デンマーク伝統、オーディオベクターの誇り。最新AMTトゥイーター搭載「QR SEシリーズ」を聴く
QR 1 SE - AMTならではの音離れの良さや爽やかな描写
今回このシリーズの中から、唯一の2ウェイ・ブックシェルフ型となるQR 1 SE、フロアスタンディング型の入門モデルとなるQR 3 SE、シリーズ最上位となるQR 7 SEの3モデルについての音質レビューをお届けしたい。駆動するアンプはアキュフェーズの純A級プリメインアンプ「E-800S」、プレーヤーはアキュフェーズ「DP-770」を使用。ディスク以外にもUSB接続によりAstell&Kern「A&ultima SP3000」からのハイレゾ音源再生も試してみた。
はじめはQR 1 SEである。シリーズで最もコンパクトなモデルで、ゴールドリーフAMTトゥイーターと、15cmピュアピストン・デュアルマグネット・ウーファーによる、シンプルな2ウェイ構成のブックシェルフ型だ。バスレフポートはフロント下側へ細いスリットとして設けられている。能率は86dB。


クラシックのオーケストラは堂々とした厚みのあるハーモニーを聴かせ、管弦楽器のエッジも滑らかにまとめ、ハリ艶の良い響きとなっている。太鼓の皮のニュアンスもクリアに表現し、胴鳴りも伸び良く感じられた。諏訪内晶子『シベリウス&ウォルトン:ヴァイオリン協奏曲』のソロヴァイオリンは、スマートな音像ながら、旋律の柔らかさ、弦の立ち上がりの鮮やかさを歯切れ良く軽やかに描き出す。ジャズのホーンセクションはコシのある素直でハリの良い爽やかな響きで、ピアノも透明度が高く分離が良い。女性ボーカルはしっとりとした艶やかなトーンで落ち着きがある。
TOTO『TAMBU』〜Gift Of Faithでは、ベースの太さに対し、大口径キックドラムはアタック感を捉えた描写であり、軽やかに跳ねるグルーヴが心地よい。エレキギターのピッキングはジャキジャキとしたエッジの立ったフラッシーな描写で、ボーカルの口元はシャープに定位。スネアドラムやシンバルの響きはヌケ良くクリアで、全体的にメリハリの利いたサウンドとなっている。
QR 3 SE - 低域の表現力が高まり落ち着きのあるサウンドに
続いてはQR 3 SEだ。高域はQR 1 SEと同じゴールドリーフAMTトゥイーターで、15cm口径のピュアピストン・デュアルマグネット・ミッドレンジとピュアピストン・デュアルマグネット・ウーファーを1発ずつ搭載。スペック上はこのミッドレンジとウーファーをスタガー接続とした2.5ウェイとなっているようだが、クロスオーバー周波数は高域側が3kHz、低域側が400Hzという値が記されている。能率はQR 1 SEと同じ90dBだ。バスレフポートは同シリーズのフロアスタンディング型すべてが、底板方向に向けられたダウンファイアリング方式となる。

フロアスタンディング型であり、QR 1 SEよりもローエンドのゆとりが増し、中域の密度感も向上。特に低域の表現力が高まり、ベースの弦の艶やかさ、コシの太さも感じられ、より安定的なサウンドとなった。ボーカルもボディ感と口元の動きの繋がりが一層スムーズなものとなり、存在感が増している。高域の開放的で艶良く滑らかな表現はQR 1 SEとも共通だが、音像のボトム、芯の太さをより充実させ、重心の低い落ち着きのあるサウンド傾向となっているようだ。

小林研一郎・指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団『ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」』〜バーバ・ヤーガの小屋では、伸び良く輪郭をスッキリと見せる管弦楽器の鮮やかさ、余韻の爽快さが際立つ。大太鼓のアタックも明確で、ティンパニとの位置関係、描き分けも明確だ。それぞれのパートの芯の強さ、強弱の抑揚のトレースも適切に感じられた。
諏訪内晶子のソロヴァイオリンについても旋律の柔らかさ、弦のタッチの澄み切った表現に耳を奪われる。オーケストラの潤い良い響き、楽器の分離の良さ、バランスの整った描写力を実感した。
TOTOのキックドラムはよりアタックのファットさ、胴鳴りのエアー感が鮮明となり、ベースとのエナジーバランスも丁度よい。アコースティックギターやピアノの響きのブライトさ、ボーカルのシャープさがコントラストの良さに繋がり、ヌケ良く鮮やかなロックサウンドが展開。ジャズピアノの響きは涼やかで、女性ボーカルのウェットで滑らかな口元の動きも自然に感じられる。
QR 7 SE - 揺るぎのない安定感を誇るサウンド
最後にシリーズ最上位のQR 7 SEを聴く。上述したように高域は駆動面積を増やしたゴールドリーフAMTトゥイーター2を搭載。中域に1発の15cmピュアピストン・デュアルマグネット・ミッドレンジと、低域に2発の20cmピュアピストン・デュアルマグネット・ウーファーを搭載した3ウェイ4スピーカー構成である。周波数特性は23Hz〜52kHzと非常に広帯域。クロスオーバー周波数は高域側が他のQR SEシリーズと同じ3kHz、低域側は425Hzとなり、能率は90.5dBと幾分高くなった。

シリーズ最上位らしく堂々とした揺るぎのない安定感を誇るサウンドだ。中低域は重厚でどっしりと響き、高域はより強化されたユニットによって煌びやかさと密度感のバランスが取れ、軽やかだが音像の重みを持たせた表現を見せる。金管楽器やピアノ、シンバルといった高域に特徴のあるパートも、低域方向にゆとりを持たせて厚み良く描く。倍音表現の艶や音伸びも豊かであるが、きつい方向に作用しないのはS-Stopフィルターの効能だろう。解像度も高いが、ただフォーカスの良さを求めるのではなく、楽器の存在感、ハーモニーの豊かさや躍動感を大事にしたサウンド傾向であり、朗らかな表現力に強みを持っている。
オーケストラは密度良く重厚に響き、太鼓のディテールもアタックのハリと胴鳴りの厚みをバランス良く表現。AMTらしく管弦楽器の立ち上がりは素早く、金管パートの鮮やかかつエネルギッシュな旋律が印象的だ。木管パートはふくよかで厚みも十分。キメ細やかな演奏の機微も軽快に引き出し、ローエンドは太くリッチに響かせる。諏訪内晶子のソロヴァイオリンは潤い良く浮かび上がり、立ち上がりのふわりとしたニュアンスも丁寧に描き出す。胴の太さも自然で実在感がある。
ジャズのホーンセクションはコシが太く分離も良い。エナジーのある旋律はヌケ良く鮮やかに響き渡る。ピアノは低域弦の響きも深く、高域にかけてのハーモニクスも階調細やかに再現。アタックはクリアかつブライトで、シンバルの響きも浸透性がある。リズム隊のグルーヴは太く躍動的だ。女性ボーカルは肉付きも良く口元のハリ感も丁寧に描写。クールかつウェットな艶も、落ち着き良く滑らかに描いている。
TOTOのキックドラムもファットさをリアルに引き出し、ベースの力強さも弾力良く描く。エレキギターのリフもザクザクとしたエッジとパワーコードの厚みをしっかりと感じさせる。ピッキングの掻き鳴らしもエモーショナルだ。全体的にはリッチかつゴージャスな傾向だが、地に足の着いた落ち着きと爽やかで広がり良い空間性を併せ持つ、大らかなサウンドを楽しめた。
QR SEシリーズの3モデルとも、AMTトゥイーターらしさを前面に押し出すのではなく、スピーカー全体でどのように音楽を聴かせるのか。トータルでのバランスの良さ、密度や熱量の濃さに重きを置いたサウンド性を感じることができた。AMTトゥイーター採用モデルとしてはいずれも能率が高く、アンプ選びがしやすいこともメリットとなろう。AMTトゥイーターの持つ特長も感じさせながら、全帯域での音の繋がりの良さ、音像の存在を自然に感じさせる描写性は、他社のAMTトゥイーター搭載モデルのいずれとも違う傾向であるように思う。このQR SEシリーズを皮切りに、他のAUDIOVECTOR製品の展開も期待したいところだ。
(提供:プロスト)