公開日 2025/01/27 06:35
「有機的な音がする」ルーターやハブの魅力も語り尽くす!
話題のRoon専用サーバー、シナジスティック・リサーチ「Voodoo」の音質は?ネットワークオーディオの専門家が大激論!
土方久明/ペガサス☆田中
ネットワークオーディオの世界に新しい風を吹き込む存在として、昨年からじわじわ話題を集めているアメリカ・Synergistic Research(シナジスティック・リサーチ)。長年のアクセサリー開発で培った技術を背景に生まれたRoon専用サーバー「Voodoo」は、今後のネットワークオーディオの可能性を示す、画期的なプロダクトである。
「Voodoo」はどのように使いこなすことができるのか、その音質のポイントはどこにあるのか? 今回は、ネットワークオーディオの第一人者である土方久明氏と、シナジスティック・リサーチを強力にプッシュする名古屋のオーディオ専門店、オタイオーディオのペガサス☆田中さんの対談を実施。Voodooの輸入元である、アイレックスの河口湖試聴室でのサウンドはどのようなものであったか、その魅力を探ってみよう。
―― 本日は山梨県・河口湖にあるアイレックスさんの試聴室にお集まりいただきましてありがとうございます。今回は、シナジスティック・リサーチから発売になりましたRoon専用サーバー「Voodoo」について、お二人にたっぷり語っていただきたいと考えています。
土方 はい、僕は昨年のインターナショナルオーディオショウの講演でもお話させていただきましたが、これまでにない新しいRoonサーバーとして大変期待しております。
田中 オタイオーディオ店長の田中です。シナジスティック・リサーチはルーターやネットワークハブも発売しており、私も以前から大変注目しておりました。今回は土方先生と対談する機会をいただきまして、とても光栄です!
―― 改めてシナジスティック・リサーチというブランドについて教えていただけますか?
土方 僕がこのブランドを最初に知ったのはアクセサリーからでした。1992年創業で、アクセサリーブランドとして30年以上の歴史を持つ老舗ブランドです。ケーブルはもちろんですが、クリーン電源やアクティブアースなど、幅広いアクセサリー製品を開発する、技術力のあるブランドだということが大きなポイントです。
僕はもともとエンジニアでしたから、オカルト的な製品は非常に気をつけて見ているところがあります。ですが、シナジスティックは理論的な裏付けもしっかり持っているブランドで、独創的なアイデアは非常に “先進性” があり、その点でも注目しています。
―― 田中さんのシナジスティック・リサーチに対する最初の印象はどんな感じでしたか?
田中 アイレックス社長の朝日さんから、最初はアクティブアースをご紹介いただいたんですね。正直そのときはあまり私のなかでピンと来てなかったんですが、自分なりに本国サイトなどを調べていくなかで、オーディオ用ルーター「Network Router UEF」に出会ったんです。で、朝日さんに「このルーターちょっと気になるから聴いてみたい」とリクエストしまして、取り寄せてもらいました。
それまで、オーディオ用のスイッチングハブというのはいくつかのブランドから出ていましたが、ルーターというのはほとんどなかったんですね。それで聴いてみたら、その効果が絶大!で。
朝日 正直なことを言えば、最初アイレックスとしてもネットワークオーディオ機器についてはそんなに積極的ではなかったのです。これまで扱ってこなかったので十分なノウハウもありませんでしたし、もう少しマーケットの動きを見てから考えよう、と思っていました。ですが、田中さんに大きく背中を押されまして(笑)、本格的にネットワークオーディオにも取り組んでみよう、ということでルーター、スイッチングハブ「Ethernet Switch UEF」、そして今回の「Voodoo」も導入することにしました。
―― ルーターの音質面での印象はいかがでしたか?
田中 最初にルーターを聴いた時も非常に印象が良くて、「音楽性が高くて厚みがある、アナログチックな音がする」と感じました。Voodooの基本的な音調についても同様の印象を持っています。
Roonサーバーを出しているメーカーは他にもありますが、傾向としては聴感上のS/Nが良くて、くっきりはっきり聴きごたえがあるものが多いように感じています。これはいまの世界的なトレンドでもありますが、一方でコンピューター屋さんが作っているな、と感じるものもありました。ですが、このVoodooの音は違います。アナログで有機的な音がするんです。うちの常連さんにも聴いてもらって、やっぱり音楽性が高いねって意見をいただいて、早速展示機として導入させてもらったんです。
土方 僕もVoodooの音質を非常に高く評価しています。これについては、先ほどもお話ししましたが、もともとアクセサリーメーカーであったというのが大きくて、他のメーカーでは作れない、特別なギミックをたくさん投入しています。
磁気シールドをベースとしたEM Cell技術が同社のほぼすべての製品に投入されていることも大きな特徴です。UEF(Unified Electromagnetic Field)と彼らが呼ぶ電磁気的なシールドを生成し、ノイズを除去する技術です。ネットワークオーディオは高周波ノイズ対策が非常に重要ですから、その知見がしっかり入っているという点が、Voodoo最大のオリジナリティと魅力だと感じています。
Voodooの基本的なスペックについて解説しますと、筐体は高級グレードのアルミ削り出しで、質量は12kg。電源はリニア電源で、しっかりしたオーディオ機器としての佇まいを感じますね。美しいカーボンが天板に貼ってあって、共振対策もなされています。
Roon ServerとRoon Readyの双方の使い方ができるという点も他にはない魅力です。1台でRoon再生ができるトランスポートとして使用できるだけでなく、他社製のRoon Serverと組み合わせてRoon Readyとして使うことも、他社製のRoon Readyに送り出すサーバーとして使用することもできます。
―― 今回は1台のデモ機をRoon ServerかつRoon Readyとして使用し、USB出力でAUDIAのCDプレーヤーに接続して再生しています。
土方 もうひとつ僕が素晴らしいと感じた点が、パーツ選定のやり方です。シナジスティックはブラインドテストを非常に重視しているブランドなんですね。コンピューター屋さんとはまた違ったアプローチです。マザーボードやCPU、SSDなども複数用意して、ブラインドテストで一番音質の良いものを選んで搭載したそうです。Roon Serverは、少しPCの知識がある人ならば自作することもできますが、一般ユーザーがそういった聴き比べをすることは難しいですよね。そういったところにもオーディオメーカーとしての矜持を感じます。
先ほども話題に出たEM Cellがマザーボードの下に1枚、電源部の下にも1枚入っています。これがシールドの役割を果たしていて、ノイズ対策を行なっています。シナジスティックのアクセサリーは僕もいくつか試したことがあるのですが、このEM Cellの効果なのか、「オーディオ的な再生尺度」が明らかに良くなるんですよ。ちょっと信じられないレベルです。
―― もうひとつ、このブランドの大きな特徴にシューマン波を活用しているというのがあります。
土方 シューマン波というのもシナジスティックの大きな特徴ですね。しかも、Voodooでは青、赤、緑、なしの4パターンから効き方を選べます。再生中に、右上の電源ボタンを押すことでそれぞれ色が変わります。簡単に聴き比べができる、好きな音質を探ることができるという点も面白いですね。
田中 私がいつもリファレンスにしているレベッカ・ピジョンの「スパニッシュ・ハーレム」で聴き比べをしました。今回のシステムで言うと、「なし」の状態でも非常に良いのですが、「青」にしたら全然違うんですよね。シューマン波がなんなのか、どう効いているのか、正直に言って私もしっかり理解しているわけではないのですが、明らかに効果を感じます。より有機的に、アナログチックになる印象です。デジタル臭さがなくなって、ボーカルが前に出てきて奥行き感が再現される。正直次元が2つくらい上がる印象です。
土方 僕は実は「赤」も結構好きで、オーケストラ、それからEDMは「赤」も素晴らしいと思っていいます。
田中 確かに「赤」もすごいですよね。レベッカ・ピジョンのヴォーカルがよりはっきりくっきりする印象です。こう、ちょっと襟を正して、真摯に向き合いたいときにもいいと思います。これがボタンひとつで簡単に聴き比べができてしまうというのも非常に面白いです。
土方 シューマン波について補足しますと、これはシューマン波がスピーカーから出ているわけではなくて、Voodooのなかにシューマン波発生装置が組み込まれていて、電気信号がスムーズに流れるように調整しているものだそうです。「緑」はどうでした?
田中 「緑」は優しくて柔らかで滑らかで。これは反対にリラックスして聴きたい時に使いたいですね。レベッカ・ピジョンに囁いてもらうというか、気持ちよく子守唄のように歌ってほしい時にはこれが一番良いですね。あとは夜お酒なんか飲みながら、部屋の照明をちょっと暗くして、ゆっくり聴きたいときなどもいいですよね。心地よく眠れそうです。
土方 今回はネットワークトランスポートとして使用していますが、それでもこれだけの音の差が出るというのが非常に驚きです。メーカーによると、Roon ServerとReadyを分けて2台使用することでさらに音質がよくなるそうなので、それもいつか試してみたいですね。負荷分散ができるので、理論的にも音質面で有利だというのも納得できます。それにVoodooは、それぞれでシューマン波の「色違い」を設定できますから、たとえば2台を「赤」「赤」とか「赤」「青」とか、色々切り替えることもできますね!
ハイエンドのRoon Serverの製品は各国のブランドから出てきていますが、このVoodooは買った後の満足度が非常に高い製品だと思います。スペック的な凄さもあるんですけれども、それ以上にオーディオ製品である、オーディオとしてのこだわりが詰まっているということが大事です。アクセサリーのノウハウとコンピューター的な作り込み、それが両立できている奇跡のようなオーディオサーバーだと思っています。価格も300万円と、おいそれと買える金額ではありませんが、ぜひ体験してほしいと思っています。
―― ちなみにVoodooはあくまでRoon専用機で、UPnP再生等には対応していないんですよね。
土方 はい、そう認識しています。
―― シナジスティックのルーターとハブについても、少しコメントをいただけますか? このルーターが日本で大きくヒットするきっかけになったのも、田中さんの功績が大きいですよね。
田中 そうですね、最初のきっかけは私だったかもしれません。昨年、TAIKO AUDIOのルーターとハブがちょっとハイエンドのお客さんの間で話題になっていました。でも、TAIKOのルーターは160万円超とかなり高額です。またハブもありますが、こちらもTAIKO製品と接続するのを前提としていますから、もう少しお求めやすい、使いやすいものはないかな、と探していた時に、シナジスティックに出会ったんです。
シナジスティックのルーターは税抜66万円。ハブについては、エディスクリエーションやDELA、SOtMなどいくつかのブランドが国内でも展開されてきましたが、ルーターは非常に珍しいですね。オーディオ製品としては高級クラスになると思いますが、これ1台入れるだけでかなり効果があると感じられたんです。
―― 私の知っている限りですと、韓国のWaversaというブランドがルーターを出していましたが、あまり日本でも注目はされていなかったように思います。
土方 元ネットワークエンジニア的に言うと、オーディオ用ルーターでセグメントを分割できるというのも大きなポイントです。
―― セグメントを分割できるというのは具体的にどういうメリットがありますか?
土方 ネットワーク信号をセグメント化することで、オーディオとは関係ないネットワーク信号を遮断することができるというものです。いわゆるブロードキャストも遮断して、オーディオ機器の制御信号と、音声信号のみを通すというイメージです。通常、自宅のルーターにはテレビやゲーム機、家族のスマートフォンなども接続されていることが多いですよね。そういった余計な通信と、オーディオ用の通信を分けるということです。実は僕も自宅の環境でテストしたことがあるのですが、その時はVLANという機能を使ってセグメントを分けましたが、明確に透明感が上がってノイズフロアが下がる。微笑レベルの音の再現性に大きな違いを感じました。
読者の皆様には、ハブとルーターを同じように考える方もいらっしゃるかもしれませんが、ルーターは中にOSも入っていて、全然作り込みのレベルが違うんですね。中で動いている処理が圧倒的に多いので、それだけノイズ源にもなりやすい。ですから、ハブを変えるよりも実はずっと効果が大きいと考えています。
田中さん的には、ルーターとハブ、どちらから優先的に手をかけた方がいいと考えていますか?
田中 私としてはぜひルーターをオススメしたいですね。この音質改善効果は本当にすごいです。例えば家庭用のプリンター、どこのご家庭にもあると思いますが、あれがすごく音にはよくないんですよ。めちゃくちゃノイズをばら撒いているので。ですから、そういった家庭用機器と電気的に分断できると言う点でも非常に意味があります。ただ、シナジスティックのハブも非常に質が良いので、ポートの数が足りない場合にはぜひハブも入れて欲しいところです。
土方 ネットワークオーディオの黎明期、「全然音が良くない」と言う声をたくさん聞きましたが、いまから考えるとそういったネットワーク由来のノイズの影響について、しっかり対策できていなかったこともあったと思います。いまやそこが原因であったこともわかってきましたから、ネットワークオーディオの音質も飛躍的に良くなっています。順番が前後しますが、先ほど申し上げたUEF技術ももちろんルーターやハブにも入っています。これだけでも、他のブランドとは全く違うアイデアの製品だと言うことがよく分かりますね。
田中 Voodooを購入していない人でも、ネットワークオーディオをやっている人は、ぜひルーターに注目して欲しいです。すでに立派なハブを持っていて、複数のプレーヤーやサーバーを繋いでいる方もいらっしゃると思いますが、そこに追加することも可能です。それに、ルーターの電源でACアダプターではない、IECのタイプというのも珍しいですよね。そこもオーディオ製品としてのこだわりも感じます。
―― オタイオーディオさんは、Synergistic Researchのルーターの特約店でもあるんですよね。
田中 はい、特約店として販売させてもらっています。私は前職ネットワークエンジニアをやっていたのですが、オタイオーディオに入社したときは、まさかその頃のスキルがこんなに役に立つとは夢にも思っていませんでしたよ(笑)。
土方 ネットワークオーディオはトラブルシューティングがとても大変ですが、田中さんならば安心してお任せできますね。
―― ちなみにテッドさん(シナジスティックのCEO)は、なぜこういったネットワーク関連製品を出すことにしたのでしょう?
朝日 それについてもテッドさんに聞いたことがあるんですが、特にアメリカのオーディオ市場はもう完全にストリーミングの世界になっていて、CDを使っているひとはほとんどいないんだそうです。ですので、ショウのデモでもストリーミングを使うのですが、普通のパソコンではやっぱり音が悪い。ペラペラに音が薄いし、ノイズ感も気になる。そこが本当に不満で、それならばいっそ自分たちで作ってしまおう、と思ったそうなんです。
―― ないならば自分たちで作ってしまおう、というところに、テッドさんの開発者としての意地を感じますね。改めて、土方さんから見てこのアイレックスさんの試聴室全体に対する感想はいかがですか?
土方 まず試聴室の音が素晴らしいですよね。朝日さんが土地探しからこだわって、音質面でも妥協なく作り上げていったことがよく伝わってきます。ボーカル曲では、口元の動きが非常によく再現されていて音楽的な再生能力の高さも感じますし、ベースラインの立体的で分解能の良さにアクセサリーの効果も感じます。また最近僕は音のスピード感を重視して試聴していますが、この場所はシステム全体として揃っていて、もたつくところがほとんどない。もうこれ以上はないんじゃないか、というところまで到達しているのを感じます。
―― 上流、再生機器側がしっかりしていることで、ノイズ感のない、自然な音の広がりも感じますね。
土方 パッパーノ指揮の「はげ山の一夜」は特にワイドレンジで、壮大さをしっかり表現しながら、抑揚への追従力の高さも感じます。ティンパニの迫力など、ダンゴにならずにしっかり分離して聴こえてくる点も評価したいです。Roonでここまでの音質が実現できること、改めてネットワークオーディオを10年以上追いかけてきた身として、感慨深いものがあります。
田中 やっとここまできたか、という思いはありますよね。
土方 やっぱり音が正統派だな、と思います。変な癖がなくて、オーディオ的な再生尺度であるfレンジやダイナミックレンジも確保されていますし、音の立ち上がり/立ち下がりや、サウンドステージの広がりも正確に再現しています。そして結構ストイックに出してくるところも印象的ですね。音楽性も素晴らしいのですが、音楽性だけではない、ハイエンドオーディオの理想形だと感じています。それでいて、さっきのシューマン波の「赤」「青」「緑」の違いなどもしっかり描き出してくるところも面白い。
―― 上流機器側が影響を与えやすい要素はなにかありますか?
土方 やっぱり根本的なノイズフロアに影響を与えますよね。特にクラシックなど、音が出た瞬間の余韻の表現がこれまで以上によく聴こえてきます。情報量に関しては、そもそもの上流でしっかり出せていないと、下流ではどうにもなりませんから。ですからVoodooについても、改めてアーティストの凄みをしっかり聴かせてくれるサーバーだなと思いました。
―― Qobuzもスタートして、Roonを活用してストリーミングを存分に楽しめる環境が整ってきましたね。
土方 ストリーミングの楽しさは、やっぱり新しい音楽にたくさん出会えることです。Roonはレコメンド機能も充実していますから、自分の好きな曲、新しいアーティストに出会える可能性が飛躍的に高まります。
―― ネットワークオーディオ機器はすぐ陳腐化するんじゃないの、という心配の声を聞くこともありますが、シナジスティックとしては何か考えていることはあるのでしょうか?
朝日 ええ、実はそのことも田中さんからも要望ををいただいています。CPUやマザーボードって本当に日々進化するので、シナジスティックとしても「アップグレードキット」のようなものを今後出せないかと考えています。いまはVoodooを発売したばかりですから、すぐにどう、というのはないのですが、将来的に長く使っていただけるプロダクトにしたい、という考えは持っているようです。
―― それを聞いて安心しました! 土方先生、田中さん、貴重な対談をありがとうございました!
(提供:アイレックス)
「Voodoo」はどのように使いこなすことができるのか、その音質のポイントはどこにあるのか? 今回は、ネットワークオーディオの第一人者である土方久明氏と、シナジスティック・リサーチを強力にプッシュする名古屋のオーディオ専門店、オタイオーディオのペガサス☆田中さんの対談を実施。Voodooの輸入元である、アイレックスの河口湖試聴室でのサウンドはどのようなものであったか、その魅力を探ってみよう。
■ネットワークオーディオの専門家が最新Roonサーバーを語り尽くす!
―― 本日は山梨県・河口湖にあるアイレックスさんの試聴室にお集まりいただきましてありがとうございます。今回は、シナジスティック・リサーチから発売になりましたRoon専用サーバー「Voodoo」について、お二人にたっぷり語っていただきたいと考えています。
土方 はい、僕は昨年のインターナショナルオーディオショウの講演でもお話させていただきましたが、これまでにない新しいRoonサーバーとして大変期待しております。
田中 オタイオーディオ店長の田中です。シナジスティック・リサーチはルーターやネットワークハブも発売しており、私も以前から大変注目しておりました。今回は土方先生と対談する機会をいただきまして、とても光栄です!
―― 改めてシナジスティック・リサーチというブランドについて教えていただけますか?
土方 僕がこのブランドを最初に知ったのはアクセサリーからでした。1992年創業で、アクセサリーブランドとして30年以上の歴史を持つ老舗ブランドです。ケーブルはもちろんですが、クリーン電源やアクティブアースなど、幅広いアクセサリー製品を開発する、技術力のあるブランドだということが大きなポイントです。
僕はもともとエンジニアでしたから、オカルト的な製品は非常に気をつけて見ているところがあります。ですが、シナジスティックは理論的な裏付けもしっかり持っているブランドで、独創的なアイデアは非常に “先進性” があり、その点でも注目しています。
―― 田中さんのシナジスティック・リサーチに対する最初の印象はどんな感じでしたか?
田中 アイレックス社長の朝日さんから、最初はアクティブアースをご紹介いただいたんですね。正直そのときはあまり私のなかでピンと来てなかったんですが、自分なりに本国サイトなどを調べていくなかで、オーディオ用ルーター「Network Router UEF」に出会ったんです。で、朝日さんに「このルーターちょっと気になるから聴いてみたい」とリクエストしまして、取り寄せてもらいました。
それまで、オーディオ用のスイッチングハブというのはいくつかのブランドから出ていましたが、ルーターというのはほとんどなかったんですね。それで聴いてみたら、その効果が絶大!で。
朝日 正直なことを言えば、最初アイレックスとしてもネットワークオーディオ機器についてはそんなに積極的ではなかったのです。これまで扱ってこなかったので十分なノウハウもありませんでしたし、もう少しマーケットの動きを見てから考えよう、と思っていました。ですが、田中さんに大きく背中を押されまして(笑)、本格的にネットワークオーディオにも取り組んでみよう、ということでルーター、スイッチングハブ「Ethernet Switch UEF」、そして今回の「Voodoo」も導入することにしました。
■アナログで有機的な音がするRoonサーバー
―― ルーターの音質面での印象はいかがでしたか?
田中 最初にルーターを聴いた時も非常に印象が良くて、「音楽性が高くて厚みがある、アナログチックな音がする」と感じました。Voodooの基本的な音調についても同様の印象を持っています。
Roonサーバーを出しているメーカーは他にもありますが、傾向としては聴感上のS/Nが良くて、くっきりはっきり聴きごたえがあるものが多いように感じています。これはいまの世界的なトレンドでもありますが、一方でコンピューター屋さんが作っているな、と感じるものもありました。ですが、このVoodooの音は違います。アナログで有機的な音がするんです。うちの常連さんにも聴いてもらって、やっぱり音楽性が高いねって意見をいただいて、早速展示機として導入させてもらったんです。
土方 僕もVoodooの音質を非常に高く評価しています。これについては、先ほどもお話ししましたが、もともとアクセサリーメーカーであったというのが大きくて、他のメーカーでは作れない、特別なギミックをたくさん投入しています。
磁気シールドをベースとしたEM Cell技術が同社のほぼすべての製品に投入されていることも大きな特徴です。UEF(Unified Electromagnetic Field)と彼らが呼ぶ電磁気的なシールドを生成し、ノイズを除去する技術です。ネットワークオーディオは高周波ノイズ対策が非常に重要ですから、その知見がしっかり入っているという点が、Voodoo最大のオリジナリティと魅力だと感じています。
Voodooの基本的なスペックについて解説しますと、筐体は高級グレードのアルミ削り出しで、質量は12kg。電源はリニア電源で、しっかりしたオーディオ機器としての佇まいを感じますね。美しいカーボンが天板に貼ってあって、共振対策もなされています。
Roon ServerとRoon Readyの双方の使い方ができるという点も他にはない魅力です。1台でRoon再生ができるトランスポートとして使用できるだけでなく、他社製のRoon Serverと組み合わせてRoon Readyとして使うことも、他社製のRoon Readyに送り出すサーバーとして使用することもできます。
―― 今回は1台のデモ機をRoon ServerかつRoon Readyとして使用し、USB出力でAUDIAのCDプレーヤーに接続して再生しています。
土方 もうひとつ僕が素晴らしいと感じた点が、パーツ選定のやり方です。シナジスティックはブラインドテストを非常に重視しているブランドなんですね。コンピューター屋さんとはまた違ったアプローチです。マザーボードやCPU、SSDなども複数用意して、ブラインドテストで一番音質の良いものを選んで搭載したそうです。Roon Serverは、少しPCの知識がある人ならば自作することもできますが、一般ユーザーがそういった聴き比べをすることは難しいですよね。そういったところにもオーディオメーカーとしての矜持を感じます。
先ほども話題に出たEM Cellがマザーボードの下に1枚、電源部の下にも1枚入っています。これがシールドの役割を果たしていて、ノイズ対策を行なっています。シナジスティックのアクセサリーは僕もいくつか試したことがあるのですが、このEM Cellの効果なのか、「オーディオ的な再生尺度」が明らかに良くなるんですよ。ちょっと信じられないレベルです。
■ワンタッチでシューマン波の「効き具合」を変更できる
―― もうひとつ、このブランドの大きな特徴にシューマン波を活用しているというのがあります。
土方 シューマン波というのもシナジスティックの大きな特徴ですね。しかも、Voodooでは青、赤、緑、なしの4パターンから効き方を選べます。再生中に、右上の電源ボタンを押すことでそれぞれ色が変わります。簡単に聴き比べができる、好きな音質を探ることができるという点も面白いですね。
田中 私がいつもリファレンスにしているレベッカ・ピジョンの「スパニッシュ・ハーレム」で聴き比べをしました。今回のシステムで言うと、「なし」の状態でも非常に良いのですが、「青」にしたら全然違うんですよね。シューマン波がなんなのか、どう効いているのか、正直に言って私もしっかり理解しているわけではないのですが、明らかに効果を感じます。より有機的に、アナログチックになる印象です。デジタル臭さがなくなって、ボーカルが前に出てきて奥行き感が再現される。正直次元が2つくらい上がる印象です。
土方 僕は実は「赤」も結構好きで、オーケストラ、それからEDMは「赤」も素晴らしいと思っていいます。
田中 確かに「赤」もすごいですよね。レベッカ・ピジョンのヴォーカルがよりはっきりくっきりする印象です。こう、ちょっと襟を正して、真摯に向き合いたいときにもいいと思います。これがボタンひとつで簡単に聴き比べができてしまうというのも非常に面白いです。
土方 シューマン波について補足しますと、これはシューマン波がスピーカーから出ているわけではなくて、Voodooのなかにシューマン波発生装置が組み込まれていて、電気信号がスムーズに流れるように調整しているものだそうです。「緑」はどうでした?
田中 「緑」は優しくて柔らかで滑らかで。これは反対にリラックスして聴きたい時に使いたいですね。レベッカ・ピジョンに囁いてもらうというか、気持ちよく子守唄のように歌ってほしい時にはこれが一番良いですね。あとは夜お酒なんか飲みながら、部屋の照明をちょっと暗くして、ゆっくり聴きたいときなどもいいですよね。心地よく眠れそうです。
土方 今回はネットワークトランスポートとして使用していますが、それでもこれだけの音の差が出るというのが非常に驚きです。メーカーによると、Roon ServerとReadyを分けて2台使用することでさらに音質がよくなるそうなので、それもいつか試してみたいですね。負荷分散ができるので、理論的にも音質面で有利だというのも納得できます。それにVoodooは、それぞれでシューマン波の「色違い」を設定できますから、たとえば2台を「赤」「赤」とか「赤」「青」とか、色々切り替えることもできますね!
ハイエンドのRoon Serverの製品は各国のブランドから出てきていますが、このVoodooは買った後の満足度が非常に高い製品だと思います。スペック的な凄さもあるんですけれども、それ以上にオーディオ製品である、オーディオとしてのこだわりが詰まっているということが大事です。アクセサリーのノウハウとコンピューター的な作り込み、それが両立できている奇跡のようなオーディオサーバーだと思っています。価格も300万円と、おいそれと買える金額ではありませんが、ぜひ体験してほしいと思っています。
―― ちなみにVoodooはあくまでRoon専用機で、UPnP再生等には対応していないんですよね。
土方 はい、そう認識しています。
■ネットワークアクセサリーもシナジスティックの魅力
―― シナジスティックのルーターとハブについても、少しコメントをいただけますか? このルーターが日本で大きくヒットするきっかけになったのも、田中さんの功績が大きいですよね。
田中 そうですね、最初のきっかけは私だったかもしれません。昨年、TAIKO AUDIOのルーターとハブがちょっとハイエンドのお客さんの間で話題になっていました。でも、TAIKOのルーターは160万円超とかなり高額です。またハブもありますが、こちらもTAIKO製品と接続するのを前提としていますから、もう少しお求めやすい、使いやすいものはないかな、と探していた時に、シナジスティックに出会ったんです。
シナジスティックのルーターは税抜66万円。ハブについては、エディスクリエーションやDELA、SOtMなどいくつかのブランドが国内でも展開されてきましたが、ルーターは非常に珍しいですね。オーディオ製品としては高級クラスになると思いますが、これ1台入れるだけでかなり効果があると感じられたんです。
―― 私の知っている限りですと、韓国のWaversaというブランドがルーターを出していましたが、あまり日本でも注目はされていなかったように思います。
土方 元ネットワークエンジニア的に言うと、オーディオ用ルーターでセグメントを分割できるというのも大きなポイントです。
―― セグメントを分割できるというのは具体的にどういうメリットがありますか?
土方 ネットワーク信号をセグメント化することで、オーディオとは関係ないネットワーク信号を遮断することができるというものです。いわゆるブロードキャストも遮断して、オーディオ機器の制御信号と、音声信号のみを通すというイメージです。通常、自宅のルーターにはテレビやゲーム機、家族のスマートフォンなども接続されていることが多いですよね。そういった余計な通信と、オーディオ用の通信を分けるということです。実は僕も自宅の環境でテストしたことがあるのですが、その時はVLANという機能を使ってセグメントを分けましたが、明確に透明感が上がってノイズフロアが下がる。微笑レベルの音の再現性に大きな違いを感じました。
読者の皆様には、ハブとルーターを同じように考える方もいらっしゃるかもしれませんが、ルーターは中にOSも入っていて、全然作り込みのレベルが違うんですね。中で動いている処理が圧倒的に多いので、それだけノイズ源にもなりやすい。ですから、ハブを変えるよりも実はずっと効果が大きいと考えています。
田中さん的には、ルーターとハブ、どちらから優先的に手をかけた方がいいと考えていますか?
田中 私としてはぜひルーターをオススメしたいですね。この音質改善効果は本当にすごいです。例えば家庭用のプリンター、どこのご家庭にもあると思いますが、あれがすごく音にはよくないんですよ。めちゃくちゃノイズをばら撒いているので。ですから、そういった家庭用機器と電気的に分断できると言う点でも非常に意味があります。ただ、シナジスティックのハブも非常に質が良いので、ポートの数が足りない場合にはぜひハブも入れて欲しいところです。
土方 ネットワークオーディオの黎明期、「全然音が良くない」と言う声をたくさん聞きましたが、いまから考えるとそういったネットワーク由来のノイズの影響について、しっかり対策できていなかったこともあったと思います。いまやそこが原因であったこともわかってきましたから、ネットワークオーディオの音質も飛躍的に良くなっています。順番が前後しますが、先ほど申し上げたUEF技術ももちろんルーターやハブにも入っています。これだけでも、他のブランドとは全く違うアイデアの製品だと言うことがよく分かりますね。
田中 Voodooを購入していない人でも、ネットワークオーディオをやっている人は、ぜひルーターに注目して欲しいです。すでに立派なハブを持っていて、複数のプレーヤーやサーバーを繋いでいる方もいらっしゃると思いますが、そこに追加することも可能です。それに、ルーターの電源でACアダプターではない、IECのタイプというのも珍しいですよね。そこもオーディオ製品としてのこだわりも感じます。
■ネットワークに強いお店のサポートも重要
―― オタイオーディオさんは、Synergistic Researchのルーターの特約店でもあるんですよね。
田中 はい、特約店として販売させてもらっています。私は前職ネットワークエンジニアをやっていたのですが、オタイオーディオに入社したときは、まさかその頃のスキルがこんなに役に立つとは夢にも思っていませんでしたよ(笑)。
土方 ネットワークオーディオはトラブルシューティングがとても大変ですが、田中さんならば安心してお任せできますね。
―― ちなみにテッドさん(シナジスティックのCEO)は、なぜこういったネットワーク関連製品を出すことにしたのでしょう?
朝日 それについてもテッドさんに聞いたことがあるんですが、特にアメリカのオーディオ市場はもう完全にストリーミングの世界になっていて、CDを使っているひとはほとんどいないんだそうです。ですので、ショウのデモでもストリーミングを使うのですが、普通のパソコンではやっぱり音が悪い。ペラペラに音が薄いし、ノイズ感も気になる。そこが本当に不満で、それならばいっそ自分たちで作ってしまおう、と思ったそうなんです。
―― ないならば自分たちで作ってしまおう、というところに、テッドさんの開発者としての意地を感じますね。改めて、土方さんから見てこのアイレックスさんの試聴室全体に対する感想はいかがですか?
土方 まず試聴室の音が素晴らしいですよね。朝日さんが土地探しからこだわって、音質面でも妥協なく作り上げていったことがよく伝わってきます。ボーカル曲では、口元の動きが非常によく再現されていて音楽的な再生能力の高さも感じますし、ベースラインの立体的で分解能の良さにアクセサリーの効果も感じます。また最近僕は音のスピード感を重視して試聴していますが、この場所はシステム全体として揃っていて、もたつくところがほとんどない。もうこれ以上はないんじゃないか、というところまで到達しているのを感じます。
―― 上流、再生機器側がしっかりしていることで、ノイズ感のない、自然な音の広がりも感じますね。
土方 パッパーノ指揮の「はげ山の一夜」は特にワイドレンジで、壮大さをしっかり表現しながら、抑揚への追従力の高さも感じます。ティンパニの迫力など、ダンゴにならずにしっかり分離して聴こえてくる点も評価したいです。Roonでここまでの音質が実現できること、改めてネットワークオーディオを10年以上追いかけてきた身として、感慨深いものがあります。
田中 やっとここまできたか、という思いはありますよね。
土方 やっぱり音が正統派だな、と思います。変な癖がなくて、オーディオ的な再生尺度であるfレンジやダイナミックレンジも確保されていますし、音の立ち上がり/立ち下がりや、サウンドステージの広がりも正確に再現しています。そして結構ストイックに出してくるところも印象的ですね。音楽性も素晴らしいのですが、音楽性だけではない、ハイエンドオーディオの理想形だと感じています。それでいて、さっきのシューマン波の「赤」「青」「緑」の違いなどもしっかり描き出してくるところも面白い。
―― 上流機器側が影響を与えやすい要素はなにかありますか?
土方 やっぱり根本的なノイズフロアに影響を与えますよね。特にクラシックなど、音が出た瞬間の余韻の表現がこれまで以上によく聴こえてきます。情報量に関しては、そもそもの上流でしっかり出せていないと、下流ではどうにもなりませんから。ですからVoodooについても、改めてアーティストの凄みをしっかり聴かせてくれるサーバーだなと思いました。
―― Qobuzもスタートして、Roonを活用してストリーミングを存分に楽しめる環境が整ってきましたね。
土方 ストリーミングの楽しさは、やっぱり新しい音楽にたくさん出会えることです。Roonはレコメンド機能も充実していますから、自分の好きな曲、新しいアーティストに出会える可能性が飛躍的に高まります。
―― ネットワークオーディオ機器はすぐ陳腐化するんじゃないの、という心配の声を聞くこともありますが、シナジスティックとしては何か考えていることはあるのでしょうか?
朝日 ええ、実はそのことも田中さんからも要望ををいただいています。CPUやマザーボードって本当に日々進化するので、シナジスティックとしても「アップグレードキット」のようなものを今後出せないかと考えています。いまはVoodooを発売したばかりですから、すぐにどう、というのはないのですが、将来的に長く使っていただけるプロダクトにしたい、という考えは持っているようです。
―― それを聞いて安心しました! 土方先生、田中さん、貴重な対談をありがとうございました!
(提供:アイレックス)