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4人の筆者によるオーディオ連載

藤岡誠のオーディオ・ワンショット【第2回】これぞ“オーディオの王道”。エソテリックのプリ「Grandioso C1」

2014/08/28 藤岡誠
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藤岡誠が、自身の推薦するオーディオ機器、関連アクセサリー、あるいはコンポーネントの組合せ。またある時は新技術や様々な話題など、毎回自由なテーマで原稿を進めて行く新連載「藤岡誠のオーディオ・ワンショット」。第2回目は、エソテリックのGrandiosoシリーズに登場したプリアンプ「Grandioso C1」を取り上げる。

ESOTERIC「Grandioso C1」 ¥2,500,000(税抜)

■沈滞気味だったハイエンドの世界に強烈な閃光を放ったGrandiosoシリーズ

昨今のオーディオ界は、PC/ネットワークオーディオ、ハイレゾといった新しいプログラムソースの普及、台頭に伴って、USB-DACやヘッドホン、さらにはヘッドホンアンプなど、いわゆるゼネラルオーディオ、それも“今日的ゼネラルオーディオ”が膨張している。その一方、オーディオの王道たるピュアオーディオ/ハイエンドオーディオ機器の露出度が相対的に低くなったように思える。 

若い人たちの音楽の楽しみ方、聴き方が大きく変わったのだから当然といえば当然だが、オーディオがチマチマして再生装置のスケールが縮小。これまでオーディオの王道を歩んできた団塊の世代、もしくはそれ以上の世代の人たちは、その落差の大きさにたじろぐばかりである。かくいう私もその一人であることはいうまでもない。

こうした状況にあって、昨年2013年10月に出現したエソテリックの超高級コンポーネンツ「Grandiosoシリーズ」は、沈滞気味だったハイエンドオーディオ/ピュアオーディオ界に強烈な閃光を放ち、マニアたちのある種の飢えを癒すに十分な存在となった。

SACDトランスポート「Grandioso P1」(右)とモノラルD/Aコンバーター「Grandioso D1」(左)

モノラル・パワーアンプ「Grandioso M1」

当初のラインアップは、SACD/CDトランスポート「Grandioso P1」、モノブロックD/Aコンバーター「Grandioso D1」、そしてモノブロック・パワーアンプ「Grandioso M1」だった。なぜかシリーズに当然加わるべきプリアンプの姿・形がなかった。これについて質問したところ《現在、鋭意開発中》という回答があった。先行した機器に注入された強烈な拘りを目の当たりにしているだけに、そう遠くない時期に陽の目を見るであろうGrandiosoシリーズのプリアンプが、いかなる技術内容・機能を持ってデビューするのか、そして果たして価格がどの程度に収まるだろうか。興味と期待が膨らんでいた。

■満を持して登場したプリアンプ「Grandioso C1」

そしてついにデビューしたのがプリアンプ『Grandioso C1』だ。発売はこの9月だから、約1年の熟成期間があっての発売である。価格は¥2,500,000(税抜)。途方もなく高価な印象を抱くだろうが、本機を目の当たりにして、強烈な物・量の投入やこだわり抜いた回路技術、内部構造や使用部品の品位などを知り、実際に操作して聴くに及べば「買える・買えない」あるいは「買う・買わない」は別にして、何となく納得してしまうポテンシャルを持っていることは確かだ。

Grandioso C1とモノラル・パワーアンプ「Grandioso M1」(左奥)

そしてGrandioso C1は写真からも分かるように、本体と電源部が完全独立筺体の2ピース構成。本体の重量は21kg、電源部は29kg。合計50kgだからプリアンプとして超々重量級だ。本体と電源部はいずれもモノブロック思想、言い方を変えれば左右ch独立化と役割の分担が徹底的に貫かれている。というわけで、まさに贅沢の極みのプリアンプGrandioso C1がここに完成した。それでは以下、その概要である。

■電気的、機械的なアイソレーションを徹底したメインユニット

本体の内部には2基のモノブロック・プリアンプモジュール基板とコントロール系基板が収容されている。左右chが完全独立したプリアンプモジュール基板は、それぞれ入力アンプと出力アンプが上下2層で構成され信号経路の最短化が徹底されている。その上でこのモジュール基板は“バーチャル・フローティング・マウント方式”と呼ぶ、板バネによる独自のマウント構造でサポート。本体の強固なボディと相まって、電気的、機械的アイソレーションが徹底されている。

メインユニットの回路構成

回路は入力系統(RCA×2、XLR×3)ごとに専用のバッファーアンプでソースからの信号を受け、全段フルバランス伝送で出力バッファーアンプへ送り出す。出力バッファーアンプはD/AコンバーターのGrandioso D1のアナログオーディオ回路と同じ2,000V/μsという超高速OPアンプで構成され、しかも出力系ごとに独立。また、出力バッファーアンプの安定化電源部には片chあたり合計100.000μF(0.1F)もの驚異的大容量の安定化回路(EDLC=Electric Double-layer Capacitor)が組み込まれ、これによって電流伝送能力と瞬発力が向上しているという。このEDLCは直流電源供給の“巨大なダム”と捉えていいが、その効果は特筆に値する。音量調整回路は、左右chと正(プラス)負(マイナス)ごとに独立させた合計4回路のラダー抵抗切換型の素子が採用されている。これらは、出力アンプ基板と同居しているので無駄な配線がなく、ここでも信号経路の最短化が図られている。

メインユニットの筐体内部

■トロイダルコア型トランスが4基をマウントした電源部

電源部の構成も強烈だ。内部を見るとトロイドコア型トランスが4個マウントされている。その内訳は、入力アンプと出力アンプにそれぞれが独立。その上で左右ch独立だから合計で4個というわけだ。そしてこれらとは別にEI型トランスが1個あるが、これはコントロール系の電源トランスである。整流回路には大容量ブロックコンデンサー、Sic(シリコンカーバイド)ショットキーバリアダイオードなど上質な部品を採用。そして前述したように、電源部はモノブロック思想が徹底されており、本体への直流電源供給ケーブルが左右ch独立で2本。さらにAC電源ケーブルも左右独立で2本。こうした本機のモノーラル・コンストラクションへのこだわりと徹底ぶりに感心するのは、私ばかりではあるまい。

電源部の筐体内部

主な機能としては、ソースごとの音量差を解消するため入力のすべてが個別に利得調整可能。音量調整は5種類の音量変化カーブを選択可能。左右のバランス調整可能。入力ソース毎に位相設定可能。本体ディスプレイに入力側機器名をリモコンで設定表示可能。ディスプレイの自動OFFなどがある。そして入力切換と音量調整用ノブは、何れもアルミニウムブロックからの削り出しで触れた感触がリッチだ。特に音量調整のそれは滑らかそのもの。というわけで、操作感もまったくもって素晴らしい。それにしても重い、重い…。

背面端子部

■一切のもたつきがないハイスピードサウンド。そして別格の空間再現性

試聴はエソテリックの試聴室で行った。もちろん、組合せはすべてGrandiosoシリーズであることはいうまでもない。スピーカーシステムはタンノイの「KINGDOM ROYAL」である。

試聴はGrandiosoシリーズの各モデル、およびタンノイのフラグシップスピーカー「KINGDOM ROYAL」を組み合わせて行った。

聴けば声楽やフォルテピアノはナチュラル。現代ピアノや弦楽合奏曲もスルーな印象。とにかく、高分解能で高透明度。そして当然のようにワイドバンド&フラットレスポンス。とにかく一切のもたつきがないハイスピードサウンド。そして極めつきのS/N比とダイナミックレンジを持っている。空間再現性は“格別、別格”であって、音場の自然な広がりとピンポイント的な定位の有様は見事である。こうした評価は、一連のGrandiosoシリーズの機器とジャンルは異なっても共通する。つまり本機は同シリーズの血を絶対的に受け継いでいるのである。あえて本機を独立した単体のプリアンプとして評価すれば、前記の評価にプラスして、低域方向の伸張と低重心に長けていることを特記しておく。これは前記したEDLCが効果を発揮しているように私は思う。

こうなると欲が出てくる。私はGrandiosoシリーズにラインアップして欲しいジャンルがある。それは《フォノEQアンプ》である。これがラインアップされれば同シリーズは、アナログレコード再生にこだわり抜いている人たちに対しても、とても大きな説得力を持つことになるだろう。



【筆者プロフィール】
<藤岡 誠>
大学在学中からオーディオ専門誌への執筆をはじめ、50年を越える執筆歴を持つ大ベテラン。低周波から高周波まで、管球アンプからデジタルまで、まさに博覧強記。海外のオーディオショーに毎年足を運び、最新情報をいち早く集めるオーディオ界の「百科事典」的存在である。歯に衣を着せず、見識あふれる評論に多くの支持者を得ている。各種の蘭の他、山野草の栽培も長年に亘る。

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