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演奏の活気や楽しさを存分に味わえる

音の力感と密度を上げたヴィヴィッドな再生/濃密なサウンド − 「T-50」を貝山知弘がレビュー

公開日 2011/11/09 11:53 貝山知弘
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CAVジャパンから発売された今年の秋の新製品の中で、注目したいのが真空管ステレオアンプ「T-50」だ。この製品の特長は出力段にドイツで開発された5極出力管EL-156を採用していることだ。スピーカーに大きな電力を送り込む役目を果たしている出力管の性能や素性が音質を大きく左右することは、管球式アンプの常識となっている。


T-50
EL-156は今まで民生用のアンプで使用された例は少ない真空管だが、LPの全盛期にノイマン社のカッティングマシーンで使用されていた。プロ用途、しかも大電力で使用されるデバイスで重視されるのは信頼性。民生機で使用してもその特長は活きるはずだ。

本機ではこの球をチャンネルごとにUL接続のプッシュプル(2本並列)で使用し、45W×2の定格出力を得ている。UL接続とは、出力バランスの一次側に5極真空管の電極の1つであるスクリーン・グリッド用の専用タップを設ける方式で、5極管に近い出力電力と3極管に近い低歪率をバランスさせることができる。CAVのアンプには真空管とトランジスタを両用したハイブリッドアンプもあるが、本機の基本はオール真空管アンプ、使用球は12AX7、12AU7、6SN7(ドライブ段)、それにEL-156(出力段)だ。なお本機にはMM専用のイコライザーアンプが内蔵されており、LP再生に対処しているが、この回路では真空管は使わずICオペアンプを使用している。


出力段にEL-156を採用している
通常のシャーシのフロントと上方の半分に20mm厚のアルミ製サブ・シャーシを加えた筐体は、非常に頑丈な造りで信頼感を感じさせる。入力はRCA3系統。スピーカー端子は4Ωと8Ωで、使用するスピーカーのインピーダンスと合わせて使用する。6Ω表示のスピーカーは4Ωにつなぐのがいいとのことだが、音質の好みでどちらを選択してもいい。本機のサイズは決して大きい方ではないが、重量は33.4kgと重い。それだけ物量が投入されている証拠だ。

本機の奏でるサウンドは基本的に濃密である。クラシックのオーケストラの再生では厚いハーモニーが魅力的で、これは大編成のブラスバンドでもジャズのビッグバンドでも味わうことができる。低音域の力感はなかなかのもので、演奏の安定した土台を造り上げている。全体に再生帯域は欲張っていないが、通常の音楽再生で不足感を感じることはまれである。中音域や高音域は滑らかで音が突っ張ることがない。再生帯域の広大な大型スピーカーでは、ローエンドやハイエンドの伸びがもっと欲しくなるが、中型や小型のスピーカーで聴ける音域内での不満はない。

昨今のアンプでは繊細で緻密な表現を重視した製品が多いが、本機はそれとは異なり音の力感と密度を上げヴィヴィッドな音楽再生をこころ掛けており、それだけに演奏の活気や楽しさを存分に味わうことができる。時に粗さが顔を除かせることはあっても、それが違和感に繋がらないのは、音に魅力的な活力を感じるからだ。その底辺にはオール管球式アンプならではの素早い音の立ち上がりと、濃密なハーモニーの表現がある。一聴をお薦めしたい。

内蔵のフォノイコライザーは簡便なものと思っていい。特に音質的な欠点はないが、再生音域やダイナミックレンジが少し狭いと感じる。本格的なアナログディスク再生望むなら、外付けの専用イコライザーアンプを使うといい。

<貝山知弘 プロフィール>
鎌倉原住民。早稲田大学卒業後、東宝に入社。東宝とプロデュース契約を結び、13本の劇映画をプロデュースした。代表作は『狙撃』(1968)、『赤頭巾ちゃん気をつけて』(1970)、『化石の森』(1973)、『雨のアムステルダム』(1975)、『はつ恋』(1975)。独立後、フジテレビ/学研製作の『南極物語』(1983)のチーフプロデューサー。この時の飛行距離は地球を6周半。音楽監督を依頼したヴァンゲリスとの親交が深く、同映画のサウンドトラック『Antarctica』は全世界的なヒットとなった。94年にはシドニーで開催したアジア映画祭の審査委員をつとめる。『ボーン・コレクター』のフィリップ・ノリス監督、『ハムナプトラ』の女優レイチェル・ワイズとの親交を深める。カナダとの合作映画『Hiroshima』でのアソシエート・プロデューサー。アンプの自作から始まったオーディオ歴は50年以上。映画製作の経験を活かしたビデオの論評は、家庭における映画鑑賞の独自の視点を確立した。自称・美文家。ナイーヴな語り口をモットーとしている。

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