HOME > インタビュー > パナソニック「DMR-ZR1」開発者インタビュー後編。22.2ch→アトモス変換はこうして生まれた

“パワーポイント70枚以上”の仕様原案をほぼ実現

パナソニック「DMR-ZR1」開発者インタビュー後編。22.2ch→アトモス変換はこうして生まれた

公開日 2022/02/14 06:45 秋山 真
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革命的機能「22.2ch→Dolby Atmos変換」開発の裏側

秋山:さて、大変長らくお待たせしました!ここからはZR1による革命の1つ「22.2ch→Dolby Atmos変換」についてお伺いしたいと思います。

Dolby Atmos環境があれば、自宅でも22.2ch音場を余すことなく楽しめるという、まさに革命的な機能だ

梅迫:4K放送の22.2ch MPEG-4 AAC Bitstream出力自体は2021年秋モデルから対応していました。他社さんのレコーダーでは現状5.1ch止まりです。問題はDIGAが22.2chで出力できても、それを受けられるAVアンプが存在しないことでした。

秋山:シャープの22.2ch対応サウンドバー「8A-C22CX1」では受けられるのでしょうか?

藤本:はい。MPEG-4 AACのBitstream出力に関しては、サウンドバーやAVアンプ等を接続し、22.2ch対応機種では22.2chまでを、5.1ch対応機種では5.1chまでを確認しています。

梅迫:DIGAでは4K初号機のDMR-SUZ2060から22.2chの記録に対応しています。これはソシオネクストのチップならではの仕様です。にも関わらず、これまではわざわざ22.2chのPCMにデコードしたものを5.1chにダウンコンバートして聴いていたわけです(2021年秋モデルと8A-C22CX1の組み合わせは除く)。

これは実に勿体無いと思っていました。というのも私自身、ZR1の前には「SC-HTB01」というDolby AtmosやDTS:Xに対応したサウンドバーの開発をしていたんです。それもあって、何とかして22.2ch音声をDolby Atmos環境で再生できないかと考えるようになりました。

そこでドルビー・ジャパンさんに「レコーダー側で22.2chをDolby Atmosに変換する技術ライセンスはありますか?」と問い合わせてみたのですが、NHK技研公開でもデモをされていたように、Dolby Atmos変換技術自体は開発されていたものの、いかんせん22.2ch放送は日本だけの規格であり、残念ながらすぐに製品に導入できるライセンスはありませんでした。インターネット上のいろいろな記事を読んでみると、AVアンプ側で変換するような方向で考えられていたようです。

しかし、送り出し側で変換した方が、既存のDolby Atmos対応AVアンプやサウンドバーが使えますよね。そこからはドルビーさんと技術開発、およびライセンス化に向けて交渉を粘り強く続けていきました。それが2020年の初めごろです。しかし、本当に実現できるのかはギリギリまでわかりませんでした。

梅迫氏が携わっていたDolby Atmos・DTS:X対応サウンドバー「SC-HTB01」

藤本:ソシオネクスト社のチップは、MPEG-4 AACの22.2chをPCMにデコードできる、音声処理能力が優れたチップです。そこでDIGAの強みを活かした方法として、「Dolby Atmos in Dolby MAT(以下、Dolby MAT)」というコンテナフォーマットを使う案が浮上しました。これはデコードしたPCMのストリームにオブジェクト用のメタデータを付加して伝送する方式で、主にPCゲームのDolby Atmos再生などで使われています。Dolby Atmos対応AVアンプやサウンドバーならば受け取り可能な音声フォーマットです。

梅迫:オーディオビジュアルの世界では、Dolby Atmosを伝送する仕組みはロスレスのDolby TrueHDや、ロッシーのDolby Digital Plusが一般的ですよね。私もDolby MATのことはサウンドバーを開発した時に知りました。ただし、今回は使い道が放送用なので一筋縄ではいきません。例えば、22.2ch放送の前後の番組が2chや5.1chだった場合、いちいちフォーマットを切り替えていたら、HDMIの再認証が入って音声が途切れてしまいます。

そこでドルビーさんと、モノラル、2ch、5.1ch、7.1chなどが入ってきた場合にもDolby MATのコンテナを使用したままで、シームレスに再生できるように仕様の追加を行いました。その場合はオブジェクトデータを付加しませんので、オリジナルのチャンネル数どおりのストレート再生になります。

藤本:当然、ドルビーさんが開発した変換アルゴリズムを実装したソシオネクスト側にも、デコード後のチャンネルアサイン方法など細かな仕様変更に対応いただきました。正直、開発はかなり手こずりました。でも実際に完成して聴いてみると、やっぱり5.1chダウンミックス再生とはまるで違うんですよ。オリジナルの22.2chと同じように、ちゃんと上から音が降ってくるんです。これは是非体験していただきたいですね。

梅迫:これを機に、22.2chの番組が増えてくれると嬉しいですね。また、2018年の4K放送開始以来、NHKさんの4K放送番組として、我々が数えただけでも少なくとも170以上の番組が22.2chで放送されています。

DIGAでは4K放送対応の初号機DMR-SUZ2060から22.2chの記録に対応していますので、もしこれらのDIGAをお持ちでしたら、4K DRで録画した番組をBDディスクにタビングしてZR1で再生すれば、Dolby Atmos変換が有効になりますし、4Kお部屋ジャンプリンクに対応したモデルなら、ネットワーク越しにDolby Atmos変換することもできます。

秋山:このDolby MATを使った22.2ch→Dolby Atmos変換技術については、日本オーディオ協会が発行する「JASジャーナル」でもドルビー・ジャパンさんとの共著で詳細な解説記事が掲載されます。私もそれを読んで勉強したいと思います。
※該当記事を掲載したJASジャーナル2022年冬号(Vol.62 No.1)はこちら

同事業部 技術センター ハード設計部 ハード設計六課 四係 主任技師 梅迫 実氏

同事業部 技術センター プラットフォーム開発部 プラットフォーム開発一課 三係 藤本 和生氏

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