最先端テック企業が目指す究極の高音質。シンプル&ラグジュアリー、デビアレ「ASTRA」レビュー
2010年に創業されたフランスの最先端技術企業、DEVIALET(デビアレ)。独自のADH(アナログ・デジタル・ハイブリッド)増幅回路を筆頭に、250以上のオーディオに関する特許技術を取得しており、薄くて軽く、しかし決して音質的妥協のないオーディオプロダクトを積極的に世に送り出してきた。
ブランドのデビューから15年、ついに次世代技術を余すところなく投入した最新プリメインアンプ「ASTRA」をリリース。ユーザー体験の核となるアプリも再設計するとともに、デザインも一新。その音質的到達点を、デビアレを長く愛好してきた角田郁雄氏が徹底解説する。
生活に溶け込むデザイン性高いオーディオ
ハイレゾ・ストリーミングの普及により、フィジカルとハイレゾデータの両方が楽しめる時代となった。折しもスタイリッシュな生活を求める方々も多くなり、シンプルでハイグレードなスタイルを求める方も増えている。まさに「One Speaker、One Amp」の時代の到来と言えるかもしれない。
リビングでスピーカーに対峙して聴く時もあれば、ソファでリラックスして流し聴きをすることもある。テレビの音声を高音質で聴きたい時もある。生活に溶け込んだオーディオが求められているのだ。
こんなことを早々と掴んでいたブランドがある。それは、2010年に創業したフランスのDEVIALET(デビアレ)である。初代D-Premierの光沢のある美しいフラットなデザインは、決してオーディオ機器であることを主張せず、リビングのサイドテーブルにそっと置くだけで、部屋の雰囲気を変えてしまう。
現行モデルであるExpert Proは、お気に入りのレコードや絵画とともに、壁掛けにしてもいいだろう。しかし、ひとたび音楽を再生すると、このエレガントな姿からは考えらえないほどの音楽の躍動が得られる。音はどこまでも滑らかで、濃厚さを漂わせるアナログ・テイスト。立ち上がりは俊敏でハイパワー。これはレコードを再生しようが、ハイレゾを再生しようが変わらない。
私は、デビアレのデザイン、音質、技術、使いやすさを高く評価している。その根幹を成す技術は、ADHテクノロジーだ。これは、滑らかで豊かな倍音を放つクラスAアンプと、高効率で高出力な特性を備えるクラスDアンプをハイブリッドしたテクノロジーだ。
最新技術を投入したASTRAがついに登場!
デビアレは、初代モデル発売から15年の開発期間を経て、さらなる進化を遂げたプリメインアンプ、ASTRAを登場させた。
ライトブロンズモデルは落ち着きのあるシルバーデザインで、サイドの細かなボーダー・ラインが、トッププレートの美しさや「D」と表示される円形の表示部を引き立てている印象だ。リモコンも実にエレガントで操作感もいい。
さらに特筆すべきは、パリ中心部に位置し、1875年竣工、1964年には、シャガールによる天井画が施されたパリ国立オペラ座(シャルル・ガルニエ設計)とパートナーシップを組んだ特別デザインも発売したことだ。
トップ・パネルには、ゴールドの葉を重ねたようなデザインが施され、そのグラデーションが実に美しい。23カラットの金箔を熟練の職人が手作業で仕上げたもので、ガルニエ宮の黄金の装飾を彷彿とさせる。いずれもステレオ、あるいはデュアル・モノを用意する。
その機能も豊富。入力としては、RCAライン入力の他、MM/MCフォノ入力を装備。フォノ入力の負荷抵抗や負荷容量、さらにイコライザーカーブまでRAMという、外来ノイズの影響を受けないデジタル処理で設定できる。
さらには、世界の代表的なスピーカーを最適に駆動するデータがあらかじめアルゴリズム化されたSAMという技術で再生できる方式を採用している。これらの各種設定は専用アプリやブラウザ上のコンフィグで、直感的かつ細部にわたる設定を可能にしている。
豊富な機能と純A級アンプに匹敵する音質を実現
内部回路についても紹介しよう。フロントを手前にして、電源部、デジタル処理部、ADH出力段が干渉なく、見事にレイアウトされていることに感激した。
フロント側と右サイドに電源部が見える。商用電源からピュアな電源を受け取り、ノイズの放出を低減するフィルター搭載の高品位スイッチング電源が特徴だ。
大容量コンデンサーを搭載し、多くの小容量コンデンサーも並ぶ。これは、大型トランス搭載のリニア電源に匹敵し、ハイスピード電源を実現。大出力にも安定した電源を各部に供給する。
アナログ入力端子の直後には、ADコンバーターがあり、即時にハイレゾ化し、FPGAを中心とした素子で、前述のRAMやSAMを実行する。
中央付近には、ADHの四角い基板があるが、これは2階建て構造。表の基板には、バーブラウンのDACチップ、PCM1792を2基使用し、DSDにも対応。その電流出力を抵抗で電圧変換し最短距離でDCオフセット増幅。これがMagic Wireという技術だ。
さらにバイポラー・トランジスターでクラスA増幅しマザー基板のクラスDアンプで最終増幅する。これがADHの仕組みであるが、今回のASTRAではこのADHが第2世代に進化。クラスDアンプのエネルギー消費と熱管理を最適化するとともに、クラスAとクラスDを結ぶコントロールボックスのアルゴリズムを改善。特に5kHz以上の歪み率を改善するとともに、周波数特性を80kHzまで伸ばすことに成功したという。
「ASTRA」レビュー:濃厚なアナログテイストで人の感性に馴染む浸透力
その音質をQobuz(mconnect Playerを使用)で聴いた。大きな特徴は、静けさを鮮明に引き出し、今まで以上に弱音から強音まで広いダイナミックレンジと俊敏な立ち上がりを実現することだ。音色に一層の滑らかさも加わり、CDクオリティの音源であっても、ハイレゾ・テイストの豊かな倍音が聴ける。
ASTRAの内部基板を確認する角田郁雄氏まさに純A級の音質と同等で、ピアノの弱音や余韻を聴くと、音の透明度が極めて高くなっていることも理解できた。力強いドラムスやベース、オーケストラのトゥッティにおいても制動力が高く、スピーカーを完全支配するところがある。
そして何よりも、人の感性に馴染む浸透力がある。私の好きなECMのトルド・グスタフセン・トリオ、ペンタトーンのクラシックの数々。そして、タンジェリン・ドリームのアルバムを濃厚なアナログ・テイストで再生してくれた。デュアル・モノ再生では、さらに広い空間と実在感のあるエネルギッシュなサウンドが堪能できた。私は、このモデルに喝采を送る。
取材Photo by 君嶋寛慶
(提供:完実電気)
