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<山本敦のAV進化論 第177回>

ソニーは「Xperia 1」で“未開の感動画質”に踏み込んだ。「もう後には引けない」レベルのこだわりとは?

公開日 2019/07/19 07:00 山本 敦
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Xperiaとして未開の感動画質に踏み込んだ

Xperia 1に載せるディスプレイの試作は、ソニーがプロフェッショナル向けの製品として展開する業務用リファレンスモニター「BVMシリーズ」の映像をベンチマークとして画質の追い込みが始まった。

松原氏はソニーモバイルのエンジニアが働く現場にソニーの30型4K有機ELマスターモニター「BVM-X300」を持ち込んで、厚木のプロフェッショナルチームがふだん画質評価を行う環境を模して部屋の明るさも揃えた。この場所で松原氏は半年以上、Xperia 1の画づくりに邁進してきたそうだ。

画づくりの第1段階では、新しいXperiaをBVM-X300の映像に合わせ込むことが課題とされた。ところが元のデバイスが異なるため、実は単純に画づくりを合わせることすら困難だったと松原氏が振り返る。

「スマートフォンは屋外も含めて様々な場所で使うデバイスなので、画面の明るさが変わっても色彩のバランスを崩さないことを重視したパネル設計になっています。一方で業務用マスターモニターは、暗い室内で使うことが一般的なので、その明るさは100カンデラ前後になります。最初はXperia 1の試作も同じ輝度環境で色合わせを行いました。その後は徐々に周辺環境の明るさを上げながらチューニングを繰り返してきました」(松原氏)

BVMシリーズと見た目の印象を同じくするためには、Xperiaのディスプレイに特有の “味付け” が必要になることはわかっていた。そのうえでXperia 1の画質を、見た目の印象が揃うところに向けて、変わる条件下で繰り返し合わせ込むという作業手法が採られた。岡野氏は「画づくりの基本となるベースを丁寧に作り込めば、使用環境が変わっても一貫した映像が届けられます。そのためには測定器で半ば自動的に調整できる範囲を超えて、ディテールに踏み込んだチューニングが求められる」と話している。

従来のXperiaシリーズが搭載する映像エンジンも、膨大な範囲に渡る調整可能なパラメータを備えていた。だが、これまでは測定器を使って計測できる範疇で土台部分の画質調整を行うところまでに止まっていた。

クリエイターモードの作り込みを始めるにあたり、松原氏をはじめ、ソニーモバイルのディスプレイ担当のエンジニアは業務用機器のエンジニアからノウハウを受け継ぎながら、これまで手付かずだった画質調整のパラメータを、視覚的感性を頼りにマニュアルで細かく追い込んでいく領域に足を踏み入れたのだ。

作り込まれた「クリエイターモード」の搭載も大きな特徴

BVMの画づくりの知見を得ながら磨き上げられた画質

ソニーの業務用機器の開発チームは、日ごろから画質評価に使うリファレンスの映像コンテンツを松原氏に提供するとともに、その映像を見ながら注目すべき評価のポイントと具体的な画づくりのノウハウを共有してきた。

「最初はカラーバーによる調整から始めます。この段階ではパラメータの合わせ込みなのでお手本通りに進められるのですが、測定器のレベルを超えて、人の目で見た印象にバランスを整える段階で一気にハードルが高くなります」(岡野氏)

岡野氏によると、画質のチューニングにおいて最も難しいポイントのひとつが「人物の肌色」なのだという。人と人が会話を交わすときには、通常は相手の顔色をうかがうものだ。そのため人間は「肌色の変化」に対してとても敏感だと言われている。岡野氏は「そのため測定器で計った範囲で正確な色再現ができていたとしても、わずかな色の不自然さに人の目は反応して違和感を持ってしまう」のだと説いている。

松原氏も、とりわけ肌色を調整する作業が困難を極めたと述べている。

「最初は欧米人を被写体にしたクリップをベンチマークとして、しっかりと肌色を合わせこんだつもりでも、次に日本人のカメラマンが日本人の女性を撮影した映像を表示すると、色彩や光の当たり方による質感の現れ方がまったく異なっていて、最初のクリップと比べて違和感があるように感じられてしまいます。修正前後の映像を見比べながら、両方がマッチするパラメータを探っていく、気の遠くなるような作業を繰り返してきました」(松原氏)

Xperia 1で行われた画質チューニングの難しさを語る松原氏

やがて2018年の年末頃に、松原氏は「何度繰り返しても色を合わせられない壁にぶつかった」という。そこで岡野氏から紹介を受けて、2019年1月にソニーが発売した31型の液晶HDR対応マスターモニター「BVM-HX310」の画質設計担当者を松原氏は訪ねた。

次ページチューニングはお披露目後も続けられた

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