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黒崎政男×島田裕巳のオーディオ哲学宗教談義 Season2「存在とはメンテナンスである」<第3回>

季刊analog編集部

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2019年01月25日
哲学者・黒崎政男氏と宗教学者・島田裕巳氏が、音楽、オーディオについて対談をする「オーディオ哲学宗教談義」。2017年夏から銀座サウンドクリエイト恒例の人気イベントとなっている。「オーディオは本当に進歩したのか」を論じたSeason1に続き、2018年春には、第2シーズン(Season2)も開催され「存在とはメンテナンスである」をテーマに論じた。以下はその第3回目の内容をお届けしたい。

宗教学者・島田裕巳氏(左)と哲学者・黒崎政男氏(右)

サウンドクリエイトスタッフ  シーズン2の最終回を始めさせていただきます。このシーズンのテーマは「存在するとはメンテナンスである」でした。前回はリンの内蔵フォノイコライザーURIKAの新・旧比較や、メディアとしてのアナログとデジタルの比較を行いました。今日は「メンテナンス」とはそもそもどういう意味を持っているのか、そしてストリーミングとストレージについてお話しを伺います。

島田 まず、今日は黒崎さんの趣味を存分に語っていただきます。

黒崎 シーズン2のテーマは「存在とはメンテナンスである」です。例えば、アナログ系とデジタル系でのメンテナンスは随分違うようね、というところから標題のテーマが選ばれたので、まずこの点についてお話しましょう。

デジタルのファイルは磨いたりしないけれども、アナログのLPレコードは磨きますよね。LPはちゃんとクリーニングしたものとそうでないものでは、音質に雲泥の差が出てしまうので、私の場合は、古いLPレコードを買ってくると、まず轆轤(ろくろ)に乗せてですね、ピュピュピュと水をかけて……。

島田 ろくろ?

黒崎 LPレコードをクリーニングするために、ターンテーブルの形をしたろくろみたいな製品があるのです(ARTE RC-T クリーニングターンテーブル)。

そこにレコードを乗せて手で回しながら水(アルカリ電解水)をシュッシュッとかけてブラッシングする。その後、小型のケルヒャーの窓用バキュームクリーナーでビューッと汚れと水とをレコード面から吸い取るわけ。この手間をかけてやると、レコードが完璧な状態になる。

LPレコードはもちろん、SPレコードなんて1902年くらいからありますけれど、そうやってメンテナンスをすればずっといい音で使えるだろうし、蓄音器も1920年代に作られたものでもメンテナンスして使い続けていれば、今でも生き延びるわけです。

島田 蓄音器はもう作られていないの?

黒崎 作られていないですね。蓄音器の黄金時代は1925年から35年ぐらいまで。そののちは、電蓄(電気蓄音器)に取って代わられます。一方でデジタルの方はどうなっているかというと、メンテナンスは基本的にメーカーの手に委ねられます。勝手にバージョンアップされて、いつの間にかWindows XPが使えなくなりました、とか、我々の手に追えない方へ進んでしまう。デジタルファイルの音楽だっていつまで聴けるかどうか。500年後に地球が発見されたとして、アナログの方はきっと再生されるけれども、デジタルはできなかったりして……。オーディオにおいて音楽再生のメディアとして、物体としてのレコードと、デジタルファイルになってメンテナンスから逃れてしまっているものの対比というものを考えたいと思います。

島田 オーディオ装置について、例えば真空管アンプを黒崎さんは自作されていますよね。それは自分でやれる。でもテクノロジーが発展してくると、例えばリンのDS、改造しようにも手が出せない。全部メーカー依存となる。

音楽を聴くのは、レコードか、デジタル・ストリーミングか

黒崎 コンピュータというテクノロジーのおかげであらゆるものがブラックボックス化している。だからメンテナンスもメーカーなのか、ユーザーなのかという対比が出てきていると思います。今日はそういうことを話しましょう。

ところで、島田さんは何のために、どうやって音楽を聴いているんですか。WhyとHow、両方の問いですが。普段レコードなのか、ストリーミングなのか。そしてそれは何が良くて聴いているんですか?

島田 そうですね。普段仕事をしながら音楽をかけることが多いのですが、そういう時はあんまり真剣に聴いてはいません。よく聴くのはインターネットラジオのStar Digio「ジャズの新譜」。430チャンネル、4時間交代で、1時間ずつ分かれていて、ひたすらジャズの新譜を流すんですが、毎週月曜日に内容が変わります。


宗教学者・島田裕巳氏
黒崎 ジャズの最先端を追っかけているんですね。

島田 以前はその番組が最先端だったんですが、最近は、TIDALとかSpotifyの方が早いんです。発売日、あるいは発売前に聴くことができるんです。

黒崎 1カ月、1,000〜2,000円払うと何百万曲とか、無限に聴ける。Apple Musicなんかもありますよね。

島田 音質的にいうと、TIDALのCD Qualityがいいです。TIDAL MASTERSではMQAでハイレゾを聴けます。

黒崎 TIDALで流し聴きするというのは、一体何を聴いているんでしょうか。レコードの場合だったら一対一で対峙してこれを聴く、って自我と音楽の対話をやるわけですけど……。

島田 僕の場合、聴き流しているわけです。音楽って不思議なもので、そうやって聴いていても、ふと、いい音楽は引っかかってくる。これは何? と確認したくなる音楽がある。今の音楽って世界そのもののあり方を反映していると思うんですが、それを音楽を通して感じる。

黒崎 現在、今っていうものを、音楽を通して……。

島田 音楽配信サービスによって、今までだったら買わなきゃいけないものが、最先端、あるいは古いものでも、まずは聴くことができる。体験できるわけです。僕の最近の本で『ジョン・レノンはなぜ神を信じなかったのか』(イースト新書 2018年)は、ストリーミングがなかったらできなかった。

黒崎 この本の副題は「ロックとキリスト教」でしたよね。

島田 はい、紆余曲折もありまして、そういうタイトルになっているんですが。そこで取り上げた音楽を、配信によって聴かないと書けなかったわけ。

黒崎 エルビス・プレスリーとか、ボブ・ディランとか、ビートルズの曲が出てきますが、レコードを買わずにいて書けたわけですね。

島田 すぐ、聴きたいと思うものが手に入るわけです。例えばバーンスタイン。バーンスタインがエルビス・プレスリーをものすごく評価していて、エルビスの登場によって、自分の音楽のやり方が変わった、と言っているんです。それはハルバースタムの『ザ・フィフティーズ』という本に出てくる。じゃあ、バーンスタインはどう変わったのかなと調べてみると、TIDALに、バーンスタインの初期の交響曲がある。聴いてみるとユダヤ人色が強いわけです。民族音楽的なものが入っていて。バーンスタインはこういう交響曲を作っていたんだなあと、うちにいて考察を進めながら聴くことができたんです。


情報がデジタル化されることの恩恵

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