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【特別企画】自転車からヒントを得た独自のコーナージョイント

“軽量かつリジッド”を徹底追求。オーディオラック「グランドタワー」はいかにして生まれたか?

2021/05/10 林 正儀
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アンダンテラルゴの「リジッドテーブル」が誕生したのが2007年のこと。1台1台をオーダーメイドで製作し、オーディオラックの理想である「軽量・堅牢・コンパクト・制振」を初めて具現化した唯一無二のラックである。そして2019年には最高峰シリーズとして「グランドソロ」、さらに多段式の最高峰ラック「グランドタワー」が登場した。林 正儀氏が、その開発経緯に迫るとともに、音質をレポートする。

Andante Largo「GrandTower」 価格:高さ740mmの3段仕様で1,320,000円(税込)

■「グランドタワー」は“世界一、静か”。コントラストが鮮明で生命力に溢れる音楽

今日はアンダンテルゴのフラッグシップのオーディオラック「グランドタワー」の興味津々な試聴体験ができるという。従来のスタンダードモデル「リジッドタワー」との一本勝負だが、プレーヤーからプリ、パワーまで3点セットでそっくり入れ替え、どれくらい音質的な効果が出るのか? 実は同社の代表、鈴木 良さんも初試しだという。

グランドタワーとリジッドタワーの聴き比べを行う林 正儀氏

しかもCDとアナログプレーヤーの2システムで比較試聴する。アナログの方はリンのLP12とその電源、そしてプリアンプをラックごと入れかえる。最も人気のサイズである680シリーズ(高さ68センチ)の3段仕様で「グランドタワー」と「リジッドタワー」の音質を比較してみよう。

まずは簡単に「リジッドタワー」のもととなった「リジッドテーブル」の生い立ちから振り返ってみよう。「リジッドテーブル」の1号機の開発はまず、一般的なラックのメリット・デメリットを再考証することから始まった。組み立て式のラックはコスト・拡張性等のメリットがあるが、やはり強度を維持するのは難しかった。同社が理想のオーディオラックを開発するにあたり「リジッド」であること、そして「軽量」、最後に無意味な大きさにしないという意味での「コンパクト」の三要素をキー・テーマとして設計されたのだ。

2モデルの仕様の違いはまた後ほど。まずはCDシステムから聴いてみた。ブルックナーのシンフォニーとジャズ・ヴォーカル、オペラの3枚を使って「グランドタワー」と「リジッドタワー」を比較しよう。実際に比較してしまうと「グランドタワー」は別世界である。格の違いに愕然とした。

CDプレーヤーを最上段に置き、プリアンプ・パワーアンプをそっくり入れ替えて比較試聴

ざっくりいうならば、「グランドタワー」は“世界一、静か”なのだ。その結果、システムから聴こえてくる音は実に艶やかである。そしてすばらしくコントラストが鮮明。小音量での再生でもぼやけず、明瞭なのだ。これは同じコンポで再生しているとは思えない。ジャズもクラシックも音楽の起伏や空間の立体構造。そしてエネルギッシュな放出感が桁違いで、生き生きと生命力に溢れているのだ。

一方LP12を使用してのアナログシステムでの比較でも全く同じ結果だった。試聴した盤はジュリアス・カッチェン(ピアノ)による『ラヴェル/ピアノ協奏曲』と『カンターテ・ドミノ』、TBM盤の『ミスティ』だ。デジタルとアナログの差はあるが、これもラックのグレード差がダイレクトに現れた印象である。LP12はもちろんだが、世界の超弩級ターンテーブルのレファレンス・ラックとなることも間違いないと確信してしまった。

アナログはLINNのLP12を使って比較

■開発者に訊く「グランドタワー」の魅力。独自のコーナージョイントを開発

2007年、思えば重厚長大なオーディオラックが主流ななか、アンチ・世の中で180度違うコンセプトのオリジナルモデル「リジッドテーブル」がデビューしたのだ。

そしてリジッドテーブルの成功を元にその発展型として「リジッドタワー」が誕生した。 それから長い歳月の中でどのようにして100万円超の「グランドタワー」誕生へと結び付いていったのか? 改めて同社ラックシリーズの生みの親である鈴木氏に、質問をズバリぶつけてみよう。

開発者であるアンダンテラルゴの鈴木良氏(右)に「グランタワー」の開発ポイントを訊く

 「グランドタワー」はどのようなニーズから開発されたのですか?

鈴木 まず、最初のモデル「リジッドタワー」が弊社で初めてのオーディオラックとして誕生し、その後、多年にわたって徐々に改良を加えて現行のモデルとなりました。この製品の性能は価格を考えれば十分満足できるものです。ただし、このモデルとは別に初めから段違いに強度の高いラックを構想してみたらどうだろうという漠然とした思いが湧いてきました。そしてここに誕生したのが「グランドタワー」です。

 話が前後しますが、もともとなぜラックにそこまでの強度が必要なんでしょうか?

鈴木 木製天板を挟み込む形の組み立て式ラックでは人の目線ではしっかりして見えても、スピーカーユニットの振幅、CDレーザーの超精密トレース、ステレオカートリッジの針先の目線で見なおすと一般的な構造のラックは皆、グニャグニャで軟弱なものに見えてきます。それらの点を考慮し、強度と重量のバランスを突き詰めて開発を進めました。普通の方法で強度を高めようとするとどうしても重くなる。逆に軽くしようとすると強度が落ちる。「リジッド」「グランド」の両シリーズ共に、特にこだわったのがパイプフレームの強度を左右する3方コーナージョイントです。これはリジッドシリーズでもアルミ鋳物による強固な設計としていますが、グランドシリーズでは再度、徹底的に検証を重ねた結果、格段に強固なジョイントの開発に成功しました。それはジュラルミンの塊からの削り出しな上、高性能な自動旋盤を利用しても1日に数個しか作成できないことから、リジッド用に比べかなりのハイコストになってしまいましたが。

グランドタワーのフレームのコーナー部に用いるジョイント

 確かに「リジッド」用のアルミ鋳物ジョイントに比べ、「グランド」用は見ての通り、ジュラルミンの一品製作ものですね。これはとんでもなく凄い。ここまで強靭なジョイントを、どのように活かしたのでしょうか?

ジョイントは超々ジュラルミン7075からの削りだしとなっている。パイプの両端の内側ではなく外側と接着する設計とすることで、より堅牢なフレームの構築を実現している

鈴木 ラックの「軽量」ポリシーを少しだけ犠牲にしてでも圧倒的な強度による違いを一度試したかったのです。またそれに組み合わせるチタンパイプも、直径を「リジッドタワー」の25mmφから32mmφへと大幅に太くしてみました。「ここまでやる必要あるの?」と思う方もいるでしょう。しかし失敗した場合は「良い授業料を払った!」と思うことにして、理想のラック製作を進めました。

 ジョイントの接合方法も、従来の「リジッド」とは異なり、全く逆になっているようですが。

鈴木 その通りです。今まではパイプの中に肉厚のジョイントを埋め込む形でしたが、「グランドタワー」ではパイプを外側から被せるように変更しました。この形ですとジョイントの肉厚はかなり薄くできることで、トータルの重さは少し増えるとしても、圧倒的に強度が高まったのです。

 この構造は何か発想のヒントがあったのですか?

鈴木 伝統的な「オーダーメイド自転車」のラグ構造を見習った結果なのです。自転車の古典的フレームは極薄のクロモリパイプですが、ジョイント部(ラグ)だけは強度の高い構造となっています。

■オーディオラックは機器のシャーシそのもの。愛機本来の性能を引き出す

 改めて、パイプフレーム構造を採用した理由は?

鈴木 採用しているパイプ素材は軽量で強固な非磁性体でオーディオラックに向いています。しかも、からっぽ(中空)の方が音がよい。その理由は、重量の軽減だけでなく振動がより表面部分だけを伝わるからです。肉厚があればあるほど色々なルートができてしまう。そこに振動の伝達における位相のずれが生じるわけです。これは想像による理屈ですが実際に音が良いのです。

 目からウロコの話ですね。金属のパイプフレームの接合というのは普通にコストや技術面だけを考えれば溶接やロウ付けが一般的ですが、アンダンテラルゴのラックはどうして接着を採用しているのですか? この部分に何かノウハウはありますか?

鈴木 溶接では金属を真っ赤に熱し溶かすことで繋ぐわけですので、組みあがった後で必ず溶接熱による歪(応力)が残ります。これが音には非常に良くないのです。弊社ラックのジョイントとパイプ組み立ては特殊な2液性接着剤を使用し接着箇所全てを同時にゆっくりと硬化させながら組み上げていくのです。また、溶接箇所の周辺は不燃性という条件もあり、音質のために選んだ可燃性素材などは使用できませんね。燃えてしまいますから(笑)。接着剤の使用上、最も大事なのは接着温度の管理です。60度以上で最低1時間、フレームをじっと固定するという指定です。当社ではこれを90分間焼き釜に入れ硬化させることで最大強度を得ています。

フレームはより堅牢な32mm径、1mm厚のチタンパイプを採用。パイプの内側にはシリコンの多重コーティングとウエイトを内蔵し、スピーカー等からの共鳴を抑制。その他の内部スペースにもニュージーランド産羊毛を吸音・制振素材として挿入している

 あとは一本一本のパイプのチューニングと組み立てですね。以前工房を見学して、そこまでやるかと感嘆させられました。

鈴木 チタンフレームのパイプ内のゴムコーティングや共鳴を抑えるキャンセル・ウエイトを中心部に埋設している点は「リジッドタワー」や「リジッドテーブル」と同じです。非常に高価な流動性の高いシリコンを充填させ、パイプの内壁に薄く複数回コーティングした上で羊毛を詰めてダンピングしています。これらの事前処理を施したパイプはものすごく静かになります。この非常に繊細な作業は弊社の熟練スタップだけの手で慎重に組み上げられています。

グランドタワーの足元はスパイクとなっており、同社のサイレントマウントをスパイク受けとして推奨している

 ここまで公開していいのか、と思うようですが、このクラフトマンシップは誰もまねできませんね。「グランドタワー」がなぜ高価なのか、その答えがよくわかりました。

鈴木 はじめから売りたくて作ったというより、私自身が1人のオーディオマニアとして、これを作りたかったというのが本音です(笑)。試聴していただいたとおり、 世界に二つとないラックだと嬉しく思っています。

 「グランドタワー」はどんな方に使って欲しいのでしょうか?

鈴木 皆さんのオーディオ機器の音を飛躍的に良くするお手伝いがしたい。とは言え機器を改造するわけにはいきません。その代わりの手段となるのが「リジッドタワー」や「グランドタワー」だと考えています。ハイエンドのシステムをお持の方。スーパーマニアの方。このラックは皆さんの素晴らしい機器のポテンシャルを格段の高みへと引き上げてくれるでしょう。究極のオーディオを目指すハイエンドユーザーの方々にお薦めしたいですね。

 私自身もハイエンドユーザーさんには、高額な機器を買い換える前に「グランドタワー」を導入した方がいいですと言いたいですね。

鈴木 オーディオラックはいわば、機器を支えるシャーシそのものです。高性能なエンジンが存分に性能を発揮するには、強靭なシャーシが必要です。それと同じで、ご自身の愛機の性能を余すことなく引き出したい方に、ぜひともお試しいただきたいラックです。

 「グランドタワー」「リジッドタワー」にセットしたシステムを改めて聴き直していただくと、全ての機器が蘇るように感じるでしょう。生々しい描写力があって有機的でしなやかなサウンド。音楽の喜びを存分に引き出す究極のオーディオラックであるという思いを強くした次第です。アンダンテラルゴでは同社の取り扱い製品の無料貸出し(一週間)を実施していますが、ここにオーディオラックも加わったというトピックスが飛び込んできました。これを逃す手はないでしょう。

鈴木 「グランドタワー」、「リジッドタワー」とも680pの高さのもので、両方ともお貸出しが可能です。ホームページでご確認のうえ、まずはぜひご自宅のシステムで試してみて下さい。組み立てはとても簡単です。

アンダンテラルゴのオーディオ製品は、すべて1週間の自宅での無料レンタルが可能となっている。ご興味のある方は公式サイトからお申し込みを。

(提供:アンダンテラルゴ)

この記事は『季刊analog vol.71』 からの転載です。

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