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小泉今日子ハイレゾ化キーマンに訊く制作裏話と音へのこだわり

公開日 2015/03/21 11:00 鈴木 裕
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ここからは今回のマスリングをしたビクタースタジオ 215スタジオで、42曲の中から7曲を聴きながらお話しをうかがった。

まっ赤な女の子」(1985年5月)について

「まっ赤な女の子」(1985年5月)

― いま、CDと今回のハイレゾ音源を聴き比べましたが、現在の感覚で聴いて違和感なく、しかも元のマスターにあった情報量が掘り起こされている感じがありますね。

高田:音的には低域がとても安定して、やわらかく深いんですけど、解像力もすごくあって、決してきつくなく、帯域が広いです。

田村:歌もナチュラルに聞こえます。その前の時代だと筒美京平さんが作曲/編曲を担当されていたのですが、このあたりからもう編曲はやらず、若くておもしろい音を作れる人ということで佐久間正英さんにお願いしていましたね。

高田:ビクターのスタジオに佐久間さんがヤマハのシンセを抱えてきたのを覚えています。もしかしたら佐久間さんにとって、こういうアイドルの音楽を作るのは初めてだったのではないでしょうか。

― マスタリングではF特などはいじっているんですか。

川崎:CDの音づくりと方向性やベクトルはいっしょですが、96kHzの音と44.1kHzの音という"器"の違うもので聴くと聞こえ方が多少変わってくる部分もあるので、少しはいじっています。周波数バランスも、元々きれいだからもう少しきれいにしようとかいう感じでしたね。ハイレゾの曲については、そういう風に一歩先に進むというか、付加されるような感じがあります。

川崎洋氏

― 当時はアナログレコードを主流に音を作っていたと思いますが、カッティングやマスタリングのレベルの問題はどうだったんですか。

川崎:カッティングは収録時間の要素が大きかったですね。CDになると、ピーク成分の問題が大きくなっていきますし、リミッターのかけ方も曲によってかなり気を遣っています。今回のハイレゾ化では、小泉今日子さんの歌のボリューム感をできるだけ一定に聞こえるようにトライしています。やっぱり“キョンキョンの音楽”ですからね。

高田:僕はドラムの音にこだわっているんですが、当時はデジタルリヴァーブを使い出した頃で、それを短めの時間で使って音をちょっと太めにして、スネアのイメージも胴深にして、低域を安定させました。それとこの曲ではボコーダーを使っていたのがユニークでしたね。

田村:佐久間正英さんと筒美京平さんと打合せしたときに、使おうということになったんですよ。筒美さんの曲はデモテープの段階でだいたいのアレンジのイメージは全部できているので、その中に何を新しい要素として入れようかということを考えたときに、ボコーダーを使ってみよう、と。当時、Styxの「ミスター・ロボット」が流行っていて、アレ面白いよねと言っていたというのもありましたね。佐久間さんにもスタジオで何回かボコーダーを使ってもらったんですけど、なかなかイメージした音にならないねーと試行錯誤していた記憶があります。

― コンセプトがはっきりしていますね。

田村:この曲を作ったことで、次の展望が見えた気がするんですよ。ちょうど小泉さんが髪の毛をショートカットにしたタイミングでしたね。実はほぼ同時に「半分少女」(同年7月リリース)もできていたんですが、それまでのイメージを変える「まっ赤な女の子」を先にリリースすることに決めました。結果として「まっ赤な〜」で認知が上がったので、そのあとの展開が決まったんです。

田村充義氏

― オリコンのシングルのセールスチャートの最高順位で言うと、それまでの4作では最高10位止まりだったのが、「まっ赤な女の子」が8位、「半分少女」が4位、「艶姿ナミダ娘」3位、「クライマックス御一緒に」の4位があって、「渚のはいから人魚」で1位を獲得できました。着実に順位が上がっていきましたね。

田村:この時代は松本伊代さん、松田聖子さん、中森明菜さんを筆頭に良いアイドルがたくさんいました。小泉さんはデビューから1年くらいでまだ5〜6番手の存在だったので、とりあえず3番目にならなければ!というのが最初の目標でしたね。糸井重里さんに代表されるキャッチコピーの時代だったのでコピーも作って、他のアイドルとの違いをハッキリと打ち出して、それを続けていったつもりです。

当時「良い子・悪い子・普通の子」というのが流行っていて。松田聖子さんが「良い子」、中森明菜さんが「悪い子」だとしたら、小泉今日子さんは「普通の子」ということでやっていこうと。たぶん、良い子と悪い子というのは変わらないんですよ。そうすると「普通の子」っていうのが難しくて、今の普通、その次の普通…というように、時代に合わせて変わっていかなければいけない。そういう意味での「普通の子」をやっていくのが、小泉今日子にとっては一番良いと考えていました。だから楽曲の作家は変わっても、「小泉今日子」というひとつのテーマは変わっていないと思います。

次ページ続いて「渚のはいから人魚」「なんてったってアイドル」について

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