カーオーディオの老舗がポータブル参入

<ポタ研>クラリオン、フルデジタルヘッドホン「ZH700FF」初披露。フローティングフラットドライバーも解説

編集部:風間雄介
2016年07月30日
クラリオン(株)は、「ポータブルオーディオ研究会2016夏」会場において、フルデジタルサウンドヘッドホン「ZH700FF」の発表会を開催。同社マーケティング部の井上陽介氏が製品の紹介を行った。

フルデジタルサウンドとフローティングフラットドライバーを採用したクラリオン初のヘッドホン、ZH700FF

本機は10月に発売される密閉型ヘッドホンで、価格はオープンだが14万円前後での販売が予想される。フルデジタルサウンドシステムを搭載しただけでなく、ドライバー構造として世界初の「フローティングフラットドライバー」を採用したことも大きな特徴だ。

装着時。前から見たところ

横から見たところ。片持ちのアームが先進的な印象だ

同社は1940年に設立された歴史ある日本企業で、長年にわたって家庭用オーディオ機器や車載用オーディオ機器を開発・販売してきた。井上氏は「イベントなどでは新興の海外企業と思われることもあるが、実はかなり老舗の日本企業」と同社の歴史を紹介した。

クラリオン マーケティング部の井上陽介氏

クラリオンは1940年設立の日本企業。連結売上は2,000億円を超える

近年同社はフルデジタルサウンドシステムに力を入れており、今年春には車載用のフルデジタルサウンドオーディオシステム第2弾となる「Z3」「Z7」「Z25W」を発売した。

2012年にポータブルフルデジタルスピーカー「ZP1」や最初の車載向けフルデジタルサウンドシステム「Z8」「Z17」を発売して以来、約4年に渡って技術やノウハウを蓄積してきたが、今回のヘッドホン開発にもそのノウハウを活かしたという。

クラリオンは1940年代から数多くのオーディオ製品を発売してきた

クラリオンのフルデジタルサウンド製品

また車載機器に強い同社がポータブルオーディオ市場に参入した理由については、「オーディオで一番盛り上がっているのはポータブル。市場拡大している市場であることが大きかった」ほか、「フルデジタルサウンドシステムが小さいスピーカーと相性が良い」ことも大きかったという。

通常のヘッドホンでは、ハイレゾを再生するためにDACやヘッドホンアンプなどの機器が必要になるが、本機は「Dnote」技術を使用することで、DACやアンプが不要なDigital to Digitalの接続が可能。音源を劣化させず、ダイレクトに駆動することで、原音に忠実な高音質再生が行えると説明している。再生周波数帯域は10Hz〜48kHz。ハイレゾロゴマークも取得している。

フルデジタルサウンドと通常のヘッドホンの比較イメージ

デジタル入力に対応しているのは192kHz/24bitまでのPCM音源。DSDの場合、機器側でPCM変換して入力する。

入力端子として、microUSB端子と光/ステレオミニ兼用端子を備えている。PCとUSBケーブルで直接接続したり、スマホとOTGケーブルなどを介してつないだり、DAPの光デジタルから出力した音声を入力したりなど、様々な機器と接続できる。

PCやスマホ、DAPなどと様々な接続が行える

装着時には隠れる場所に入力インジケーターを用意

なおUSBケーブルは、同梱の専用のものを使用する。「通常のものでも基本的に使用できるが、輻射の問題などを考慮して専用ケーブルとしている」(井上氏)。

ボリューム操作は右側のハウジングに装備している。また側面にはバッテリー残量を示すインジケーターも用意され、満充電時は緑、通常時は青、30%以下は赤が表示され、一目で残量がわかるようになっている。

色で表示するバッテリーの残量インジケーターを装備

ハウジング右側にはボリュームボタンを装備。左側には電源ボタンや接続端子を装備

高級ヘッドホンだけに、高品位なパーツを多数採用して音質を高めている。まず電源回路では、メイン電源と各ブロックの電源が干渉しないような構造を採用。そのために電源ICをたくさん使っているという。

そのほか、SILMICアルミ電解コンデンサーや導電性高分子アルミ固体電解コンデンサー、PMLキャパシターフィルムコンデンサーなども採用。「ハイエンドオーディオシステムで使われているようなパーツをふんだんに使用した」(井上氏)。

ハイエンドオーディオで使われる高品位なパーツを搭載した

装着性を高めることには最も苦労したという。画期的な方式を採用しており、さらにクラリオンにはこれまでヘッドホン開発の経験がなかったためだ。

装着感を高めるため専門家の意見を多数ヒアリングするなど時間をかけた

イヤーパッドやヘッドパッドにもこだわった

このため専門家の意見などを聞いたり、サプライヤーと協議したりなど、数年にわたって試行錯誤しながら開発。イヤーパッド前後の厚みに変化をつけ、振動板を適切な位置に傾けたり、左右のパーツ配置を最適化して重量バランスを整えるなどの工夫を行い、装着性の良さと音質を両立させた。

デザインにもこだわった。機能性とデザインを両立させることにこだわり、アームにはアルミダイキャスト、樹脂ハウジングカバーにアルマイト仕上げのアルミカバーを採用。また片持ちのアームバンドにしたのは、そもそも左右を接続するデジタルケーブルが非常に多いためだったのだが、「結果的に非常に先進的なデザインにまとめられた」(井上氏)。

デザインも高級感とスタイリッシュさを両立するようにまとめあげた

充電時間は約4時間となっており、電池持続時間はUSBモバイル接続の場合で約6時間、光の場合は約12時間、アナログの場合は約10時間。

フルデジタルサウンドシステムの原理とは?

ここからは、「ZH700FF」を知るために欠かせない「フルデジタルサウンドシステム」と「フローティングフラットドライバー」についてくわしく知るため、井上氏の解説をもとに紹介していこう。

まず「フルデジタルサウンドシステム」だ。これは文字通り、入力されたデジタル信号をアナログに変換せずに最終段まで持っていくというものだ。

フルデジタルサウンドシステムで音が出るまでの流れ

井上氏は「オーディオに詳しく、音が鳴る原理を知っている人ほど、ご理解頂くのが難しい。これまで100年近く音が鳴る原理は変わらなかったが、フルデジタルサウンドシステムは、その100年の歴史を変えると言っても過言ではない」と述べ、いかに画期的な技術であるかをアピールした。

フルデジタルサウンドシステムでは、PCM音源のカーブをプロセッサーで解析。最終段でそのカーブを再現できるよう、適切な信号を演算してデジタル信号を変換する。

その後、片側に4基搭載しているボイスサーキットを駆動するため、デジタル信号を分配する。このとき、たとえば信号が1だったら+3.3V、0だったら-3.3V、無かったら0Vなどデジタル信号に電圧情報を付加し、その電圧情報をボイスサーキットに渡す。すると振動板が振動し、空気を震わせて音が出る、というのが基本的な流れだ。

3段階の信号、4つのボイスサーキットによって9段階の振幅力を表現できる

非常に高速にスイッチングするため、元の信号を忠実に再現できる

つまりプラス、マイナス、ゼロ(null)の3段階の信号を、4個のボイスサーキットにそれぞれ送り込むことで、振動板を駆動する力を9段階で表現できることになる。

「たった9段階で大丈夫かと思われるかもしれないが、しっかりと滑らかな音を再現できる。それは1回の振動が0.02μsという超高速で行われるためだ。逆に言うと、このハイスピード処理が可能なLSIができたため、フルデジタルサウンドシステムを実用化できた」と井上氏は説明する。

またボイスサーキットを複数搭載した利点は、このほかにも2つあると井上氏は紹介。1つは複数のボイスサーキットを同時に立ち上げられるため、1つである場合に比べてレスポンスが速いこと。このため歯切れの良い音が表現しやすく「特にリズムが際立ったスピーディーな音楽とは相性が良い」とした。

立ち上がりが速いのはマルチボイスサーキットにした利点の一つだ

もう一つは、常に4つのボイスサーキットを使うわけではなく、信号によって電圧をかけるボイスサーキットを適切に選択するため、電力のムダな消費を抑えられること。これにより低消費電力での駆動が行える。

ボイスサーキットの駆動を適応的に行えるためムダな電力消費も抑えられる

世界初の技術、フローティングフラットドライバー

ドライバーも世界初の技術「フローティングフラットドライバー」を搭載している。基本的な構造は、平面振動板を穴の開いたケースとネオジウムマグネットで挟み込むというもの。スタックスやシュアのコンデンサー型ドライバー・イヤホンと似た構造となっている。

フローティングフラットドライバーの基本構造

平面振動板はエッジやダンパーが不要なフローティング構造とし、振動板の面全体をデジタル信号で高速応答駆動することができる。

井上氏は「ダイナミックドライバーは構造上、どうしても音が歪んでしまう。また一般的な平面方式もエッジがあるため、多少は振動板が湾曲して歪みが出る。エッジレスであるフローティングフラットドライバーはそれがない」とアピールした。

エッジレスのため歪みの無い音が再現できるという

なお、スタックスやシュアのコンデンサー型ヘッドホンやイヤホンでは、非常に高電圧なバイアス電圧が必要で、電力的な効率はよくない。だがクラリオンのフルデジタルシステムの場合、「フローティングフラット方式の能率の悪さを、フルデジタルサウンドの個電力効率の良さで補完している」(井上氏)。このためシステム全体では実用的な電池持続時間を実現することができたという。

クラリオンはポタ研にブースを出展。来場者がその音に真剣に耳を傾けていた

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