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インタビュー

元ティアックCMO伊東奈津子氏が語る

拡大するドローン市場で活躍する企業「エアロネクスト」の目指すもの

Senka21編集部 徳田ゆかり

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2019年04月27日
BOSE日本法人やティアック(株)といったオーディオ業界でも活躍した伊東奈津子氏が、新たな業界に足を踏み入れたとのニュースがあり、さっそく話を伺うことにした。伊東氏が新たな活躍の場として選んだのは、ドローン業界。日本ではドローンのビジネスはまだ始まったばかりだが、周辺サービスも含め2018年度で約900億円、2024年度では5000億円規模になると言われている成長市場。伊東氏が新たに所属する(株)エアロネクストは「次世代ドローンの革命を起こす」として、日本のみならず世界での展開を進める気鋭の会社である。同社の展開と伊東氏の意気込みを語っていただく。


伊東奈津子氏Natsuko Ito
(株)エアロネクスト 執行役員 グローバルCMO
新卒で入社したNTTを経て、外資系広告会社に入社。その後BOSEの日本法人、仏化粧品メーカーのクラランスの日本法人にて経営陣の一員としてマーケティング部門を統括。2014年ティアック(株)の執行役員 CMOに就任。マーケティング本部を立ち上げCMOとして経営視点からの企業価値向上やデジタル面、コミュニケーション面など広範な戦略を推進しマーケティング基盤を構築、2019年2月に退任。2019年3月1日(株)エアロネクスト 執行役員 グローバルCMOに就任。

ドローンの安全性に寄与する独自技術「4D Gravity」で“ドローン前提社会”を実現する

 ーー まずは、御社の事業内容をご説明いただけますか。

伊東 我々エアロネクストは、次世代ドローンの革命に挑戦している会社です。見据えるのは“ドローン前提社会”。“自動車前提社会”として、自動車が生み出した巨大なエコシステムに匹敵する社会インパクトが、これからドローンで現実化していくと見ています。

自動車前提社会と同様な、ドローン前提社会を目指す


自動車前提社会は、自動車の発明から数々の技術革新を経て、今は巨大なエコシステムになっています。市場、インフラ、雇用をつくるのみならず、法制度をつくり税金制度のしくみさえ変え、さらに免許や車検や保険といったサービスも含め安心安全のための仕組みもつくられました。ドローンでも同様のことが進むのではないかと。ただ現状ドローンはまだ発明されたばかりの初期段階、自動車で言えば「T型フォード」が出る前くらいでまだ先は長いです。けれどもこの先に巨大な可能性が見えてきています。

エアロネクストのコア技術は「4D Gravity」(以下4D Gravity)という独自の重心制御技術。必須となる安全性を担保するものです。この技術でドローン産業に革命とパラダイムシフトを起こし、空飛ぶ産業ロボット・空飛ぶモビリティとして、自動車が生み出した巨大なエコシステムに匹敵する産業を創造し、新しい空域の経済化を実現する。それが我々の掲げるビジョン。単なるドローンのメーカー、ライセンサーではなくて、もっと大きな目的を見据えているのです。

 ーー 先日幕張メッセで開催された「Japan Drone 2019」に出展されましたね。

伊東 私自身、初めてこのイベントを体験して大いに刺激を受けました。これまで身を置いていたオーディオビジュアル業界のイベントは、展示会場を端から端まで使う規模ですが、ドローンの展示会は幕張メッセの1区画といった小規模です。けれども当社の代表である田路(とうじ)圭輔は、3年後、5年後にはきっと幕張メッセの展示会場を端から端まで使う規模になると見て、だからこそ我々は今様々な挑戦を進めているのです。

「Japan Drone 2019」に出展されたドローン

 ーー 「Japan Drone 2019」にいらっしゃった技術者の鈴木陽一さんが御社のキーマンですね。

伊東 そうです。エアロネクストのそもそもの出発点は、CTOである鈴木陽一の存在。もともとソフトウェアエンジニアや、住宅営業のトップセールスとなった経歴をもつ多才な人物ですが、マンションの眺望を空撮する「(株)0」を創業して、バルーンを使った空撮の第一人者となりました。2011年8月頃からドローンの研究を始めて、映画やドラマ作品も含めた当時のドローン撮影はほとんど鈴木が手がけたようです。撮影に必要なドローンの安定飛行を追求し、自らで4D Gravityの技術を生み出して、2015年5月に基礎特許を出願して2018年6月に登録、2017年2月にドローン物流の本命特許を取得しました。そして、ベンチャーキャピタリストとして活躍してきた現CFOの広瀬純也に出会い、2017年4月にエアロネクスト設立に至ります。

(株)エアロネクスト 代表取締役CEO 田路圭輔氏

(株)エアロネクスト 取締役CTO 鈴木陽一氏

代表である田路圭輔は大手広告代理店出身で、テレビやレコーダーなどのデジタル番組表を取り扱うIPGという会社で17年間社長を務めたIP(知的財産)経営のプロです。その後鈴木、広瀬と出会って2017年に当社に参画し、代表になりました。当社では知的財産を戦略的に捉え、CIPO(知的財産最高責任者)を社内に置いていますが、それが中畑稔。知的財産に関わるプロです。そして当社の社員数は非常勤も含め今11名、私は2月に参画したばかりの新人ですね。

(株)エアロネクストの構成メンバー

 ーー コア技術4D Gravityについて教えていただけますか。

伊東 ドローンの機体フレームはこの30年間で進化しておらず、根本的な機体の構造を変えなければこれ以上の進化は望めない状況なのです。現時点では、耐風性、モーターの信頼性、バッテリーが関与する飛行時間、飛行速度といった課題があり、これまでエンジニアはそうした問題をソフトウェアで解決しようとしてきたのですが、エアロネクストではハードウェアの観点から問題解決に取り組んだのです。

ドローンの機体フレームは30年間進化していない

鈴木が発明した重心制御技術である4D Gravityは、ドローンの飛行に関する部分とものを搭載する部分とを分離させ、ジンバル構造で結合させたもの。それぞれの部分が独立して動くことによって、飛行中の機体に傾きがあっても重心が移動せず軸がぶれません。

4D Gravity搭載機は重心が移動せず軸がぶれない

4D Gravityの構造

従来のドローンは機体が傾けば重心が移動して、ある一部のモーターに負荷がかかり、その分故障しやすくなります。4つのプロペラとモーターをもつマルチコプターでも、1つでもモーターが故障すると墜落の危険がある。4D Gravityを搭載した機体は傾いても重心は動かず、偏った負荷はかかりません。エネルギー効率も高まり、結果として問題となっている耐風性、モーターの信頼性、バッテリーが関与する飛行時間、飛行速度といった課題も解決できるのです。

4D Gravity搭載機

従来のドローン

 ーー そこで御社が目指すのはどんなことでしょうか。

伊東 まず、我々が展開するのはホビー用途ではなく、産業用途のドローン。カメラやセンサー、荷物、あるいは人間も、あらゆるものを運ぶ可能性があり、より安定性が求められます。4D Gravityをもってすれば、「ラーメンもこぼさずに運べる」のです。

4D Gravityを通じて幅広い用途開発もできます。たとえば夜間の無人のオフィス内で、ドローンが中空を飛行しながら見回り警備をして、終われば天井に駐機して充電する。橋梁の裏側の鉄骨が重なり合った狭い部分に、ピンポイントでカメラをつけた棒を差し込んで点検する。液体を撒く時に反動で軸がぶれることがないので、火災時など狙ったポイントに安定して放水する。音の大きいプロペラ部とマイク部を離して、被災現場などで被災者の声をすくい上げることも。軸がぶれず機体が映らないので、歪みのない360°の画像撮影もできる。複数の機体を飛行中に合体できるので、飛行中でのバッテリー交換もできます。

夜間のオフィスの警備に


橋梁の裏側の点検に

原理試作「Next INDUSTRY」  

ドローンで荷物を運ぶ際、荷物を降ろすと機体の荷重バランスが変わります。そこでバッテリーの位置を移動させてバランスコントロールするしくみを「Japan Drone 2019」でも出展しました。こうした内容で、CEATECでベンチャー企業では初という経済産業大臣賞を受賞し、CESにも招待いただきました。これを含めて数々のコンテストで受賞しています。

物流の本命となるドローンの試作機。固定翼をもって長距離安定飛行ができ、垂直にピンポイントでランディングできる

バッテリーの位置を移動させてバランスコントロールするしくみを搭載

知財戦略が我々の柱で、4D Gravityをあらゆる角度で特許出願しています。設立2年で出願件数は106件、登録件数は15件にのぼっています。そして我々は、知財を囲い込んで守りの手段にするのではなく、4D Gravityを浸透させる攻めの手段と考えます。コア技術に加えて特許があり、ポートフォリオがあり、ブランドがある。これを一体のパッケージにした上で4D Gravityを浸透させる。あらゆる産業ドローンに4D Gravityを入れ、“ドローン前提社会”を現実化したいのです。

知財戦略が柱に


大きく成長するドローン市場で、何を見据えていくか。

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