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公開日 2026/04/07 06:35
NeSTREAM LIVEとExtreme Liveも協力

産学連携でドルビーアトモスを発信! 洗足学園音楽大学の先端研究から広がる音楽配信の未来

オーディオアクセサリー編集部 塚田真由子

226日、洗足学園音楽大学 先端音楽表現研究所は、オーケストラコンサート「Music Design Symphonic Orchestra 2025」を開催、学内メディア光回線を活用した初のドルビーアトモスによるライブ配信を行った。産学連携で実現したこのプロジェクトのその背景を探るべく、ライブ配信の舞台裏に潜入した。


音楽・音響デザインコースの学生とともに実現


本ライブ配信は、先端音楽表現研究所と音楽・音響デザインコースのコラボレーションプロジェクト。洗足学園 前田ホールにてオーケストラコンサート『地球―The Earth―』を行うとともに、そのドルビーアトモスによる配信&ライブビューイングをM-STUDIOおよびS-STUDIO(洗足学園音楽大学 Media Laboratory)で実施するというもの。



洗足学園 前田ホールで開催されたライブビューイング・ライブ配信プロジェクト「Music Deisgn Symphonic Orchestra 2025」のゲネプロの様子。洗足学園音楽大学 音楽・音響デザインコースの学生によるオーケストラ作品をドルビーアトモスで収録している




Media Laboratory 4階にあるM-STUDIOでは、「Music Design Symphonic Orchestra 2025」のライブビューイングも行われた


本プロジェクトは、主催の洗足学園音楽大学の先端音楽表現研究所だけでなく、「NeSTREAM LIVE」(ラディウス/メモリーテック/クープ)と「Live Extreme」(コルグ)の2つの配信プラットフォームが技術協力として参画している。Live Extremeのライブエンコーダーおよび配信インフラを使用し、その配信ストリームをNeSTREAM LIVE 用アプリおよびLive Extreme用のアプリ(もしくはウェブブラウザ)で受信・再生するという仕組みを採る。

産学連携しているだけでもユニークだが、従来であれば競合関係にあった2つのプラットフォームが、共に手を携えてライブ配信を行ったという。こうした画期的なプロジェクトの舞台裏を、洗足学園音楽大学とコルグ、そしてクープのキーマンに伺った。


学内メディア光回線を用い、ドルビーアトモスでのライブ配信を実現


本プロジェクトを主催する先端音楽表現研究所/音楽・音響デザインコースは、早くからイマーシブオーディオやAI、センシングなどの先端テクノロジーを活用した音楽表現に取り組んでおり、過去にもドルビーアトモスのライブ配信にチャレンジしてきたという。


実際、Media Laboratory(以下、M-Lab)をはじめとする施設は極めて充実しており、ドルビーアトモスでライブ配信を行うために最適な環境が整えられている。しかも、Media Laboratoryが竣工した2024年4月以前から音声や映像データを高速で転送するためのネットワークに着目しており、学内にはメディア光回線が敷設されているのだという。


同研究所 所長の森 威功氏は、この光回線のネットワークを用いて大学全体を一つの制作スタジオのように見立て、イマーシブコンテンツのライブ配信を行うことで、同研究所の先端的な取り組みを対外的にアピールできるのではないかと考えた。そこで、 Ne STREAM LIVEの音楽制作に携わっているクープの近藤貴春氏に相談したところ、「それならコルグさんの『Live Extreme』のエンコーダーを使って配信しよう」という近藤氏の提案を受け、洗足学園音楽大学、ラディウス、コルグによる産学連携プロジェクトがスタートしたのだ。



洗足学園音楽大学 教授および先端音楽表現研究所 所長の森 威功氏。ドルビーアトモスライブ配信プロジェクト「Music Design Symphonic Orchestra 2025」を主導した


生形三郎氏がマイクアレイ選定やドルビーアトモス・ミックスを担当


プロジェクトには本サイトで健筆を振るうオーディオ評論家であり、洗足学園音楽大学 音響デザインコース准教授である生形三郎氏も加わり、録音を監修した。



洗足学園音楽大学 音楽・音響デザインコース准教授の生形三郎氏。本プロジェクトの録音全般を監修。ライブ当日は、S-STUDIOでドルビーアトモス・ミックスを行っていた


ここでポイントとなるのがネットワーク。洗足学園音楽大学の建物内には安定した高速通信が可能な光回線が敷設されており、そのメディア光回線を活用したイマーシブコンテンツのライブ配信自体が初めての試みだったのである。




システムの概略図。細かなこだわりとして、前田ホールのキャットウォークまでMillenia製のマイクプリアンプを運び込み、マイクと最短距離で信号を増幅してから伝送することで高音質を追求しているという


配信の概略は上掲のダイアグラムに詳しい。前述の通り、コンサートが行われる前田ホールと、ミックス作業を行うM-Labのスタジオ間は地中に設置した光回線で結ばれている。


5階にあるS-STUDIOは、録音や整音などMA(Multi Audio)と呼ばれる工程で使用されるスタジオで、ドルビーアトモス7.1.4chに対応。隣の録音ブースとともに、デジタルオーディオネットワーク「Dante」を使ったIPベースの伝送に対応、チャンネルベースやオブジェクトベースのミキシングが可能になっている。 



Avidのデジタルコンソールが置かれたS-Studio。ドルビーアトモス7.1.4chに対応しており、イマーシブ・オーディオのミックスおよびマスタリングに対応している


ステージ上のマイクセッティングからバランス調整まで、収録は生形氏および音響デザインコースに在籍する学生が担当。生形氏はサラウンド録音を行うのにあたり、レコーディングエンジニアの深田 晃氏が提唱したサラウンド録音手法「Fukada Tree」マイクアレイをベースにアレンジしたアレイを構築した。


ゲネプロ中に各マイクを見せてもらったが、メインのマイクアレイ(フロアレイヤー5chとアウトリガー2ch)はDPA Microphones4006シリーズで統一。トップレイヤーにはソニー製のマイクが4本設置されおり、これらはホールの天井および3点吊り装置から吊るして設置されていた。


このほか、3階のバルコニー席にもガンマイクを設置し、その信号もミキシングしているという。加えて、ステージ上には各楽器に対してのスポットマイクも多数設置され、会場の雰囲気をリアルに捉えられるようになっている。




メインのマイクアレイは、サラウンド録音の第一人者として知られる深田 晃氏が提唱した「Fukada Tree」をベースに設置



メインマイクアレイのLCR用に吊るされたDPA「4006A」



ソフトウェアベースのLive Extremeエンコーダーのメリットとは?


動画エンコーダーはコルグが受け持ち、再生用アプリケーションを主にラディウスが受け持った。S-STUDIOとガラス越しに併設された録音ブースには、コルグ Live Extreme用のPCのほか、Blackmagic DesignのキャプチャーやヤマハのRUio16-Dなどが設置されており、大がかりな機器は置かれていない。




S-Studioに隣り合った録音ブースの様子。コルグの山口創司氏(奥)らがLive Extremeエンコーダーを用いて、ドルビーアトモスでミックスした音と映像とを同期させてエンコードしている


それというのも、配信に使われるエンコーダーはコルグがソフトウェアベースで開発したもので、市販のPCASIOオーディオ・インターフェースで動作するシステムなので、大掛かりな機材を用意する必要はなく、既存の設備に組み込むことが簡単だからだ。


NeSTREAM LIVELive Extremeが手を組んで協力することになった経緯を、クープの近藤氏は次のように語る。


「洗足学園音楽大学様とは数年来のお付き合いで、学生の方々の楽曲をNeSTREAM Liveアプリを使ってオンデマンドで配信するなど、さまざまなプロジェクトでご一緒してきました。今回のプロジェクトについても、洗足学園音楽大学の森先生からライブ配信を行いたいというお話をいただき、我々の方からコルグさんにお声がけしました。


一見すると、NeSTREAM LiveLive Extremeはライバル関係に見えるのかもしれませんが、ことライブ配信に関していうと、Live Extremeが一番先端を走っていると我々は評価しており、今回もコルグさんと一緒に行うのが一番スムーズだと考えたんです。


メモリーテックグループである弊社(クープ)ではこれまで、パッケージを中心とした、映像編集、ドルビーアトモスへのエンコードなどのサービスを提供してきました。また、アーティストのライブ作品をドルビーアトモス用にミックスし、NeSTREAM LIVEを用いて配信してきましたが、生でライブ配信するというところまでなかなか辿り着くことができていませんでした」(近藤氏)。




株式会社クープ 営業部 スタジオ営業グループ シニア・スーパーバイザー 近藤貴春氏。クープはドルビーアトモス対応スタジオを稼働しており、ドルビーアトモス対応のコンテンツ制作のサポートに長年携わってきた。また、NeSTREAM LIVEはラディウス、メモリーテック(クープの親組織)、ポニーキャニオンエンタープライズの3社共同でローンチされたが、その流れで近藤氏はNe STREAM LIVEの配信事業に関わっている


「そんななか、さまざまな配信の現場でコルグさんに会った際に情報交換してみると、ライブ配信に関しては協力した方がお互いのユーザーやクライアントのメリットになるのではないかと思ったんです。ユーザーからしても、いろいろなプラットフォームから自分の観たい作品を観られた方が便利だと思うんですよ。多様な配信を実現するためにも、コルグさんとコラボした方が私たちにとってもメリットが大きいと思い、お声がけしました」(近藤氏)


また、Live Extremeがソフトウェアベースのエンコーダーを用いていることもコラボの理由の一つとなった。


「いままでは私たちも自前のエンコーダーを持ち込んで配信を行っていましたが、大の大人が4〜5人で運ばないといけないような大がかりな機材でした。映像と音を同期させるための特殊な機器も必要で、複雑にラックマウントされた機器を使っていたんです。しかし、Live Extremeの場合、ノートPCを置くスペースさえあれば、PCをパッと開いてすぐにエンコードできるんです。あっという間に映像と音が同期するし、品質に関しても非常に素晴らしい音を実現しているんです」(近藤氏)。




コルグは今回の配信にあたり、Live ExtremeエンコーダーがインストールされたPCを2台持ち込んだ。1台でも十分だが、冗長化対策としてサブPCも用意している



上の機器は、デジタルオーディオネットワークの規格、Dante対応のオーディオI/F



Live Extremeエンコーダーの詳細についてコルグの山口創司氏に伺った。


「Live Extremeは、NeSTREAM LIVEとは出発点が少し異なっていて、エンコーダーを開発するというところが原点だったんです。専用プレーヤーは使わずに、ブラウザで再生できるフォーマットで開発を続けてきました。NeSTREAM LIVE と我々はコンペティターのように思われがちですが、そもそも両者は違う領域でライブ配信に関わってきたんです。


近藤さんがおっしゃったように、ライブ配信においては複雑にラックマウントされたエンコーダーを使う場合もありますし、WirecastやOBS Studioのようなソフトウェアベースのエンコーダーを使う場合もあるんです。我々はふたつの理由からソフトウェアベースの道を採りました。


ひとつは、スペースに制約のありがちなコンサート会場にも手軽に持って行きやすいこと。もうひとつは、規格変更スピードが極めて早い配信業界に追いついていけるようにするためですね。ハードウェアでエンコーダーを組んでしまうと、市場や規格変更のスピードに追いつくのが大変なんですが、その点、ソフトウェアの場合、比較的キャッチアップしやすいんです」(山口氏)。



株式会社コルグ 技術開発部 LX営業グループ マネージャーの山口創司氏。Live Extremeの営業戦略および市場開拓を担当。音楽・放送・エンタメ業界など多岐にわたる業界との協業を推進している


競合という垣根を越えてタッグを組んだNeSTREAM LIVEとLive Extreme。その背景にあるのは、コンサート会場に比肩する高音質でユーザーに聴いてほしいという強い想いだ。ドルビーアトモスでミックスされたアーティストのライブ映像をより多くのユーザーに楽しんでもらえるなら、タッチポイントはどこであれ厭わないというオープンマインドな姿勢が両者に共通してある。


**********


取材をしているうちに、『地球―The Earth―』の本番の時間になった。ライブをミックスしている音を聴きながら見学させてもらったが、ゲネプロで聴いた前田ホールのような立体的な音が鳴り響いていた。


後日、NeSTREAM LIVEおよびLive Extremeでアーカイブ配信(注:2026年3月25日まで配信された)された動画も見てみたが、記憶通りの音が聴こえてきて、情景が目に浮かぶようだった。


洗足学園音楽大学学内に敷設されたメディア光回線を活用し、ドルビーアトモスでライブ配信を行った本プロジェクト。この回線を活用したライブ配信も同大学にとっては初めてだったが、NeSTREAM LIVEとLive Extremeによるタッグも初めてのこと。初めて尽くしのプロジェクトとなった。


近藤氏は「メジャーなアーティストのライブ配信もコルグさんとタッグを組んで行っていきたい」と今後の抱負を語ってくれた。Live ExtremeとNeSTREAM LIVEそれぞれが持つ強みが組み合わされることで、ドルビーアトモスで聴くライブ音源の素晴らしさがより多くの方に普及するに違いないと感じた。

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