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アーティストへの利益還元問題も

Apple参入で競争激化? 元洋楽ディレクターが世界のストリーミング音楽配信を総まとめ

公開日 2015/06/04 11:52 本間孝男
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■ストリーミング・サービスには様々な種類や形態がある

ここで、ストリーミングサービスについて、改めてまとめよう。ストリーミングサービスを構成するポイントとして、以下の4つのキーワードを挙げて解説したい。

1)定額制音楽配信(インタラクティブ・サービス):Spotify、Rdio、Rhapsodyに代表される。月額10ドルほどで無制限視聴サービスが受けられる。PC、スマートフォン、タブレット、その他のデバイスで好きな曲の聴き放題が楽しめる。オフラインで楽しむためキャッシュ・サービスが利用できるが、月額の支払を中止した瞬間に手元にダウンロードした楽曲は聴けなくなる。広告付きの無料バージョンもある。無料の場合、選曲可能な視聴サービスはPCに限定されることがほとんどだ。

2)インターネット・ラジオ(ノンインタラクティブ・サービス):Pandoraに代表される。ストリーミングだが、ラジオ放送とほぼ同様に、チャンネルごとに一方的に楽曲が流れる。ビジネス的には広告モデルで、無料利用できるが好きに曲を選ぶことはできない。選局に加えて、ユーザーの好みをアルゴリズムで分析、局側が最適な曲を組込んだプレイリストを自動生成してくれるサービスも多い。

3)膨大な楽曲ライブラリー:主要なサービスは2000万曲以上の楽曲ライブラリーを用意している。各社ともカバーするジャンルやヒット曲、レア曲の有無などの大きなちがいはない(テイラー・スウィフトのようなケースは特異例と言える)。ちなみにダウンロードのiTunes Musicは2800万曲を用意している。

4)サウンドクオリティ:主要なストリーミングサービスでは、プレミアム配信で256kbpsまたは320kbpsのビットレートを採用。TIDALやQobuzといったサービスは1411kbpsのロスレス・CDクオリティの高音質配信を行っている。

■“プレイリスト”の時代

「ストリーミングの時代」は、イコール「プレイリストの時代」になろうとしている。プレイリスト(Playlist)とは再生リストのことだ。ラジオで放送された楽曲の曲順を書いたリストもプレイリストと呼ぶ。

音楽大国のなかで最もストリーミングが普及する国がイギリス。Spotifyの人気は特に高い。2013年、英国民はSpotifyで74億回再生した。この再生のほとんどがプレイリスト再生によるもの。Spotifyにあるアルバムは140万枚だが、その1000倍を超える15億のプレイリストが利用されている。

Spotifyは15億を超えるプレイリストを提供する。写真のようにジャンルや音楽を聴きたいシチュエーションからプレイリストを選ぶこともできる

冒頭から最後までを一気に聴けるアルバムを、人は「名盤」などと呼ぶ。いや、名盤と呼ばれる作品でも、はじめから終わりまで通して聴くことができる作品はわずかなのではないだろうか。ビートルズ『アビイ・ロード』やピンク・フロイド『狂気』のようなアルバムの数は、極めて少ない。

さらに我々は、iPodの登場以来、アルバム本来の作品性を意図的に無視して、恣意的に好きな楽曲を並べて再生することに慣れ親しんできた。先ほども述べた通り、ラジオだっていわばプレイリストによる再生だ。

パソコンやポータブルプレーヤー、あるいはオーディオファンが楽しむネットワークプレーヤーにおいては、プレイリストは自分の手持ちの楽曲で、自分で作るものである。

一方でストリーミングにおいては、プレイリストは膨大な楽曲ライブラリを背景に、いわばコンピレーションアルバムのようにサービス側で用意され、提供されるものだ。通して聴けるよう、選曲びも曲順も考えられている。平均聴取時間が70分/日を超えるSpotifyで、プレイリストが好まれるのは当然だ。

こちらはTIDALで提供されているアリシア・キース選曲のプレイリスト。有名アーティストが選曲したプレイリストが提供される場合も

プレイリストを作成し編成するスタッフをキュレーターと呼ぶことがある。キュレーターとは「curation(キュレーション)」を行う人のこと。キュレーションとは「精選」の意である。IT用語としては、インターネット上の情報を収集してまとめること。または収集した情報を分類し、つなぎ合わせて新しい価値を持たせて共有することを言う。

■“プレイリスト”はサービスの優劣を左右する

プレイリストはストリーミング・サービスの優劣を左右する重要な要素となってきている。

アップルはダウンロード・ビジネスの「iTunes Music」とインターネット・ラジオの「iTunes Radio」とストリーミング・サービスの「Beats Music」を母体にした有機的な統合を試みるようだ。このプロジェクトを、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーがプロジェクトを仕切ると言われている。

また、イギリスBBCラジオの人気DJだったゼイン・ロウの引き抜きに続き、BBCラジオからさらに3人のスタッフを引き抜く。加えてストリーミング・サービスでSpotifyを追うDeezerから、イギリスの幹部であるジェームズ・フォーレイのアップル参加が決まった。

プレイリストは大きな課題のひとつ。Beats Musicはプロフェッショナルが作ったプレイリストが人気だった。この流れの中に、優れたプレイリストで武装するというアップルの戦略が見える様な気がする。

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