自宅の試聴室「BOIS NOIR(ボワノワール)」で聴いた。フロントにトールボーイ型のDC3を2台、サラウンド用にブックシェルフ型のDC1を2台、センターに横置きのDCCを使用。サブウーファーには試聴室で使っているベロダインDD18を加え、5.1chのシステムを構成した。試聴したソースはCD、SACD、DVDの3種。DVDは音楽ソフトと映画の両方で試聴している。

CDのステレオ再生音は鮮明そのもの。全体に音の鮮度が高く、ヌケがいい。マライア・キャリーの『MIMI』から始まったこの試聴だが、最初の一曲「IT'S LIKE THAT」のパーカッションの響きが耳を打った瞬間から、わたしはこのシステムが奏でる切れのいいサウンドの虜になっていた。ポップスのCDとしては、十分に広いfレンジ、Dレンジを確保したディスクだが、多重録音されたボーカルの鮮明さ、オルガンの深い重低音の響き、力感に満ちた黒人男性のボーカルなど、表現の全てが聴く者を圧倒する。これは再生機器が良くなれば良くなるほど、効果が上がるディスクだが、EYRIS DCのシステムは、これ以上の力感は必要ないと思わせるほどの雄大なサウンドを奏でた。

クラシックではロッシーニのオペラ『アルジェのイタリア女』を聴いた。まず、爽快な序曲で、ストリングスが表出する輝きと艶の美しさが印象的だ。フルートをはじめとする木管は、ヌケがよく、空間を見事に飛翔してくる。それぞれの歌手の音像位置がきちっと定位し、歌手の動きも明瞭である。同軸2ウェイユニットを中心としたシステムだから定位がいいことは予想していたが、その正確さはわたしが予測していた次元をはるかに越えていた。

SACDマルチチャンネルの再生では、本シリーズの真価が遺憾なく発揮された。聴き手を取り巻くサラウンドの音場は見事に整い、広い空間が緻密で鮮明な響きに満たされる。各チャンネルの音色が均質に保たれているので、活き活きとした音像がステレオ再生の時よりリアルに感じ取れる。マルチ再生にまつわる違和感など全くない。諏訪内晶子の『シベリウス/ヴァイオリン協奏曲』では、オーケストラの演奏が広い空間で捉えられ、前方中央にテンションに満ちたソロヴァイオリンが浮かび上がる。この曲が持つ、コズミックな魅惑を初めて体感した感激は何ものにも変えがたいほど魅惑に満ちている。

DVD『オペラ座の怪人』は、ドルビーデジタル5.1chでの再生。ここでは、映像と音の見事な一体化が満喫できる。ファントム(怪人)が、オペラ歌手クリスティーヌをオペラ座地下の洞窟に誘う時の2重唱では、美しい映像と、本シリーズが奏でる音楽が、高い次元で拮抗し、掛け算的な効果で耽美的な空間を造り出したのだ。

EYRIS DCシリーズで構成する5.1chシステムの価格は、サブウーファー抜きの合計で54万6千円。大画面と拮抗する本格的なマルチチャンネル再生の魅力を味わうなら、やはりこのクラスの製品が欲しくなる。

早稲田大学卒業後、東宝に入社。13本の劇映画をプロデュース。独立後、フジテレビ/学研製作の『南極物語』(1983)のチーフプロデューサーを務める。映画製作の経験を活かしたビデオの論評は、家庭における映画鑑賞の独自の視点を確立した。