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配信がまさかの大健闘

UHD BDとiTunesの4K/HDR映像をガチンコ比較!「パッケージソフトが最高画質」は本当か?

2018/02/23 秋山 真
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■マリアンヌ

では8K撮影で話題になり、最近はテレビメーカーのデモコンテンツとしてもよく使われる「マリアンヌ」はどうだろうか。

「マリアンヌ」

まずはメタ情報だが、UHD BD版はマスターディスプレイの最大輝度が1,000nit、最小輝度が0.005nitとだけある。よってUHD BD用マスターはHDR10でグレーディングされているようだ。

一方のiTunes版はDolby Visionなのでマスターディスプレイの最大輝度が3999nit、最小輝度が0.005nit、コンテンツのピーク輝度が4000nit、平均輝度が最大1,000nitとなっている。つまりメタ情報を信用するならば、「マリアンヌ」にはグレーディングの異なる2種類のエンコード用マスターが存在することになる。

実際の映像を見較べても、やはりピーク輝度方向の印象が異なる。ネオンサインの見え方がかなり違うのがお分かり頂けるだろうか。

UHD BD版

iTunes版

加えてこの作品では、それ以外にも少なからず差が認められた。特に顕著なのがナイトシーンだ。

例えばチャプター2の11:18あたり。2人が帰宅して部屋の明かりをつける直前の暗い壁が、iTunes版は階調割れを起こしている。その後の12:38からの屋上の場面でも、夜空のグラデーションにバンディングが発生している。

またデイシーンにおいても、iTunes版はブロックノイズこそ発生していないが、全体的にザワザワしていてディテールも潰れ気味。ビットレート自体は最大約30Mbps、平均約24Mbps出ているので、おそらく配信エンコード用マスターの画質が良くないのだろう。Dolby Visionうんぬん以前の問題だ。これではUHD BD版に大きなアドバンテージがあると言わざるを得ない。

■ダンケルク

4本目にして初めて、UHD BD版が大差で勝利した。この流れでラストは「ダンケルク」だ。筆者もIMAXシアターで鑑賞した作品で、その印象はまだ記憶に新しい。

「ダンケルク」

期待を込めてUHD BDを再生してみた。ところがである。冒頭から全然印象が違うのだ。まず劇中の天気がおかしい。たしか曇り空だったはずだ。なのに眼前に広がるのは明部の階調が全て飛んでしまった真っ白な空。さらには全ての人、物に対して、これでもかとキリキリに輪郭が強調された、あの時のIMAX上映とはまるでかけ離れた画調であった。

慌てて同梱されている2K/SDRのBDを再生してみると、こちらは劇場で観た印象とほぼ一致。一体何が起こっているのか?

そこでUHD BD版のメタ情報を調べてみると、マスターディスプレイの最大輝度が4,000nit、最小輝度が0.005nit、コンテンツのピーク輝度が323nit、平均輝度が最大144nitとなっているではないか。

一瞬、目を疑ったが、「ダンケルク」のUHD BD版はDolby Visionでグレーディングされてはいるものの、実際には323nitまでしか入っていないのだ。画像解析には欠かせないREGZAのヒストグラム表示機能で確認しても323nit以上の輝度は全く入っていないことが分かる。

UHD BD版のメタ情報。まさかのコンテンツのピーク輝度323nitである

UHD BD版のヒストグラム表示。323nitと思われるポイントから上がバッサリ切れている

ではなぜ、こんなにも空が明るく見えるのか。それはREGZAがコンテンツのピーク輝度値を最優先にしてディスプレイ・マッピングを行っているからだ。そして、もしコンテンツのピーク輝度情報が無い場合には、マスターディスプレイの最大輝度情報を使うという仕組みになっている。他の作品の比較写真でも明部に差が出ているのはこのためだ。

これは東芝が、より良いHDR再生を目指して考えた優先順位なのだが、「ダンケルク」の値が極端すぎて、裏目に出た格好となった。このことはREGZAの開発チームにも報告済みなので、今後はこのような作品に対して、何らかの対策が講じられる可能性がある。

ならば現時点で、X910を使って本来の姿に近い映像を観るにはどうしたら良いのか。ここで登場するのが「HDR明部調整」だ。ここをオートから手動に切り替え、数字をどんどん上げていくと、明部の輝度が下がり、階調も復活してようやく曇り空が出現する。もし他社製テレビでも同じ現象が起きた場合は、似たような調整機能がないか探してみよう。

HDR明部調整をオートから手動に切り替える



「HDR明部調整」を08〜09くらいまで上げると、ようやくiTunes版の明るさに近づくイメージだ

明部の階調が復活した


iTunes版のメタ情報。Dolby Vision→HDR10変換なのでコンテンツのピーク輝度が1000nitと表示される

iTunes版のヒストグラム表示。変換式による思われるメタ情報と違って、実際にはUHD BDと同じポイントから上が何も無い

それにしてもPQカーブ(ST 2084)は絶対値である。HDR10の場合、10,000nitに10bitを割り当てているわけだが、「ダンケルク」はこのうち323nit分しか使っていないことになる。どれだけ階調を無駄にしているのだろうか(ピーク輝度が低いことを悪いと言っているのではない)。

iTunes版はビットレートは最大約25Mbps、平均約17Mbpsと低めで、全体的にもうちょっとキリッとしたフォーカス感が欲しい。しかしマスター自体のシャープネスは適正で、輪郭強調のようなものは感じられない。一方で実際に収録されているピーク輝度はUHD BD版とほぼ同じ。ただしメタ情報上はマスターディスプレイの最大輝度が3,999nit、最小輝度が0.005nit、コンテンツのピーク輝度が4,000nit、平均輝度が最大1,000nitとなっているので、REGZAは4,000nitに合わせてディスプレイ・マッピングを行うことになる。そのため最初からちゃんと曇り空で再生された。

不満点もあるが、総合的に判断するとiTunes版の勝ちかな、と言いかけた。しかし、ちょっと待て。よく見たらアスペクト比がUHD BD/BD版はフルフレームなのに、iTunes版はシネスコじゃないですか…(泣)。というわけで、ダンケルクの戦いはUHD BDでもiTunesでもなく、BDの勝利に終わりました。嗚呼。

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