クラス超えの“高コスパ”ヘッドホンが誕生!Kiwi Ears「Atheia」徹底レビュー
気鋭のオーディオブランドKiwi Ears(キーウィイヤーズ)から、革新的でユニークなヘッドホン入門機が新たに3つ誕生した。本稿では、ダイナミック/平面駆動のデュアルドライバー仕様の有線ヘッドホン「Atheia」を中心に、その魅力を野村ケンジ氏が紐解いていく。
ダイナミック型と平面型のデュアルドライバー搭載で美しいウッド仕上げの有線ヘッドホン「Atheia」
中国のECサイト、Linsoul Audioが2021年に立ち上げた「Kiwi Ears」は、先に誕生したTHIEAUDIO(セーオーディオ)同様、自社エンジニアが製品開発に携わる本格派のオーディオブランド。
そのいっぽうで、「いままで聴いたことのないような卓越したサウンド」を追求していたり、鳥のキ−ウィを名前やロゴに起用するなど、他社ブランドだけでなくTHIEAUDIOとも方向性の異なる、なかなかに個性的なブランドコンセプトを持ち合わせていたりもする。
製品ラインナップとしては、有線イヤホンを得意としつつ、ドングルDACなども展開。そして、この2025年はヘッドホンにも注力するとのことで、矢継ぎ早に新製品が登場している。そのなかでも注目に値する製品といえるのが「Atheia(アセイア)」だ。
Kiwi Earsでは、これまでも「Cadenza」「Quintet」「Orchestra」など、神話に着想を得たユニークな名称を採用する命名の伝統がある。Atheiaという名前は、ギリシャ神話に由来し、「真実」や「隠されていないこと」を意味する「アレーテイア」という言葉からインスピレーションを得ているそうで、自然なサウンドシグネチャーを提供するという理念を表しているという。
Kiwi Earsにとって革新的な入門機という役割を果たす有線ヘッドホン「Atheia」は、実に個性に溢れた製品だ。たとえば搭載ドライバーは、50mm口径のダイナミック型と14.5mm口径の平面磁界駆動型のハイブリッドという、ヘッドホンとしてはとても珍しいデュアルドライバー構成を採用している。これによって20Hz - 40kHzの広範な周波数帯域を実現しつつ、大音量でも歪みの少ない良質なサウンドを実現しているという。
また、上級モデルらしい丁寧なモノづくりも行われている。ハウジング部には立体的な造形のウォールナット製イヤーカップを採用。上質感のある外観を演出するとともに、優れた音響特性も両立しているとのこと。実際、ハウジング部の縁まで全体をウォールナットで造形している製品はあまり見かけない。こういった部分にも、手間やコストがかかっている様子が窺える。
いっぽう、ヘッドバンドにはアルミ合金製ブラケットと自動調整機能付きのヴィーガンレザー製ヘッドパッドが組み合わされている。ヘッドバンドのカーブやヨークのピボット角を最適化することで、重量分散に配慮したそうだ。さらに、ハウジング上部のステーで長さ調整も可能となっているので、スマートにピッタリとフィットしてくれる。柔らかい触感のイヤーパッドと合わせて、長時間の利用も快適に過ごせるはずだ。
このほかにも、スイーベル構造の採用と薄型ヘッドホンケースの付属により持ち運びが手軽だったり、両出しの着脱式ケーブルに3.5mm3極端子を採用しているので、接続位置がハウジングの深い位置のため少々製品を選ぶ傾向はあるものの、一部の市販ケーブルが利用できたりと、ユーザビリティーに関してもきめ細かい配慮がなされている。
試聴インプレッション「リアルかつ聴き心地のよいサウンドが楽しめる」
さて、気になるサウンドはというと、キレがよくスピーディー、それでいて爽やかな印象の高域と、たっぷりとした量感の低域によって明瞭かつ迫力のサウンドが楽しめる。とはいえ、あくまでも中域重視なのがKiwi Earsらしい。
距離感の近いボーカルが滑舌よく明瞭な歌詞を歌い上げてくれる。声色もリアル。かなり音量を上げても歪み感がない、リアルかつ聴き心地のよいサウンドを楽しませてくれるので、米津玄師や幾田りら、ヨルシカなど、 J-POPやアニソンも大変楽しい。
なお、ハイレゾDAPやドングルDACなどポータブル系アンプでも存分に楽しめる鳴りやすさはあるが、組み合わせとしては上級クラスの据置型ヘッドホンアンプをオススメしたい。というのも、Atheiaの音質的実力はかなり高く、ヘッドホンアンプをグレードアップすることでかなり魅力的な音を聴かせてくれるようになる。
正直な話、クラスを大きく超える実力を持ち合わせているので、ヘッドホンアンプにもそれなりの質をもつ製品と組み合わせたくなる。魅力的な音楽表現とともに、コストパフォーマンスも高い製品だ。
1万円切りのエントリー向け有線ヘッドホン「Ellipse」「Division」の実力もチェック
最後に、Kiwi Earsがラインナップしている他の有線ヘッドホン2モデルも紹介しておこう。「Ellipse」は、カスタムメイドのPU(ポリウレタン)+PEK(ポリエーテルケトン)複合振動板を採用した、50mm口径ダイナミック型ドライバーを搭載する開放型ヘッドホン。
ハイコストパフォーマンスモデルでありながら、フロアスタンディング・スピーカーの音響特性をヘッドホンで実現させたという、ユニークなコンセプトをもつ製品となっている。モノづくりに関しても決して手抜かりはなく、外観や装着感などは価格以上の良質さを持ち合わせている。
実際のサウンドはというと、明るく朗らかな音色で、スピード感あるキレのよいテンポがとにかく楽しい。伸びやかな高域のおかげで、女性ボーカルも魅力的だ。打ち込み系とも相性がよいので、J-POPやアニソンとのマッチングがよい。とはいえ、Atheiaほどではないがクラシックもまずまず楽しめる万能選手でもある。ヘッドホンアンプを選ばない鳴りやすさも持ち合わせているので、ハイレゾDAPやドングルDACなどで存分に楽しめるのも嬉しい。
もうひとつの「Division」は、モニタリングとDJプレイに最適なバランスに纏め上げられたという密閉型ヘッドホン。ヴィーガンレザーを採用するヘッドバンドと低反発素材を採用するイヤーパッドにより、長時間の装着も快適だ。
40mm口径のダイナミック型ドライバーによるサウンドは、現代的バランス派という表現が最適か。高域は伸びやかだがザラつきなく鋭すぎず、おかげで女性ボーカルが瑞々しい歌声を聴かせてくれる。
いっぽう、低域はたっぷりした量感をもち、メリハリの強さこそ先の2モデルに敵わないものの、迫力は充分といえるし、そもそも落ち着きのある帯域バランスにも仕上がっている。本来はモニター用なのかもしれないが、リスニング用としても魅力ある製品に感じられた。
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このように、Kiwi Earsの新作ヘッドホンはそれぞれに個性があり、それが魅力に繋がっている。そのサウンドをぜひ試聴して、自分にとってベストな1台を見つけ出してほしい。
【SPEC】
「Atheia」53,900円(税込)
●型式:密閉型 ●ドライバー:50mmダイナミック型+14.5mm平面磁界駆動型
●再生周波数帯域:20Hz - 40kHz ●インピーダンス:32Ω ●質量:380g
(協力:ナイコム)
※本記事は「プレミアムヘッドホンガイド最新号VOL.33」所収記事を転載したものです
