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元ティアックCMO伊東奈津子氏が語る

拡大するドローン市場で活躍する企業「エアロネクスト」の目指すもの

2019/04/27 Senka21編集部 徳田ゆかり
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ドローン最大市場の中国に先鞭をつけ、グローバルで事業を展開する

 ーー 海外での展開も視野に入れておられるのですか。

伊東 もちろんです。国内だけでなく、目指すはグローバル。まず中国展開に着手しようとしていて、この最大の市場に進出することがグローバル展開の鍵です。昨年11月に中国深センで開催された国際的ピッチコンテストの世界大会に日本企業として初めて出場して3位に入賞し、知的財産賞も受賞しました。日本企業が入賞するだけでも大きなサプライズで、深セン市南山区、深セン市ドローン産業協会、深セン市清華大学研究所から支援をいただけることにもなりました。そこで6月に、中国で現地法人を設立します。「天次科技(深セン)有限公司」という名称です。

2019年6月に中国で現地法人を設立する

中国ではすでにドローン業界において多くの優秀なエンジニアが存在し、カスタマーを持ち実績を積みビジネスを確立しているドローン関連企業も多くあります。ですが、私たちが4D Gravityとともに出ていくことによって、今まで見えていなかったけれども重要なニーズの掘り起こしや実現できるUseCaseもきっとあるはずで、私たち単独ではできなくてもそのような企業や法人と協力してできることもあると確信しています。

中国はドローンの最大市場

一方国内のドローン市場は、機体、サービス、周辺サービスを含めて2019年度時点では1240億円規模と言われており、5年後の2024年度には5000億円規模になると予測されています。そういう中で我々は、物流、警備、測量、農業、検査などといった用途ごとにパートナー企業を見つけて、一緒に用途開発をし、それぞれのニーズにふさわしい仕様のドローンを専用開発し、一緒に事業分野を立ち上げましょう、というスタンスです。我々はライセンス提供する、あるいは共同でビジネス経営する、といったことをそれぞれに応じてやっていくのです。たくさんのアプローチをいただき、すでにいくつかの大きな会社と話が進んでいる最中です。

用途ごとにパートナー企業を見つける

市場予測のグラフを見てみますと、機体に関するところだけでは伸びはあまりありませんが、ドローンのサービスや周辺サービスまで加えると非常な伸びになります。だから我々は機体にとどまる考え方をしていないのです。経済産業省の資料(下表)で見ますと、現在はレベル3の段階。山間部などの無人地での目視外飛行がまだ試験中の状態。目指すべきはレベル4、都心部などの有人地帯で目視外飛行ができる段階です。そこには安心・安全の確保が必要で、ドローン自体にとっても課題ですが、法的な規制や管制管理の問題などインフラ整備ができていない。さらに事故が起きた際の分析検証とそれを世界で共有し、改善するしくみづくり。つまり飛行機で行われていることはドローンにも必要で、実現まではまだまだ時間がかかるでしょう。

経済産業省による「小型無人機の飛行レベル」

国内のドローン市場の予測

ドローンにとっての次の段階は、量産化。日本ではまだ安定してドローンを量産し、供給する体制が整っていない。これが確立しなければそれぞれの分野で仕事が始められません。そこで私たちは、小橋工業さんと業務提携をしこれを実現しようとしています。あの「下町ロケット」のモデルになった会社でもあり、ものづくりに非常に長けておられます。現社長は四代目で先進的な考え方をされていて、我々とビジョンを強く共有できたのです。小橋工業さんは農業機械製造の最大手で、ドローンの量産化は新たなチャレンジですが、我々も工場や生産体制などさまざまなものを見させていただき、できると確信しました。量産化ではさらに、VAIOさんとも提携したところです。

小橋工業との業務提携で量産化へ

我々はスタート地点に立ったばかりですが、会社を大きくしようというより、提携によってさまざまな方面で活動を推進しようとしています。分野ごとに、事象ごとに求められるものは違う。たとえば農業用途でも、小麦、米、野菜と作物によって農地で求められる仕様が違う。物流、警備、測量、農業、検査などと用途を掲げていますが、これも一例であり、これらの中でもセグメントされてきます。それぞれに、パートナーとともに、一緒に成長できるように活動を進める。我々はメーカーになるのではなく、用途に沿うものを一緒に開発していくのです。

 ーー いろいろなことに着手していかなくてはならないですね。

伊東 国内でのもうひとつの課題は、社会実装です。空の経済化を進める上で、将来実際に私たちの頭の上を日常的にドローンが飛んでいく世界になるには、まだまだ数々のステップがあります。法整備もそうですが、安全性の確保のための実証実験も必要です。これまで山間部や離島では行われていますが、都市部では実績がありません。ここで初めて都市部での実証実験が福岡市で行われます。「FUKUOKA Smart EASTコンソーシアム」というプロジェクトの中に、スマートシティの建設計画があります。そこでドローンだけでなくいろいろな試みが行われるわけです。

都市部での実証実験が福岡市で実現する

我々は福岡のトルビズオンという会社と業務提携したのですが、彼らは「sora:share」というしくみをつくっていて、土地の地権者に働きかけてその上空の航空権の承諾をもらう取り組み。それが進んでいけば、ドローンの飛行経路が確保できる。ここに大手の物流会社さんも加わって、3社で一緒に福岡での実証実験を行う。この夏くらいまでには実施できる予定です。確かにやるべきことはたくさんあり、我々は国交省や経産省とも話し合いをしています。ひとつひとつ、進めていかなくてはいけませんね。

日本では2020年に量産化を目指していますが、社会実装に時間がかかることもあって我々は、先に世界でやっていこうとしているのです。先鞭をつける中国で法人を設立し、マーケットの情報をさぐって展開を進める。その先はきっと、日本でやっていくより早いんじゃないかと思います。

 ーー 伊東さんが携わっておられる業務内容は。

伊東 1つには、ブランディング。4D Gravityを含め我々が提案するものが安全技術であり、産業ドローンに欠かせないということ。これに対する認知を上げて浸透させていくことです。もう1つは、グローバル戦略におけるビジネス開拓。ブランディングも含めて国内でやってきたことを、これからまず中国で、そして北米やインド、ヨーロッパなどへと広げていきます。

非常にチャレンジングなことで、大きなやりがいを感じます。私にとっては初めての分野で、またほとんどが手付かずの新しいこと。会社もベンチャーですから、この土壌も初めて体験することで、桁違いのスピード感や情報量に必死に食らいついているところです。

私が仕事を経験させていただいたオーディオは成熟市場であり、趣味の領域です。対してドローンは未開拓の領域。手付かずの部分があまりにも広大で大変ですが、だからこそ魅力的でもある。ただ私自身としてはこの業界に入ってまだインプット段階であり、早くアウトプットしていきたいですね。

代表の田路には先見性があり、他の人間には見えないところがすでに見えている。そこに向かって必要な人材を揃え、他社と提携し、確実に前進しています。業務の中では、昨日話していたことが今日違う内容になるのはしょっちゅうですが、それは当たり前だと。なぜなら、1日の間にさまざまな人や情報に触れ蓄積が増えていくから。いろいろなカードが集まれば、打つ手が変わると言っています。

そして田路だけでなく、中心となっている鈴木や広瀬、中畑といったメンバーの総合力もすごいです。ただしこれからビジネスを広げるには、技術者をもっと確保しなくては。これからは人材育成も課題で、これも私の役割になりそうです。

 ーー 黎明期のドローン市場には大きな可能性があって、御社がそこに強い道筋をつけそうですね。これからのご活躍を楽しみにしております。

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