これって映画?

“映画らしさ”とは何か? 一石投じた『ジェミニマン』120/60/24fps上映、全部観た

永井光晴
2019年11月09日
映像技術が進化する3D映画『ジェミニマン』

(C)2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

10月25日公開のハリウッド映画『ジェミニマン』(原題:Gemini Man)は、『メン・イン・ブラック』シリーズ(1997/2002/2012年)や、実写版『アラジン』(2019年)で “魔法使いジーニー" 役を演じたウィル・スミス主演のSFアクション映画だ。

話題の中心は、ウィル・スミスが最新の映像技術で、かつてない “1人2役” に挑戦していること。ウィルが現在の自分と若い自分の2役を演じ、動きや表情の演技に若いウィルを重ねてデジタル技術で甦らせてしまうというものだ。

本作は『ブロークバック・マウンテン』(2005年)や『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』(2012年)などのアカデミー賞受賞作品で知られるアン・リー監督によって撮られた。『ライフ・オブ・パイ』で主人公がボートで漂流するシーンで、実在しないベンガルトラを3DCGで出現させた監督は、今回、約30歳若返ったウィル・スミスを登場させる。

アン・リー監督はまた、3D映画にも積極的で、『アバター』(2009年)のジェームズ・キャメロン監督と同じく、2D - 3D変換ではなく、2レンズの3Dカメラを使うことを是とする。さらに本作は、4K120fps(4K解像度・毎秒120フレーム)で撮影されており、初めて耳にする方も多いと思われる規格「3D+in HFR(3Dプラス・イン・ハイフレームレート)」で初めて上映される映画でもある。

過去には『ホビット 思いがけない冒険』(2012年)が、当時世界初の毎秒48フレームで上映されたことがある。本作はそれを更新するフレーム数で上映されることになる。

ちなみにアン・リー監督による毎秒120フレーム数での撮影は、前作の『ビリー・リンの永遠の一日』(2016年/日本未公開)から導入されている。

3Dプラス・ハイフレームレートとは

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「3Dプラス・イン・ハイフレームレート」とは、前述のとおり毎秒120フレームで高速撮影する技術。通常の映画は毎秒24フレームなので、フレーム数にして5倍。VFXスーパーバイザーのビル・ウェステンホッファーは「35倍のデータ量だ。通常なら見えない激しい動きの細部まで見ることができる」と述べている。アクション映画である本作のシーンを、より肉眼に近い状態で見ることができるのは、まさに画期的な映像進化といえる。なお、特別映像がYouTubeで公開中だ。


上映される映画館では「3D+in HFR」と表示されており、特別鑑賞料金が設定されている。これは各シネコンチェーンで異なり、TOHOシネマズでは通常料金に加えて3D(400円)+HFR(都内:200円/その他:100円)だが、MOVIXさいたまではドルビーシネマ料金にHFRが含まれるため、3D(400円)+ドルビーシネマ(500円)となる。

「3D+in HFR」には120fps上映と60fps上映があり、秒間フレーム数にして2倍もの違いがある。これがHFR上映の価格差ともいえる。なお国内の120fps上映はドルビーシネマ館だけである(最新の上映プログラムでは、MOVIXさいたま、梅田ブルク7、T・ジョイ博多の三館のみ)。さらに年末は大作が目白押しなので、早めに観ておかないと120fps上映が終了してしまう可能性がある。

3D上映方式に縛りはなく、とくにHFR専用メガネがあるわけでない。RealD方式、ドルビー3D方式、IMAX3D方式などの通常の3D上映と同じ3Dメガネで鑑賞できる。

ここでは重要なのは、毎秒120フレームといっても3D上映では「右眼用のフレーム」と「左眼用のフレーム」の2つが交互に存在する。つまり120fpsでは実質60フレームであり、60fpsでは実質30フレームとなる。ちなみに一般的な映画は24フレームなので、通常2D上映との差はわずかとなる。

HFR120fps上映/60fps上映/24fps上映をぜんぶ見た!

早速、『ジェミニマン』初日にMOVIXさいたまのドルビーシネマ館で、「3D+in HFR(3Dプラス・イン・ハイフレームレート)」を鑑賞した。

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第一印象は “とてつもなく明るい!” 。前述したとおり左右眼用のフレームに分かれる3D映画は、基本的に暗いシーンに弱い。作品によっては目を凝らしても、登場人物の顔がよく見えないことさえある。IMAXスクリーンなどで2台のレーザープロジェクターで明るさを稼いでいる劇場もあるが、「3D+in HFR」ではフレーム数が単純に増えることにより、画面の明るさというメリットを獲得していることは明らかである。

本作のオープニングはベルギーのリエージュ=ギユマン駅の美しい駅舎のシーンから始まる。ホーム上部にかかるアーチ状の屋根が突き抜けるようにクリアで、遠くまで伸びる構造の細部まで見通せることに驚きを隠せない。

アン・リー監督は、「動きが早いアクション映画でも、3Dカメラ撮影だからといってカット繋ぎでごまかすといったことをしたくありません」とコメントしている。なんといっても見どころは、バイクが細い路地を疾走するシーンからのアクションである。路地の疾走を3Dカメラでワンカット撮影しているのだ。

ご存じの通り3Dカメラはレンズを2つ積んでいて、固定された2つのレンズでも、個別にブレが発生する可能性がある。また撮影アングルをはじめとするフレーミングや、役者の動きなど、たいへんな準備がなされていることは容易に想像できる。それでも2D - 3D変換に逃げない監督の並々ならぬ執念が感じられる。

これって映画?デジタルビデオ的な滑らかな映像が悩ましい

ハイフレームレートになると映像はきめ細かいだけでなく、流れるようにスムーズになる。まるでデジタルビデオ、4K放送みたいに美しいのだが、これがやっかいだ。生涯で映画を何千本も鑑賞してきた筆者にとって、「映画は毎秒24フレームである」ということが刷り込まれている。秒間フレーム数が増えることは、コマ送り動画からの脱却なのだが、一方で “映画っぽさ” が失われていく。たえず進化する映像技術の歴史において、冷静に考えれば、こんなものは個人的なノスタルジーにすぎないはずだが、そんな経験値が仇(あだ)となる。

しかしながら、美しい3D映像を求めるアン・リー監督は120fpsを選んだ。監督にとっての3Dは飛び出す映像ではなく、より自然でリアルな実在感なのである。本作は3D映画なのに、まったく3D効果を強調していない。

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印象に残っているシーンは、洋上に停泊するクルーザーに、ウィル・スミスが乗船してきたボートが横付けされ、クルーザーに乗り込む際に、腕を差し出してウィルを引き上げるときの3D感くらい。むしろ、本作は観終わったあとに「3D上映」だったことを忘れている。

60fpsは120fpsを体験すると物足りなさも

続いて、場所をTOHOシネマズ日比谷に移して、3D/60fpsによる「3D+in HFR」を鑑賞する。最初に120fpsのドルビーシネマで観てしまったため、印象は普通の3D映画になってしまう。

もちろんHFRらしい、きめ細かな映像体験は確実にできる。しかしながら、もしHFR上映の120fpsを観ていないとしたら、アン・リー監督の考える本当の姿を知ることはできない。

念のため、24fpsの2D上映も確認のため鑑賞した。「吹替版」も観てみたいという気持ちもあった。ウィル・スミス演じる主人公のヘンリー・ブローガンの声を江原正士が担当し、若い頃のヘンリーのクローンであるジュニアを山寺宏一が演じている。歴代のウィル・スミス吹替声優の共演ではあるが、東地宏樹ではない。2人の声が似ているというか、山寺宏一が器用に似せているというのか、実に面白い。

24fpsはもっとも映画らしい、安心の2D映画という感想だった。しかしせっかく4K120fpsで撮ったのだから、24fpsで鑑賞するのは、もったいないと思ったりもする。

本作を120fpsで上映したのは国内ではドルビーシネマ3館だったが、2K上映である。オリジナルは4Kで撮られているにも関わらず。米国本土で120fps上映した14館も2Kどまりで、真のオリジナル上映ができる商業スクリーンは存在していない。

今後、HFRで製作・上映される作品の可能性については、『ホビット』シリーズのピーター・ジャクソン監督や、ジェームズ・キャメロン監督が準備を進めている、『アバター』の続編などが考えられそうだ。

<評価記録>
(2019/10/25/MOVIXさいたまドルビーシネマ/ビスタ/字幕:戸田奈津子)
(2019/10/25/TOHOシネマズ日比谷IMAX/ビスタ/字幕:戸田奈津子)
(2019/11/3/TOHOシネマズ錦糸町オリナスScreen6/ビスタ/吹替翻訳:小寺陽子)

『ジェミニマン』
ストーリー:あなたは、もう一人の自分(クローン)と戦えますか?
腕利きのスナイパーとして、その名をとどろかせるヘンリー(ウィル・スミス)は、政府からのミッションに臨むが、正体不明の人物から襲撃を受ける。自分の動きや考えを見越しているだけでなく、バイクを使った武術を繰り出す襲撃者にヘンリーは苦戦を強いられる。やがてヘンリーは襲撃者を追い詰め、襲撃者の正体が若いころの自身のクローンだと知る。

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原題/Gemini Man
監督/アン・リー
製作/ジェリー・ブラッカイマー
出演/ウィル・スミス、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、クライブ・オーウェン、ベネディクト・ウォン
配給/東和ピクチャーズ

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