオーディオ的能力の高さを感じた。
だが、本当に驚いたのは浸透力の高さ。「幸せな時間は、いつかは終わりを迎える。別れがあるからこそ、今が大切な時間になる」というメッセージが、中島の歌声に乗せて心に沁み入る。純正カーオーディオで、ここまで心を打たれる再現をするとは……。ただただ感服した。
アウトランダーPHEVは、車両本体価格5,263,500円〜6,685,800円と国産SUVとしては高額な車種だ。だが購入後に国からの補助金として55万円のほか、自動車メーカー別の上乗せ補助額10万円(ZEV普及特別補助金)と、自治体によっては更なる補助金を受け取ることができる。最大で1,327,300円の優遇を受けることができる。
ホームオーディオで、このサウンドクオリティと極上のシートを手にしようとして、果たしてその金額で手に入れられるだろうか? そのような事を考えてしまうほど、Dynamic Sound Yamaha Ultimateの音世界は魅了的。カーオーディオはここまで来たのか、と思わずにはいられない、納得のプレイバックであった。ディーラーやショールーム等で、ぜひこの音を体験して頂きたい。必ずや驚くハズだ。
他にも本機にはエアコン動作中や雨天時に一部帯域を持ち上げる機能などがある。これは別の機会でレポートしたい。
■三菱自とヤマハが手を組むきっかけは「企業フィロソフィ」
誰もが最初に疑問を抱くのは、なぜ三菱自動車がグループ会社でダイヤトーンブランドを擁する三菱電機グループではなく、ヤマハと手を組んだのかということだろう。本プロジェクトのかじ取り役である矢口氏に尋ねた。
「三菱電機さんは、同じ三菱ではありますけれど、必ずしもそこに縛られる関係ではなく、ひとつのサプライヤーとして捉えています。また、私達は過去には米インフィニティをはじめ、様々なオーディオブランドと手を組んできました」。ちなみに前期型のアウトランダーはBOSEのシステムを採用している。
それでは、なぜヤマハと手を組む道を選んだのか。矢口氏は『ものづくりの会社としての多くの共通点と独自性に共感』したからだという。「ヤマハは『自ら一歩を踏み出そうとする人々の勇気や情熱を後押しする存在でありたい』というMake Wavesをブランドプロミスとして掲げています。これは、三菱自動車の『志をもったお客様を私達はサポートする』というブランドメッセージDrive Your Ambitionと共通しています」。
フィロソフィだけで手は組めるものなのか? 矢口氏は言葉をつなげる。「アウトランダーは冒険心を持った方々が一歩を踏み出したくなるようなクルマです。そこに求められる安心感や安全性、快適性などを考えた際に、どういう音がよいのだろうと色々と検討した結果、ヤマハの音とその根底に流れるものが、最もアウトランダーの方向性に合っていました」。こうして三菱自側はヤマハと手を組むことを決めた。
続いてヤマハ側に話を聴こう。まず失礼ながらカーオーディオの世界において、ヤマハの知名度は高くない。ヤマハ側の窓口である本陣氏に同社のカーオーディオシステムの歴史を尋ねた。
「ヤマハが車載オーディオを手がけ始めたのは2017年頃です。2018年に中国の自動車メーカーの車両に初採用され、2020年より量産開始しました」。このように歴史が浅い上に、量販店で購入できるアフターマーケット向けに商品はラインアップしていない。さらに採用車種も海外専用車。一般ユーザーが存在を知らないのも当然だ。
そしてこの度、ヤマハブランドオーディオが、満を持しての国内販売車に搭載される運びとなった。「採用して頂いた背景であったり、技術面にご評価を頂いたところに本当に嬉しく思います」と、本陣氏は頬も緩ませて語った。
■トップグレードでは高性能のオリジナル振動板・磁気回路を使用
アウトランダーPHEVが採用するヤマハブランドオーディオは2種類。ひとつは標準搭載のDynamic Sound Yamaha Premium。前席はAピラーにトゥイーター、ドアにウーファーをマウントした2ウェイ、後席はドアに2ウェイのコアキシャルユニットを配置し、車両全体としては8スピーカーで構成。
そしてもう一つが、アウトランダーの最上位グレードP Executive Packageまたはベーシックグレード(M)以外にメーカーオプション(198,000円)で設定が可能なDynamic Sound Yamaha Ultimate。センタースピーカーやサブウーファー、専用パワーアンプを搭載した12スピーカー仕様で、本稿ではこのシステムについて解説する。
まずはユニットについて。前席Aピラーおよび後席のドアには25mmトゥイーターをマウント。磁気回路に一般的なスピーカーに対して2.5倍の駆動力を確保すべく大口径マグネットと、コイル材として銅クラッドアルミ線を採用。振動部の軽量化に成功し、切れのよい音を実現していると謳う。
ダッシュボート上面には90mmミッドレンジを3基搭載。振動板には、ヤマハのホーム用フラッグシップスピーカーNS-5000に使われているZYLON(ザイロン)を強化繊維として混練したポリプロピレンを採用し、厳しい車載要件を満足させると共に、音質調整の為に、繊細な調整を行っているという。磁気回路は、放熱性と駆動力を高めるべく、ボイスコイル径をこのサイズではよく使われる20mm径ではなく25mm径と大口径化している点も見逃せない。
前席側ドアに搭載するウーファーは6x9インチの楕円形。振動板はミッドレンジと同素材を採用している。こちらも大口径ボイスコイルや大型マグネットを用いているとのこと、磁気回路を大型化した理由を尋ねると大入力対応のほか、前後ストロークの対称性とすることで高いリニアリティを確保、結果、楽器本来の音が出せるという。
前席は3ウェイ構成であったのに対し、Premiumと比べて後席の2ウェイ構成はトゥイーターとウーファーを別置きとすることで、後席でのステージングの向上を図っている。
トランクスペース右側に200mm径サブウーファーを配置。デュアル・ボイス・コイル方式を採り、2ch分のパワーアンプ出力を受け止め、力強い低域を車室内に届ける。
これらのユニットは、ドアに専用の補強パーツを取り付けたり溶接スポット増しをするなど、強度を高めると共に共振対策がなされている。運転席・助手席の窓ガラスには、外部からのノイズの低減に効果があるアコースティックガラスを採用。肉厚のドアパッキンと併せて、静寂な車内空間づくりに貢献している。
パワーアンプ回路はクラスDで、運転席と助手席の下に各1基搭載。助手席下には中高域用として7チャンネル分/最大出力770W、運転席下には低域用4チャンネル/最大出力880Wが割り当てられている。これらの電源は車両に搭載する大容量の走行用バッテリーからではなく、他のクルマと同じように鉛蓄電池から給電している。フューズに関しても接触抵抗の低減を図るために特別なパーツを採用しているとのこと。
ヘッドユニットの画面サイズは12.3インチと大きく見やすいもの。音源はBluetoothのほか、USB、ラジオ、テレビなどと多彩。もちろんハイレゾ音源の再生にも対応しており、最高192kHz/24bitまでのPCM信号に対応する(DSDは非対応)。
■音楽の作り手の想いを車内空間で再現
専用ユニットを開発・搭載し、車両に制振処理を施しただけに留まらない。ヤマハが長年培った自社製DSPを用いて、TRUE SOUNDを標榜するヤマハのサウンドマイスターの手による徹底的な音響コントロールが施されている。そのパラメーターは、気分や音楽によって選べるサウンドタイプとしてLively、Signature、Powerful、Relaxingと4種類。さらにリスニングポジションも前席、後席など5種類用意されている。
サウンドマイスターの疋田氏によると、カーオーディオはスピーカーの位置も左右非対称であるほか、リスニングポジションが4つあるなど、ホームオーディオとは大きく異なると語る。いっぽうホームオーディオと比べてリスニングポジションが固定されるため、サウンドマイスターの作る音をそのままエンドユーザーに届けることができる環境であるという。
今回ヤマハが届けたかった音とは何か。ヤマハはアコースティック楽器、電子楽器を問わず、世界最大の総合楽器メーカーである。楽器本来の音を知るがゆえ「原音再生」を目指したのかとサウンドマイスターに問うと、「それも重要ですが」と前置きした上で、「ヤマハとして一番重要視しているのは、音源の作り手の想いです」と語る。
「単に音源の情報を100%引き出すといった表層的なものではなく、アーティストや楽曲制作者のこだわりや想いを、車室内空間に再現することを心がけました。アーティストは音楽を作る際、全身全霊をかけて、多くの時間を費やしています。そうして作られた音源を、その場で聴いているような雰囲気で再現することが大事であると考えます」と、音楽制作者に対する敬意を語った。
前置きが長くなったが、「車内の、どの位置でも感動が届けられるかが、とても重要なのです」という想いが込められたDynamic Sound Yamaha Ultimateを聴くことにしよう。
■クリアでワイドレンジ!音の情報を積み重ねて音楽を構築する
アウトランダーPHEVは、エンジンをかけずとも電気だけで動作する。これは駐車場で音楽を聴きたいという時にとても有益だ。なによりエンジンの動作音で弱音部分をかき消されることがないのは最大の美質だ。
サウンドタイプはクラシックにマッチするというSignatureをセレクト。リスニングポジションを前席として、USBメモリに配信サイトで購入したハイレゾ音源を入れて試聴を始めることにした。サウンドタイプを変更するのが結構面倒だったり、選曲画面でアートワークが出ない時があるのは改善して頂きたいところだ。
音が出た瞬間、クリアネスとワイドレンジに耳を奪われた。ノリと勢いで聴かせるのとは対照的な、丁寧に音情報を積み重ねて紡がれる美しい音世界。淡い色彩で彩られた日本の美意識を体現しているといってもよい。
感心したのは、耳の高さや試聴位置を多少上下前後させても、大きく音のバランスを崩さないこと。一般的なカーオーディオではスピーカーユニットと耳の位置が近いためスイートスポットが限定されやすい。だが、本システムは質感のよいシートに身を委ねている限り美音を享受できる。この美質をヤマハのサウンドマイスター疋田氏に話すと、測定時にマイクを複数本用いて同時計測した等の秘密の一端を教えてくれた。
カルロス・クライバー指揮バイエルン国立歌劇場管弦楽団のヴェルディ「椿姫」は、サウンドステージの広さが印象的だ。クライバーらしい躍動的なオーケストラ、イレアナ・コトルバスの典雅な歌声、プラシド・ドミンゴの朗々たる響きが三位一体となりリスナーに感動を届ける。ここでクライバーにしては静的に感じられたのでサウンドタイプをSignatureからLivelyへと変更。するとドライブ感のある演奏へと変化した。個人的にはこちらの方が好みだ。
色々と聴いたが、最も驚いたのが中島美嘉の名バラード「雪の華」のTHE FIRST TAKE版だ。スタンウェイピアノの響きの美しさに加え、収録マイクが拾ったピアニストのペダル音をしっかりと再生。本来は収録してはいけないノイズ成分ではあるものの、入っている音をしっかりと再現するあたりに本機のオーディオ的能力の高さを感じた。
だが、本当に驚いたのは浸透力の高さ。「幸せな時間は、いつかは終わりを迎える。別れがあるからこそ、今が大切な時間になる」というメッセージが、中島の歌声に乗せて心に沁み入る。純正カーオーディオで、ここまで心を打たれる再現をするとは……。ただただ感服した。
アウトランダーPHEVは、車両本体価格5,263,500円〜6,685,800円と国産SUVとしては高額な車種だ。だが購入後に国からの補助金として55万円のほか、自動車メーカー別の上乗せ補助額10万円(ZEV普及特別補助金)と、自治体によっては更なる補助金を受け取ることができる。最大で1,327,300円の優遇を受けることができる。
ホームオーディオで、このサウンドクオリティと極上のシートを手にしようとして、果たしてその金額で手に入れられるだろうか? そのような事を考えてしまうほど、Dynamic Sound Yamaha Ultimateの音世界は魅了的。カーオーディオはここまで来たのか、と思わずにはいられない、納得のプレイバックであった。ディーラーやショールーム等で、ぜひこの音を体験して頂きたい。必ずや驚くハズだ。
他にも本機にはエアコン動作中や雨天時に一部帯域を持ち上げる機能などがある。これは別の機会でレポートしたい。