さらに雄大に、生き生きと。オーディオ・ノートのスタンダードプリアンプ「G-72」の音質的進化を探る
林 正儀日本を代表するハイエンドオーディオブランド、AUDIO NOTE(オーディオ・ノート)。同社のプリアンプのスタンダードモデルとして、2010年の誕生以来高い人気を誇っていた「G-70」が刷新。「G-72」としてグレードアップを遂げた。その音質の真髄は?林 正儀氏がオーディオ・ノートの試聴室を訪ね、その進化を探った。
上位機のエッセンスを継承し驚くべき進化を遂げた
オーディオ・ノートの試聴室ではGシリーズの新型プリアンプ、G-72が待っていた。前作G-70よりも少し幅広だ。ロゴやつまみの位置も変わり電源スイッチが軽快なプッシュ式になった。だが15年を経て驚くべき進化を遂げたのはその内容と音質だった。
「上位機のエッセンスを継承しつつ徹底的に音を磨き、G-72にしかない持ち味と魅力を発揮して、オーディオ・ノートの音をより幅広い層に訴求したい」という開発者たちの想いが込められた製品である。
同社のプリアンプは上位からG-1000、700、そして今回の72がラインアップされている。G-700以上は電源が別筐体で、エントリーのG-72のみがシンプルな1筐体タイプになっている。どんな新技術が詰め込まれているのだろうか?
内部は整然として美しい。真空管はG-700や1000と同じく双3極の6072を採用。注目はこだわりのラインアンプや新設計のヒーター点火回路、高音質パーツだろう。これらが銅のメインシャーシに構築されている。
セレクターは長いシャフトで背面端子の切り替えを行う仕組みだ。入出力とも新たにXLR(アンバランス)が装備されたのもG-70からの大きな改良といえる。ソース源が多様化している時代にこの配慮は嬉しい。
新設計のヒーター点火回路が音質に大きな影響を及ぼす
基板レイアウトも信号にノイズが入りにくく配慮された設計だ。ポイントとしては格上のG-700と同じ増幅ユニット(ラインアンプユニット)を採用したことが大きい。
さらにG-70に比べると真空管の使用数が倍になっており、これらをパラで接続しているが(低インピーダンス化)、もうひとつのこだわりがヒーター点火回路だ。このヒーター点火回路が音質に与える影響は大きい。たかがヒーター……ではなかったのだ。
プリアンプにとって最適なヒーター回路を研究するなかで、トランジスタを使ったヒーター点火回路が音が良いことを発見。G-70を開発した2015年ごろのことだという。
そこで今回はヒーター電源を新規設計した。「メタルキャンタイプのトランジスタ(2N2222Aと2N3055G)を用いて、ダーリントン接続で構成された点火回路を搭載しました」という。
このメタル管はメインシャーシに取り付けて放熱している。詳細は省くがメタル管特有の音があるそうで、これが雄大で朗々とした音質に大きく寄与しているのだ。
補足しておくとG-70の場合、ヒーター点火回路は12.6Vであった。今回G-72は低電圧大電流の6.3V駆動だ。これにより低インピーダンス駆動ならではのオープンなサウンドが得られるのだろう。
基板上の各種コンデンサは音質調整用だ。選別品を世界中から数十個集め、入念な試聴によってチューニングを行ったという。
またトランスから線材まで純銀伝送にこだわるのがオーディオ・ノートだが、敢えて音質調整のため銅線も一部用いているそうだ。最後の音決めということだろう。
力強く広がりのある音場と生命力が両立
羽毛のようなボリュームの感触を味わいつつG-72を聴いた。静寂の中かからすっくと音が立ち上がる。クラシックもジャズも惚れ惚れするほどのS/N感、そして陰影の深さだ。力強く広がりのある音場と生命力が両立している。
幸田浩子のソプラノは、何と凛々しくコクのある響きだろうか。キラキラした高音域で、柔らかな余韻が残る。
オーディオ的な空間性も上々。このプリアンプは極上だ。「椿姫」の情感まで肌で感じられるようで、音楽の内面に入り込んでいくようだ。
カリン・ルンディンの『A heart full of Rhythm -Live』は北欧らしい品位を備えたジャズだ。ピアノやドラムなど録音の優秀さがわかる鮮度の高い立体的なサウンドで、もうひと味音楽性が深く、ヒーター回路やパーツの選別が効いている印象。プレーヤーの交代劇が手に取るようにわかるのだ。
ここまで聴いて、このプリアンプの支配力を改めて実感した。音と音楽を確実にコントロールしている。最高峰のパワーアンプ「Kagra2」を生き生きとドライブしていた。どんなピーク音やハイスピードな音がきても、土台がしっかりして破綻しない安心感がある。
深い内面や音楽性まで余すことなく再現する
次にフォノアンプの「GE-10」と組み合わせてのアナログ再生も体験した。まず、アンセルメ指揮のサン・サーンス第3番だ。まさに朗々としたサウンドである。オケの全強奏はそそり立つような壁ができ、本格的なパイプ・オルガンの風圧に圧倒された。オーディオ的な醍醐味に思わずブラボーだ。
モーツァルトの「レクイエム」は対極のミサ曲だ。いかに消え入るような微弱音が埋もれないか、混成四部合唱でモジられたりして再生が難しい作品だが、G-72はそれを軽やかにいなして、みずみずしく格調高く再生してくれた。
ポップで楽しい曲をかけてみた。大滝詠一と愛聴するSADEのアルバムだ。こうした明るいリズムの曲、ビシビシと音が飛んでくる曲も、びっくりするほどフレッシュでクリアだ。音楽にのめり込め、力まずリラックスして愉むことができた。
15年を経てG-70からさらに幅広いジャンルの音楽が楽しめる印象だ。現代プリアンプらしい最先端のクオリティで、本命のジャズ、クラシック再生をより深い内面や音楽性まで余すところなく堪能することができた。オーディオ・ノートの世界感が満喫できる大本命のスタンダード・プリアンプである。
開発者の声:商品開発部 井尻聖也氏
弊社のエントリークラスプリアンプとして熟慮した回路構成により最高クラスのスペックを達成し、幅広い音楽ジャンルに対応する豊かな表現力を持つプリアンプを目標としました。
本機は2010年発表のG-70の後継モデルになりますが、回路構成や採用パーツ等において大幅にアップグレードされた製品でございます。
ヒーター点火回路はメタルキャンタイプトランジスターを用いて新規設計し、増幅基板は上位機のG-700と同じものを採用しました。
ダーリントン接続で構成されたヒーター点火回路は出力電圧が非常に安定し、揺らぎのない生き生きとした音を実現しましたのでぜひ音楽を愛する方々に聴いていただきたいと思います。
(提供:オーディオノート)
本記事は『季刊・アナログ 89号』からの転載です。
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