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ブラックモデルも登場

音質とデザインが高次元で融合 − ゼンハイザー「MOMENTUM」を聴く

公開日 2013/02/19 14:59 中林直樹
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■MOMENTUMの音質をチェックする

では、聴いてみよう。音楽シーンでタイムリーな話題といえば、第55回グラミー賞の発表である。ゆえに、それを受賞したアルバムというテーマで再生することにしたい。いずれも音楽性と音質、ともにクオリティが高く、僕が試聴で頻繁に使用してきた作品たちだ。

「ベスト・トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバム」に選ばれたのはポール・マッカートニーの『キス・オン・ザ・ボトム』だ。ポールが幼少の頃親しんだトラディショナルソングを中心に、ジャジーにアレンジした作品である。ポールは終始ボーカルに徹している。

その中から「マイ・バレンタイン」というオリジナル曲を聴いてみたい。バックを務めるのは、ダイアナ・クラール(ピアノ)、ジョン・ピザレリ(ギター)など、それにエリック・クラプトンのアコースティックギター、さらにロンドン交響楽団のオーケストレーションも加わる。


ボーカルの再現性の高さは特筆もの。サウンドの細かなディテールを再現する能力も備える
まず感じたのは、ポールの声の深みである。それを中心としてオーケストラの弦楽器が、左右に滑らかさを湛えながら広がってゆく。優しくひっそりとバッキングを務めるピアノのニュアンスも豊かである。また、クラプトンのギターソロは実にきめ細かく表現されている。やがて、再びポールがボーカルとなると、やはりその歌声の濃さに驚かされた。ボーカルを軸とした大きな空間を描き出している。また、低域が程よく再生されているため、音楽自体に安定感が生まれているようだ。

もう一つはエスペランサの『ラジオ・ミュージック・ソサイエティ』である。これは「ベスト・ジャズ・ボーカル・アルバム」を受賞した。彼女は2010年度も「ベスト・ニュー・アーティスト」に輝いている。個人的には、ライブにも接してきたし、昨年はインタビューする好機にも恵まれた。知的でチャーミング、そしてアフリカン・アメリカンとしての強靭なアイデンティティが印象深かった。

さて、この作品は、そんな彼女のシンガー、およびベーシストとしての側面が存分に楽しめる。ジャズというより、R&Bに近いテイストで溢れたアルバムだ。では、5曲目の「ブラック・ゴールド」を再生してみよう。いきなり冒頭からMOMENTUMの特長を感じることができた。エスペランサの声の伸びに格別の味わいがあるからだ。あたかも、歌が空に向かって駆け抜けてゆくようだ。しかも、淡くなることはない。

また、このアルバムはベースがやや大きめにミックスされているため、ヘッドホンによっては、低域が盛り上がりすぎることもある。だが、MOMENTUMはベースを程よくタイトに聴かせてくれる。そのため、ベースラインがくっきりと再生され、弾むようなグルーブが音楽に生まれるのだ。また、歌、ベース、ドラムス、コーラス、ギターなど数多くの音が詰め込まれているが、それらが混濁しないところも高く評価できる。立体的なサウンドと言ってもよいだろう。

実は、この2作品はCDの音質クオリティを越えるハイレゾリューション(ハイレゾ)音源でも配信されている(米国のHDtracksから、ともに96kHz/24bit仕様)。このようにグラミー賞ウィナーがハイレゾでラインアップされている。つまり、これは高音質というキーワードがメジャーになりつつある証拠といえよう。もちろん、今回はこれらの作品をハイレゾで聴いた。CDと音質の差は歴然としている。それを感じられるかどうかは、ヘッドホンのクオリティにもかかっている。

また、音楽を聴くスタイルも大きく変容している。iTunesやAmazonなどでもクラウドコンピューティングによるサービスが開始されたし、Spotifyの上陸も噂されている。つまり、自身で楽曲を持たなくても、インターネット環境さえあれば膨大な音楽ファイルにアクセスできるのだ。そんな際にもまた、高品位なヘッドホンがあれば、より楽しいひとときが過ごせるだろう。

自宅ではじっくりとハイレゾファイルを、外出先では気軽にストリーミング配信を。MOMENTUMは、その両方にしっかりと対応してくれるヘッドホンだ。つまり、これからの音楽ライフをどんなシーンでも、勢いよく後押ししてくれるのである。


中林直樹
オーディオビジュアルの専門誌で編集に携わった後、独立。現在の肩書きは文筆業。そうしているのは、オーディオビジュアルはもとより、多種多様な業界や媒体に携わっているがゆえ。音楽の趣向も同様に節操なきありさまで、ジャズやルーツミュージック、前衛音楽にも食指を伸ばす。

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