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様々な記録から予測

ビートルズのハイレゾ配信はいつ実現する? 元洋楽ディレクターが徹底分析

公開日 2014/12/30 09:33 本間孝男
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■EMI解体によるビートルズへの影響

近年のビートルズを巡る動きを語る上で、EMIの解体について触れないわけにはいかない。2007年5月21日、EMIはガイ・ハンズ率いる英投資ファンドのテラ・ファーマ(Terra Firma)に、42億ポンドで買収された。資金は米金融大手シティグループが融資した。背景には、ロシア系ファンドがオーナーとなっているワーナー・ミュージックの敵対的買収を回避するという意図があったと言われている。

2011年11月11日、ユニバーサル・ミュージックは、EMIのレコード部門を19億ドル(約1,546億円)で買収することでシティグループと合意したと発表。同時に音楽出版部門は、ソニー率いる企業連合が22億ドル(約1,790億円)で買収した。2013年2月7日、ユニバーサル・ミュージックはEMIレコードの主要部門であるパーロフォン・レーベルを分離して、ワーナー・ミュージックに売却することに合意した。

■現役時代にビートルズが在籍したレーベル「パーロフォン」の売却

ユニバーサルミュージックによるEMIミュージック買収において、欧州委員会は競争法(独占禁止法)に抵触するという理由で、ユニバーサルに対してEMIミュージックの一部分を切り離し、第三者に売却するよう命じていた。その結果、名門パーロフォン・レコードが売りに出され、最終的にワーナーミュージックが買収した。EMIの英国のカタログでユニバーサルに残ったものは、ビートルズ(バンド・メンバーのソロ作品含む)の他はヴァージン・レーベルの作品とロビー・ウイリアムス(元テイク・ザット)だけとなった。名門EMIクラッシックも共にワーナーに売却された。

現在のパーロフォンのホームページ

パーロフォンはビートルズが在籍したレーベルだ。当初EMIと契約できなかったビートルズを傘下のパーロフォンと契約させたのは、プロデューサーのジョージ・マーティンだった。パーロフォンはビートルズの他にもピンク・フロイド、クイーン、ペット・ショップ・ボーイズやデュラン・デュランら多くのスーパースターを輩出した。現役の看板スターはコールドプレイだ。

■各メンバーのソロ活動のリマスタリング/リイシューをまとめる

ここで、ビートルズ4人のメンバーのソロ作品のリマスタリング、およびリイシューについてもまとめておきたい。まずジョン・レノンについては、2014年12月05日掲載の『命日を前に考える “ジョン・レノン全作品ハイレゾ化” の意味』で詳細を書いたので参考にして欲しい。すでに全作品のリマスタリングが行われ、ハイレゾ配信も行われている。

コンサートに新作レコーディングとメンバーの中で最も活発なのはポールだ。星の数ほどの作品を残してきたポールだが、版権は自らが設立したMPL Communications(MPLはMcCartney Productions Ltd.の略)が管理している。オフィスはアビイロード・スタジオ近くのセント・ジョンズ・ウッドにあるポールの自宅(1965年に購入した豪邸)だ。ビートルズを離れた後、ポールは慣れて使い勝手がわかっているアビイロードの第二スタジオをそっくりそのままこの豪邸の地下(MPLのオフィス)に再現して使っている。

e-onkyo musicで配信されているポールのハイレゾ作品一覧

2007年、EMIが投資会社テラ・ファーマに買収され、その後迷走する姿に嫌気がさしたポールは、新興レーベル「ヒア・ミュージック」(スタバとコンコルドのコラボレーベル)に電撃移籍。ポールの新譜はConcord Music Group(日本ではユニバーサル)が配給している。

2010年2月には、ポールは『マッカートニー』から『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』までの原盤権をすべてEMIから買い戻した。これを期に「アーカイブ・コレクション」と名付けたリマスターによるリイシューに着手した。全作品のリリースが完了するのは2016年とのこと。ハイレゾ配信も積極的に進めている。作業はMPLが中心になって行うが、全部で40作品近いのでフォローも大変である。

ジョージ・ハリソンはジョン・レノンと同様、アップル・コアが制作を担当。2014年10月15日にはリマスターボックスとして『アップル・イヤーズ 1968-75』が発売された。本作はジョージのアップル・レコード時代のアルバムをリマスターした6作品にボーナスDVDを付けたボックス・セットとなる。さらにSHM-CDでの単品発売もある。また、各アルバムには未発表音源を含むボーナストラックを収録(『ELECTRONIC SOUND』はボーナストラック無し)している。

ここに収録された音源は2014年の最新リマスタリングで、プロジェクトの監修を務めたのはジョージ・ハリソンの息子、ダニー・ハリスン。デジタルリマスタリングはハリウッドのラーセン・マスタリングで行われた。同スタジオからはギャヴィン・ラーセンとルーベン・コーエンが、アビイ・ロードからはポール・ヒックスが参加して作業が行われている。

リンゴ・スターのソロ作品については、現時点ではリマスタリングが行われていない。しかし、アップル・コアは2015年以降に各作品のリマスタリングおよびリイシューを予定している模様だ。



■ビートルズのハイレゾ配信は?

さて、ビートルズ本体のハイレゾ配信はどうなるかという問題。前述のように、現時点でデジタル配信に関してはiTunesが独占販売権を持つ。2011年には独占販売権が切れると予想されていたが、販売権は4年間ロックされたままだ。ハードロックのAC/DCやカントリーシンガーのガース・ブルックスのように、一流どころでもネット販売をOKしないアーティストがいるので(AC/DCは2012年にiTunes Storeで配信開始)、ネットの独占販売自体は異常とは言い切れない。現在のビートルズの契約条件が破格に良いのは間違いないので、高価格のハイレゾが販売されるなら、黙っていても莫大なお金がアップル・コアに転がり込んでくる。

アップル・コア/ユニヴァーサル側はMastered for iTunesの件もあってiTunes Storeに96kHz/24bitのハイレゾファイルを渡しているはずなので、後はアップルサイドの問題と見ているフシがある。iTunes Storeでビートルズ及びメンバーのソロのほとんどのタイトルは”Mastered for iTunes”で発売しているが、96kHz/24bitのハイレゾファイルのダウングレード販売である事に変わりはない。

iOSの課題(AIFF・ALAC・FLACなどファイル形式の整理)、iTunes StoreのAndroid対応、著作権保護など解決すべき問題はさっさと片付けて、ファンの期待に応えて欲しい。アップルが戦略的に販売権のロックをいつ解くか、これもハイレゾ配信実現へのひとつの鍵となるだろう。

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