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成功した試みだけでなく大失敗例も

TCLブランド司令塔に聞く、成功と失敗の45年史。「日本重視」の理由も

公開日 2026/08/10 06:40 ファイルウェブ編集部
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TCLメディアツアー最終日のセッションでは、工場や技術に焦点を当てたこれまでの取材とは趣を異にし、ブランド戦略そのものに迫る内容が語られた。

取材にご対応いただいたのは、TCLテクノロジー ブランドマネジメントセンター(BMC:Brand Management Center)ブランドコミュニケーション総監 兼 副総裁補佐の陳雪君氏。TCLのブランドマネジメントを担う部署のキーパーソンだ。

TCLテクノロジー ブランドマネジメントセンターの取材の様子

「TCLの複数拠点を集中的にご覧いただき、TCLへの理解は深まった一方、多くの事業主体の関係に戸惑っているはずです。混乱がないよう、TCLの全体構造を体系的に整理してお伝えしたいと思います」

冒頭、そう切り出した陳氏のセッションは、45年に及ぶ社史から失敗談、ブランド戦略、そして「日本を今後の戦略的な重要拠点に据える」という宣言まで、2時間近くにおよんだ。じっくり紹介していこう。

2つのTCLと、それを束ねるブランドマネジメント

まず陳氏が紹介したのが、TCLテクノロジーとTCL実業という、完全に独立した2つの企業グループだ。TCLテクノロジーは、ディスプレイ事業のTCL CSOT(TCL華星)と太陽光エネルギー事業のTCL中環を傘下に持ち、TCL実業はテレビや空調などのスマート端末事業を担う。

TCL科技とTCL実業の担当分野を整理。2019年に分離した

株主も取締役会も経営陣も別。共有しているのは「TCL」というブランドだけで、そのブランドを一元的に調整し、両主体を横断してプロモーションを統括するのが、陳氏の所属するBMC(ブランドマネジメントセンター)である。

「TCLという3文字は、もともと『Telephone Communication Limited』の頭文字でした。現在、公式にはThe Creative Lifeと説明しています」と陳氏。共通のブランドスローガンは「INSPIRE GREATNESS」だ。TCLはオリンピックのワールドワイドパートナーだが、陳氏は「IOCも、オリンピック精神と当社のブランド理念は響き合っていると考えています」と胸を張る。

現在のTCLは「The Creative Life」の略称だ

倉庫で生まれたカセットテープ会社から。45年史の前半

続いて陳氏は、今年で創業45周年を迎えたTCLの歴史を、成功も失敗も含めて、くわしく説明してくれた。

「1981年、TCLの前身であるTTK家庭電器有限公司は、広東省恵州の倉庫の一角で生まれました。中国で最初期に認可された13の中外合資企業のひとつで、最初の製品はカセットテープだけでした」

TCLが創業してから現在までの道のり。陳氏は山あり谷ありの歴史だったと率直に述べた
 
創業したのは1981年。TCLの前身であるTTK家庭電器が生まれた

その後1985年に、中国初とされる無電源式ハンズフリー・プッシュボタン電話を開発し、ここで「TCL」ブランドが正式にスタートする。当時のTCLは「Telephone Communication Limited」の略だった。

そして通信製品で資本を蓄積した同社は、1992年、カラーテレビ市場に参入する。

「当時の中国のカラーテレビ市場は、松下、ソニー、東芝といった日本ブランドの天下でした。TCLは正面対決を選ばず、『大画面+本土化+地方市場の開拓』という路線を歩みました」

当時の「大画面」とは28型のことだ。TCLは高コストパフォーマンスの大画面テレビを、外資ブランドが浸透しにくい地方都市に自前の販売網を築いて売り込み、数年で中国テレビ市場の先頭集団に入った。

1999年にはベトナムに最初の海外工場を設立。「この時期のTCLは、1970 - 80年代に世界へ出ていった日本の家電メーカーによく似ています。効率的な製造、的確な市場ポジショニング、柔軟な販売チャネルで、本土から世界へ駆け出していったのです」

ハーバードの「失敗事例」にもなった大規模買収

順風満帆に見えた同社だが、その後、大きくつまずく。2004年、TCLはフランス・トムソンのテレビ事業とアルカテルの携帯電話事業を相次いで買収した。陳氏によると、中国企業が欧米の100年企業を大規模買収した最初の事例という。

2004年、トムソンのテレビ事業とアルカテルの携帯事業を買収。中国企業初の、欧米の100年あまり歴史がある企業の大型買収だったが、のちにハーバードで「失敗事例」として扱われた

「トムソンは世界のカラーテレビ産業の元祖です。買収で一気にグローバル市場へ入ろうとしました。しかし文化の違い、管理体制の衝突、そして技術路線の判断ミスなどが重なりました。TCLはブラウン管技術に賭けて、液晶テレビ化の波を見落とし、2年連続の巨額赤字に陥りました。この買収は一時、ハーバード・ビジネススクールで失敗事例として扱われたほどです。TCLの成長史でも、最も痛い教訓でした」

陳氏はこの経験を、かつてソニーがコロンビア買収で味わった苦労にもなぞらえた。

「TCLの創業者で董事長の李東生は、半年で体重が10kg落ちました。ただ、この2004年の国際買収でTCLは初めて本当の意味でグローバル市場に足を踏み入れ、同時にひとつの重要なポイントがはっきり見えたのです。端末のブランドと製造規模だけを持っていても、次世代のディスプレイ技術とコア部品の研究開発能力がなければ、産業の技術転換期に企業は極めて受け身になる、ということです」

総資産を超える245億元の投資。「オールイン」に成功した

この失敗で得た教訓が、2009年の決断につながった。パネルの内製、つまりTCL華星(TCL CSOT)の設立だ。

「最初の生産ラインへの投資額は245億人民元。なんと、2008年のTCLグループの総資産、232億元を上回る金額です。全財産を賭けたに等しい決断でした」

かつてシャープが液晶に社運を賭けたように、李東生氏は「計算されたリスクなら、あえて冒すべきだ」と押し切ったという。

パネル製造は想像以上に困難だったという。「クリーンルームは空気中の塵埃を1μm未満に抑える、最高レベルの清潔な手術室に相当する環境が必要です。1枚のパネルには数千の工程があり、ひとつ間違えば不良品です。人材探しも生産ライン建設もゼロからでした」

それから15年あまりで、TCL CSOTが急成長したのは、訪問記事でもお伝えした通りだ。

「現在のTCL CSOTは世界トップクラスのディスプレイメーカーになりました。自給できるだけでなく、サムスンやソニーなど世界の有名ブランドの中核サプライヤーでもあります」

「千億元の壁」を超え、2つに分かれたTCL

2014年、TCLグループの売上高は初めて1000億人民元を突破した。だが規模拡大の裏で、リスクも膨らんでいた。

「事業があまりに分散し、子会社の数は膨大になりました。管理の連鎖は長く伸び、大量の資金と経営資源が非効率な事業に流れていました。液晶パネルの下降サイクルも重なり、2015年から2018年、TCLの成長はほぼ停滞しました。『千億元の呪縛』にとらわれた時期でした」

2018年、TCLは全面的な改革に踏み切る。非中核・低シナジーの子会社100社超を整理し、低効率資産を切り離した。そして2019年、TCLの社史上、最も影響の大きい「自己革命」として、TCLをTCLテクノロジーとTCL実業という2つの独立主体に分割する再編を断行した。

「7年で2つのTCLを作り直した」。2019年の分割以降、TCLテクノロジーの売上は84億米ドルから270億米ドルと3倍超、TCL実業は117億米ドルから249億米ドルと2倍超になった

なぜ分けたのか。陳氏の説明は明快だ。「toB事業とtoC事業では、事業の性質が根本から異なるからです。上流のディスプレイは、ハイテク・重資産・長サイクルの事業。下流のテレビや家電は変化が速く、市場に強く影響される事業。統一した管理、評価基準、資源配分の仕組みでは、このまったく異なる2つの経営リズムに適応できませんでした」

「2社に分割すれば、TCLテクノロジー側は資源を集中し、上流のコア技術を開拓できる。TCL実業側は全力でブランドとグローバル化に取り組める。しかも両社は資本市場で評価される際のロジックも全然違うので、それぞれの業界特性に合わせて資本と接続でき、資金調達の効率と戦略の柔軟性が上がるのです」

親会社・子会社への分割ではなく、完全に対等な2主体への分割で、共有するのはブランドのみと陳氏は説明し、こう付け加えた。

「確かに特殊な形ですが、類似例はあります。米国のGEです。実は私たちの後、2023 -  2024年にGEも、医療・エネルギー・航空の3社に、株主・取締役会・経営陣が完全に独立した形で分割上場しました」

その結果は数字に表れている。スライドに掲げられたタイトルは「7年で2つのTCLを作り直した」。TCLテクノロジーの売上高は2019年の84億米ドルから2025年には270億米ドルへと3倍超、TCL実業は117億米ドルから249億米ドルへと2倍超に成長した。

さらに2020年には、TCLテクノロジーが125億人民元で天津の中環グループを買収し、事業を世界トップクラスの太陽光発電用シリコンウエハーおよび半導体ウエハーの量産分野へとさらに拡大した。

そして2025年、TCLはオリンピックのワールドワイドパートナーとなった。2026年ミラノ冬季大会から2032年ブリスベン夏季大会までの全大会に、最先端のディスプレイ技術とスマート端末を提供する。

松下幸之助や盛田昭夫に例えられる創業者、 李東生氏

この45年史の背後に常にいたのが、創業者で両主体の董事長を務める李東生氏だ。「中国企業界における彼の存在感は、日本でいえば松下幸之助氏や盛田昭夫氏に匹敵するとも言われます」と陳氏は語る。

創業者・李東生董事長の紹介スライド。「中国企業界での存在感は松下幸之助氏やソニーの盛田昭夫氏に匹敵するとも言われる」と陳氏

その半生は浮き沈みの連続だ。前述した2004年のトムソン買収後にはFortune誌の表紙を飾り、フランス国家栄誉勲章を受章してキャリアの頂点に立ったが、買収失敗による連続赤字で、2007年末にはForbesの「最悪の経営者」リストにも載った。

「それでも李東生は負けを認めませんでした。鷹は生まれ変われる、と。そして2009年、あらゆる疑いの声を押し切って全資産を賭け、TCL CSOTを立ち上げたのです」

李氏は70歳近い現在も第一線に立ち、グループ分割、中環買収、オリンピックTOP契約を主導しているという。「ソニーとのテレビ事業の戦略提携も、彼が背後で推進しました」。分割された2つのTCLにとって、ブランドの共有と並ぶ重要な結節点が、この創業者の存在と言えそうだ。

いまのTCLを数字で見る

では現在のTCLはどこまで成長したのか。陳氏が並べた数字は圧巻だった。

TCL実業では、2025年通年のテレビ世界出荷台数が2位。海外20か国以上でシェアトップ3に入り、オーストラリアやアルゼンチンでは1位、フランス、スウェーデン、ブラジルなどで2位、米国、カナダ、スペイン、韓国などでトップ3。エアコンは世界輸出ランキングで2位となり、世界トップクラスの地位を確立し、ARグラスのRayNeo(雷鳥)は世界出荷1位だという。

TCLテクノロジー側では、TCL CSOTが55型以上のテレビパネル、98型以上のテレビパネル、ゲーミングモニター、LTPSノートPC、LTPSタブレットという5カテゴリーでシェア世界1位を獲得している。

TCL中環は太陽光の結晶生産能力、G12ウエハー市場シェア、太陽光ウエハー市場シェア、高効率N型単結晶ウエハー市場シェアの4項目で世界1位だ。

TCL実業のシェアを説明するスライド。TCLテクノジーやTCL中環のシェアも非常に高い

興味深いのは、これらを貫く思想として陳氏が語った「屏宇宙(スクリーンユニバース)」という概念だ。

「画面はあらゆる場所に、あらゆるサイズ・形態で存在するようになります。テレビだけではありません。タブレットも、ARグラスもあります。人はスクリーンを通じてデジタル世界と対話する。私たちはスクリーンを、未来のAIの物理世界への入り口だと考えています」

AI時代に画面の需要は消えるどころか、むしろその価値が増すという読みである。TCL CSOTが掲げる技術ブランド「APEX」も、快適な表示体験、視覚の健康、グリーン・低炭素、未来への想像力という4つの価値を束ねたものだ。

TCL CSOTの技術ブランド「APEX」。快適な表示体験、視覚の健康、グリーン・低炭素、未来への想像力という4つの価値を束ねる

ブランドIPは「少数精鋭・長期主義」。4つの人文IP

後半のテーマは、BMCが主要業務として行っているブランドマーケティングについてだった。

TCLは自前の「人文IP」として4本柱を育てている。オリンピックやFIBA(国際バスケットボール連盟)、eスポーツなどを通じて世界の若者と接点を作る「TCLYoung」。2021年に始めた女性エンパワーメントの「TCLforHer」。環境の「TCLGreen」。そして「TCLArt」は、テクノロジーとアートを融合し、世界トップクラスの博物館・美術館などのIPとの協業や、米国ロサンゼルスにあるハリウッドTCLチャイニーズ・シアターなどのブランド資産を組み合わせ、アートを広く身近にする長期的なプラットフォームを構築するとともに、AIを活用した映像制作支援プログラムも展開している。

TCLのブランディングを説明したスライド。変革・創新・グローバル化という中核思想を、Mini LEDなどの技術が支え、TCLYoung/TCLArt/TCLGreen/TCLforHerの人文IPで表現する

IP選定の思想を、陳氏はこう明かした。

「BMCが管理するグローバルIPは、実はとても少数精鋭です。オリンピック、FIBA、ハリウッドTCLチャイニーズ・シアター、アート。このラインナップからわかるように、私たちは自らをグローバルのハイエンドブランドと位置づけて選んでいます」

「オリンピックのワールドワイドパートナーは世界で12 - 13社しかありません。資金があれば入れるものではなく、企業の実力に加えて、ブランドの価値観がオリンピックと合っているかも選定基準として見られます」

もうひとつのキーワードがロングタームだ。「ハリウッドTCLチャイニーズ・シアターとは15年契約。オリンピックも2026年から2032年までの契約で、さらに更新の可能性もあります。ハイエンドブランドは長期で経営するものです」

一方、米国のNFL、欧州のアーセナル、スペインやアルゼンチン、ドイツの代表チームといったスポーツIPについては、各国の現地チームが選んだものをBMCが尊重して支援する「下から上へ」の構造だといい、「我々はサッカーW杯の公式パートナーではありませんが、各国代表とのローカル契約があるので、W杯の会場でもTCLのロゴを見ることができるんですよ」と語った。

「日本をブランドの重要拠点に設定した」

そして日本の読者にとって最も重要な発言が、グローバル本部と重点地域の連携の話の中で飛び出した。

「日本は、私たちが次に戦略的な突破を図るべき市場です。日本市場へのブランド投資をさらに拡大し、ローカル化を深めていきます」

具体例として陳氏が挙げたのが、TCLジャパンが選んだIP起用へのBMCの支援だ。

「日本の現地法人が選んだ山崎賢人さんというIPを、BMCが支持しました。地上波テレビでの展開や、大型の屋外広告への投資もBMCが後押ししました」

日本で始まった山崎賢人氏起用のブランドキャンペーンは、日本法人が立案しつつ、BMCが予算を傾けて支援した戦略投資なのだ。

日本向けブランドキャンペーンの映像に登場する山崎賢人氏

テレビの次の「顔」はエアコン

プレゼン後の質疑応答も、興味深いやり取りが続いた。「テレビの次に、TCLのイメージを代表する製品は何になるか」という質問には、「TCL実業の側で言えば、次の社内スターは間違いなくエアコンです」と、きっぱり述べた。

「『小藍翼』シリーズや睡眠エアコン、AIエアコンといった製品のコア技術は、もっと知られる価値がある。皆さんが見学されたTCLエアコン広州スマート製造拠点のような、サプライチェーンの卓越性もあります」

TCLエアコン広州スマート製造拠点も見学した。世界中に輸出しているためエアコンの機種は多種多様。それをAIを駆使した工場で、ロボットが作り上げていく

「TCLのエアコンはすでに世界輸出2位の実力がありますが、『TCLの家電といえばテレビ』という認知が先行して、TCLのエアコンをはじめとする白物家電全カテゴリーの認知はまだ足りていません。BMCとしてもリソースを傾け、存在感を高めていきます」

今回のメディアツアーでは、TCLのエアコン工場も視察した。ロボットがほぼ全ての工程を自動的に作業し、AIも活用して管理する最新鋭工場で、その先進性に驚かされた。完全に人がいないため照明が必要なく、24時間稼働する「ダークファクトリー」もあったし、人型ロボットもラインに立っていて、リモコンの不良品があると選別する作業にあたっていた。

そして「若い世代のテレビ離れが進む中、TCLのテレビはどう対応していくのか」という問いには、再び「スクリーンユニバース」をポイントに掲げた。

「スクリーンの需要は消えていません。形を変えているだけです。米国ではテレビは今も家庭娯楽の中心で、スポーツ観戦にパーティーと、大画面に人が集まる。中国では55型から75型へと大型化が進み、視聴時間はむしろ増えました。そして将来は透明スクリーンやフレキシブルスクリーンといった新しい形態も研究しています。人とAIが向き合うとき、そこには必ずスクリーンがあります。TCLはその入り口であり続けたいのです」

長時間にわたる説明だったが、成功事例だけでなく、失敗した過去まで、率直に伝えていたのが大変印象的だった。この姿勢がTCLの文化を表していると感じた。

かつては低価格・高コスパの代名詞だったTCLブランドが、素材と技術への長期投資を土台に、オリンピックやアートなどで「プレミアム」化を進めている。

その転換のポイントを、ブランドの司令塔のキーパーソンから直接聞けたのは貴重な機会だった。「日本をブランドの重要拠点に」という宣言が、具体的にどんな展開となって表れるのか。今後の展開に注目したい。

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