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世界で評価される高音質の舞台裏

ハーフスピード・マスタリングを支える重要人物 ― マイルス・ショーウェル氏(アビー・ロード・スタジオ)インタビュー

公開日 2019/06/21 18:29 季刊・アナログ編集部
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アナログレコードの制作でデジタルマスターを使うからこそ、重要となるのがショーウェル氏がハーフスピード・マスタリングを行うための環境となる機材達だ。実はショーウェル氏は、アビー・ロード・スタジオにはフリーランスという形で契約をしている。そのため、ホームページにある所属エンジニア達の機材写真を見ていると、ショーウェル氏のみ少々異なるシステム構成となっている。

ショーウェル氏が愛用するカッティングマシンVMS-80をはじめ、スタジオで愛用する機材にはさまざまな改良が施されている

「私はフリーランスの立場をとることで、アビー・ロードにある機材に加えて自分で選んだ機器を購入して設置することができるんです。いま使用しているのは、私が望む仕様にカスタマイズされたノイマンのカッティングマシンVMS-80とソンテックのイコライザーMES-434C、そしてアナログチューブのコンプレッサーAT-101です。AT-101は伝説的とも言えるフェアチャイルドの真空管式コンプレッサー670を忠実に再現したもので、この音はとにかく“美味しい“ものです。カッティングマシンにおいては、おそらく世界にあるどのVMS-80よりも良いコンディションを維持しているものだと思います。この他にはマンレイのEQや、PMCのスタジオモニターですね。

それともうひとつ、スタジオにアベンドートのマスタークロックジェネレーターEverest 701を導入できたことは私にとってとてもラッキーなことでした。クロックに関しては安いものでもデジタル機器の同期は行えることを考えると、スタジオにとっては決して魅力的なアイテムというわけではありませんし、高品質なマスタークロックが正しく評価されることは非常に難しい場合もあります。ただし、デジタルオーディオにおける卓越したサウンドを実現するためには、クロックこそが鍵を握ります。私のスタジオでは、すべてのデジタル機器をEverest 701で同期させていますが、これはシステムの完璧な同期とそれに伴う非常に低いジッターレベルのために不可欠なんです。その違いは歴然としていて、Everest 701ですべてのシステムが“ロック”されると、遥かに自然なサウンドが聴けます。低音はより深く、ステレオイメージはより明確に定義されて、より音楽のディテールを描き出してくれるんです。

つまり、本当に良いマスタークロックは、デジタルの機器の音を素晴らしいクオリティまで高めることを可能とし、そのサウンドはほとんどアナログと言っても過言ではないレベルにまで高めてくれます。

その恩恵は、例えばテープのマスターに起因するノイズなども含めて、デジタル的にすべての問題を修復していく時に顕著に現れます。またディエッサーを使ってサ行の歪みをコントロールする場合も同様です。なぜ、デジタル的に行うかといえば、これが一番正確で、音楽的なダメージも少ないからです。正確な同期が行われたデジタルシステムは、通常よりも遥かに高い透明度で再現されます。つまり、最高品質のマスタークロックで制御されたデジタルレコーディングシステムを使用することは、現在のマスタリングにおいて最良の方法であると私は思っています」

Abbry Road Studioの「Shop」ページをみると、さまざまなタイトルがハーフスピード・マスタリングを経てリリースされている

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