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小泉今日子ハイレゾ化キーマンに訊く制作裏話と音へのこだわり

公開日 2015/03/21 11:00 鈴木 裕
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渚のはいから人魚」(1984年3月)について

「渚のはいから人魚」(1984年3月)

田村:これは馬飼野康二さんが作・編曲を担当しています。筒美京平さんは全体を計算して作っていくので破綻がないのに対して、グループサウンズ出身の馬飼野さんや井上大輔さんは、いい意味で予定外のところがあるんです。作詞は康珍化さんですが、彼と組むとキャッチコピーを作りやすいんですよ。この曲のタイトルは僕が「はいから」、康珍化さんが「人魚」を出して、それでタイトルができて歌詞も作っていきました。"ズッキンドッキン”というフレーズは康珍化さんが考えました。狙った通りのものができて、しかもはじめて1位になって、うれしかったですね。

高田:「艶姿ナミダ娘」(1983年11月)くらいから、打ち込みで音楽を作るというのが音楽の制作現場で台頭してきていたので、打ち込みならではの面白さを意識しています。ただ、生の音に近いサウンドだし、帯域を広げてしっかりとしたリズムの音にしました。あとシーケンサーの扱い方ですね、この曲では最初の部分で、シーケンサーの音が左右に動くようになっているんですけど、普通のパンニングではなくてFS1というエフェクターを使って、円を描くような動きをさせました。打ち込みで音楽を作っていく方向性を切り拓いた曲として、僕個人にとっても大事な作品です。ただし、低域の音色だけは常に安定した音できっちり作ろうというのはありました。ベースと打ち込み系のキックの低音を聴いていただきたいと思います。


なんてったってアイドル」(1985年11月)について


「なんてったってアイドル」(1985年11月)
― いい意味で、すごい音ですねっ!

田村:これ、大変だったんですよ〜(一同、爆笑)。「艶姿ナミダ娘」あたりでひとつの形になったわけですが、1985年は尾崎豊さん、斉藤由貴さん、菊池桃子さん、倉沢淳美さん4人による同じ「卒業」というタイトルのシングルによる“卒業戦争”というのがありました。ところが夏にはおニャン子クラブがデビューして、アイドルシーンがガラっと変わってしまったんです。そこから2年間くらいはおニャン子がチャートを席巻していくのですが、頑張らなきゃ勝てないなと思って作ったのが、この曲です。なにしろ相手は「セーラー服を脱がさないで」ですからね、こちらは「なんてったってアイドル」です(笑)。作詞は秋元康さんですが、これは当時僕がとんねるずの制作も担当していたので。

この曲は歌詞が先にできたもので。音を作っていく途中で、歓声が欲しいなあとかクラップが欲しいなあという話になって、小泉今日子の渋谷公会堂でのライブからそういう音を抜き出して作りましたね。

高田:この曲については、細かいところを緻密にやっていくというのではなく、大きなところを大胆にやりました。当然、アレンジはきちんとされているんですけど、それをある意味ラフに、思いっきりやりました。曲の中に出てくる男性の声も普通はあり得ないバランスなんですけど、あれくらい出さないとこの曲の面白さとかインパクトが出ないかなと思ったんですよね。

それとこの曲でアナログからデジタルマスターに変わりました。当時ビクターの「DAS-900」という3/4インチのデジタルレコーダーが自分はすごく好きで、迷わず移行しましたね。クリアでいい音がしていました。

高田英男氏

― この前までがアナログマスターで、ここからアナログとデジタルのマスターが混在していくことになりますが、ハイレゾ用にマスタリングする方としてはいかがでしたか。

川崎:特に苦労しませんでした。というか、何をやっても高田さんの音なので(一同爆笑)。ビシッバシッという音で、小泉今日子さんの曲はこういうものという世の中の認識がありましたよね。それを無理やり甘くとか柔らかくとか変えても、イメージが変わってしまいますから。


木枯しに抱かれて」(1986年11月)


「木枯らしに抱かれて」(1986年11月)
田村:これは小泉自身が主演した映画『ボクの女に手を出すな』の主題歌です。初主演した映画『生徒諸君!』主題歌の「The Stardust Memory」(1984年12月)もTHE ALFEEの高見沢俊彦さんの作曲だったので、この曲も高見沢さんにお願いしました。

― 情報量の多い録音だと思いますが、バックの音自体に存在感がありますね。

高田:アレンジは井上鑑さん。ミュージシャンもドラムが山木秀夫さん、ギターが今 剛さんで、その人たちの音色感がすごく良く出ています。情報量の多い録音、という言葉をいただきましたが、ドラムのチューニング含めてずいぶん苦労して収録しました。このセッションのアーティストはみなさんそれぞれに強い音色感を持っていますので、色の濃い録音です。エンジニアが作ったというよりも、ミュージシャンたちの音ですね。

― 井上鑑さんと言うと、最近では「DSD Trio」として、5.6MHz DSDの音源を作っていましたね。なので、音に意識的なミュージシャンというイメージがあります。

高田:当時鑑さんはオーディオ志向というよりは、割と逆の方向でしたね。ハウスで録ったり、わざとアンビエントミュージックみたいな音で録ったり、いわゆるハイファイとは違う匂いの音を求めていた頃でした。

田村:鑑さんは声域の使い方が、そこまで担当してきた方と違いました。小泉今日子さんの声の新しい魅力を引き出してくれたのではないでしょうか。意外なものが出ましたね。作家ごとに違いますね。

― マスタリング的にはどうでしたか。

川崎:いやー、田村さんの話を訊いていて、あーそうだったの〜って感心してました。今 剛さんの音だったんだ〜、って(笑)。

次ページ続いて「快盗ルビイ」「Fade Out」について

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