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小泉今日子ハイレゾ化キーマンに訊く制作裏話と音へのこだわり

2015/03/21 鈴木 裕
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快盗ルビイ」(1988年10月)について


「怪盗ルビイ」(1988年10月)
田村:これも小泉さんの主演映画『快盗ルビイ』の主題歌ですね。映画の監督・脚本を担当された和田 誠さんに、作詞もお願いしました。

1970年代にTBSラジオでやっていた「ゴー・ゴー・ナイアガラ」という番組で僕が大瀧詠一さんと知り合って、会うごとに「小泉に作品を書いてください」とお願いしていたんですが、それがやっと実現した曲でした。レコーディングは1カ月ほどかかって、作詞を担当した和田監督も撮影で忙しくて、制作は大変でしたね…。

ちなみに大瀧詠一さんの仮歌が、小泉デビュー25周年記念のベストアルバム「KYON3 〜KOIZUMI THE GREAT 51」に“デュエットバージョン”として収録されています。

― 大瀧詠一さんのレコーディングはどんな感じだったんですか。

田村:基本はまとめて録るんですよ。たとえばピアノ4人とかパーカッション4人とかいっしょに録って、それからいろいろな楽器を一人ずつ呼んで録っていくんです。スティーリー・ダンなんかと同じやり方ですね。たとえばギタリストだけでも何人も呼んで録って、このフレーズはこの人の、というようにいろんな人のフレーズを使ってミックスしていくんです。

せっかくの大瀧作品なので好きにやってもらいましたが、いろんなことが急に決まるので、ディレクターが3人、エンジニアが4人とか必要でした。ちなみに歌入れは5〜6テイク録って、大瀧さんが選びました。制作は大変でしたが、今となっては楽しい思い出しかありません。

田村充義氏

― この作品のレコーディングは吉田 保さんが担当ですね。吉田さんが録った音は、高田さんが担当されたものとは顕著に違っていて、各楽器の質感自体の柔らかさとかエコー成分がたっぷりと出ている感じです。マスタリングはどんな考えで作業したのですか。

川崎:明らかにエコー成分が多いですよね。でもそれを取れるわけでもないですし、どう解釈するかだと思いました。スタジオの大きいスピーカーで聴くとかなり差がありますけど、家庭で聴いたらどうなの、というのはありますよね。なので家庭で聴いたときも、どの曲も同じようにヴォーカルが聴けるようなバランス、ポイントを狙っています。歌とオーケストラとのバランスも、F特などをちょっとずつ変えてはいますけれども、歌の聞こえ方のバランスについては同じになるように、聞こえ方のバランス重視で気を遣ってやりました。小泉今日子さんの場合、さまざまな楽曲があるのでマスタリング泣かせかもしれませんね。

Fade Out」(1989年5月)について


「Fade Out」(1989年5月)
― 近田春夫さんによるハウスサウンド、いわゆる打ち込みらしい打ち込みの音ですね。これは高田さんが担当していますが。

高田:この曲は自分の目指していたポップスサウンドとまったく違うことを要求されるので、難しかったですね。

田村:この前あたりから、小泉さんの仕事もだんだん落ち着いてきて、来年はどうしようかという話になっていたんですが、そこで出てきたのが近田春夫さんです。

シングルとしては「快盗ルビイ」のあとに「Fade Out」ですが、その間に『ナツメロ』というカバーアルバムがあるんですよ。その中に、ジューシーフルーツの「恋はベンチシート」と「お出かけコンセプト」を入れたんです。それで、その2作を作った近田さんに制作をお願いしようということになりました。ところがお願いに行ったら「最近、クラブミュージックにしか興味がないんだよね」と言われて。それでもいいですよってことでアルバムを作ってもらったんです。そしたら「Fade Out」のメロディがキャッチーだし詞の世界もいいし、シングルになったという経緯です。当時クラブミュージックも流行っていたので「KOIZUMI IN THE HOUSE」というアルバムも生まれました。

高田:僕の前に一人エンジニアがいたんですが、やり直しているんです。ただし僕自身、ハウスという音楽が良くわかっていなくて(笑)、正直苦労したのを覚えています。近田さんから、音を圧縮するコンプレッションをかけて、塊の音の圧力みたいなものを作ってくれ、ということを言われました。そういう音自体は嫌いではなかったのですが、近田さんの指示の方向で音を作りきるのが難しかったですね。コンプレッサーでピークを抑えて、深くコンプをかけてビートを作っていくという。

あと、ハウスミュージックではエンジニアが音を恣意的に抜いてリヴァーブで音を作ったり、ディレイで音を広げたりということがあって、エンジニアがアレンジに関わっていく時代になったんだなと感じました。

― ビートと歌の両立というのがマスタリングの課題ですね。

川崎:こういうハウス系って低音というイメージがあると思うんですけど、小泉今日子さんの歌があって、その周囲がクラブサウンドという着地点を大事にしました。キョンキョンの歌は聞こえるようにする、ただし低音がスカスカになってしまってはいけない − 両者の共存を目指しました。

― 「Fade Out」は今また評価し直されている曲ですね。

田村:とある作曲家の方から、歌がちゃんとしていればサウンドやメロディは何をやっても大丈夫だから、というように言われたんですよ。小泉今日子さんの声が真ん中に来ると大丈夫なんです。だからすごく新しいものをやったという意識ではなくて、本人の新しい面を出した、という感じでしょうか。メロディ自体はオーソドックスですからね。大冒険だなんて思ってやったつもりはないですね。

次ページ最後に名曲「あなたに会えてよかった」

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