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ゼンハイザーのコンシューマー向けヘッドホンラインアップには「HD800」を頂点とするハイエンドシリーズと、映画や音楽を鑑賞するオーディオファイル向けの上位クラスとなる「HD500」シリーズが存在し、以下、ポータブルユースを含めた多彩なオーディオ向け製品群から構成されている。「HD500」シリーズにはリーズナブルながら安定した瑞々しい清楚なサウンドを持った上位機「HD595」をはじめ人気の高いラインアップが揃っており、ロングセラーを続けていた。昨年発売された「HD800」やエントリークラスの「HD400」シリーズの登場によって、ゼンハイザーの次世代に向けた新しい胎動を強く感じることとなったが、「HD500」シリーズはそのまま維持され、新「HD500」シリーズは一体どういう装いで登場するのか、気がかりであった。

そして今秋、ついに新たな「HD500」シリーズの3モデルが我々の前に姿を現したのである。シリーズトップモデル「HD595」の後継である「HD598」、同ミドル機「HD555」の後継「HD558」、同入門機「HD515」の後継「HD518」という顔ぶれで、モデルナンバー末尾に“8”が付いたラインアップだ。

いずれもオープンエアー形式を引き継いでおり、人間工学に基づいたエルゴノミックデザインを取り入れた独自技術『E.A.R.』(Eargonomic Acoustic Refinement)を採用。より自然に振動板から発せられたサウンドを耳まで正確に届けるため、耳に対して平行となるよう僅かに角度を付けたバッフルにユニットが取り付けられている。形状やフィット感も従来モデルのものを引き継ぎつつ、さらに進化させているが、心臓部となるドライバーユニットも「Advanced Duofol」振動板やネオジウムマグネットを用いた新開発のものへと変更され、ケーブルも着脱可能な仕様となった。

 
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HD598

オーディオヘッドホン
HD598

¥OPEN(予想実売価格24,000円前後)

●型式:ダイナミック・オープンエア型 ●再生周波数帯域:12Hz〜38,500Hz ●インピーダンス:50Ω ●音圧レベル:112dB ●質量:約246g(ケーブル除く) ●ケーブル長:3m/片出し・着脱式 ●プラグ:6.3mmストレートタイプ ●付属品:3.5mmステレオアダプター

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HD558

オーディオヘッドホン
HD558

¥OPEN(予想実売価格18,000円前後)

●型式:ダイナミック・オープンエア型 ●再生周波数帯域:15Hz〜28,000Hz ●インピーダンス:50Ω ●音圧レベル:112dB ●質量:約224g(ケーブル除く) ●ケーブル長:3m/片出し・着脱式 ●プラグ:6.3mmストレートタイプ ●付属品:3.5mmステレオアダプター

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HD518

オーディオヘッドホン
HD518

¥OPEN(予想実売価格13,000円前後)

●型式:ダイナミック・オープンエア型 ●再生周波数帯域:14Hz〜26,000Hz ●インピーダンス:50Ω ●音圧レベル:108dB ●質量:約220g(ケーブル除く) ●ケーブル長:3m/片出し・着脱式 ●プラグ:6.3mmストレートタイプ ●付属品:3.5mmステレオアダプター


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まずはトップモデル「HD598」からサウンドも含め細かくみていこうと思う。従来モデルから大きく変わったと感じさせるのはその外観ではないだろうか。上品なアイボリー色のカラーリングにローズウッドのような木目調パーツとメタルグリルのアクセントが加わり、優雅なラグジュアリーテイストに溢れるデザインに仕上げられている。それはまるで欧州産高級車の内装を彷彿とさせるもので、ダークブラウンのベロア製イヤーパッドや、レザー調ヘッドパッドのソフトな装着感もまた心地良い感触に繋がっている。このヘッドバンドは自在にしなり、ストレスの少ない装着感の助けとなっているようだ。

HD598
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新しいHD500シリーズの最上位機種に位置づけられる「HD598」。個性的なカラーリングも魅力の一つ(写真はクリックで拡大)
ヘッドバンドは長さ調整が可能。パーツのカラーマッチもぬかりない(写真はクリックで拡大)

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HD598-headpad
ヘッドバンドにはゼンハイザーのブランドロゴをエンボス加工でスタイリッシュにレイアウトしている(写真はクリックで拡大)
柔らかなクッションを配置して快適な装着性を実現したヘッドバンド(写真はクリックで拡大)

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HD598-LR
イヤーパッドは心地よい装着感のベロア生地を採用。イヤーパッドは交換サービスも行っている(写真はクリックで拡大)
イヤーカップの後ろ側にはユニットの「L/R」を記載(写真はクリックで拡大)

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ケーブルは着脱が可能。プラグを挿入後、ひねって凹凸上のフックを固定する仕様となっており、リスニング中に容易に抜け落ちてしまわないよう工夫されている(写真はクリックで拡大)
新しいHD500シリーズは、3機種ともに6.3mm標準ステレオプラグ仕様。3.5mmステレオミニ変換プラグが付属する(写真はクリックで拡大)


今回は自宅環境で試聴を行ったが、PCオーディオ環境の躍進目覚しい昨今の事情を踏まえ、MacProにリッピングしてある音源をAmarra2.0で再生。FireWire接続している192kHz対応DAC「Apogee ROSETTA200」のバランス出力をヘッドホンアンプ「ラックスマンP-1u」に繋ぎ、新「HD500」シリーズのサウンドを確認した。

【岩井喬氏の試聴ソース】
<クラシック>
・レヴァイン指揮/シカゴ交響楽団『ホルスト<惑星>』より「木星」(ユニバーサル・グラモフォン:00289 477 5010、略称:レヴァイン)

<ジャズ>
・オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』より「ユー・ルック・グット・トゥ・ミー」(ユニバーサル:UCCU-9407、略称:オスカー)

<ロック>
・SCORPIONS『Sting in the Tail』より「The Best Is Yet To Come」(ソニー:SICP2670、略称:スコーピオンズ)

<ポップス>
・『Pure〜AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS』より「運命ーSADAMEー」、「POWDER SNOW」(F.I.X.:KIGA2、略称:AP)
・Suara USBフラッシュメモリカード「星座(アコースティックバージョン)96kHz/24bit」(F.I.X:FM-001、略称:Suara24/96)


爽やかなオープンエアの魅力と肉厚な中低音、さらなる高みに達した最上位機「HD598」

「HD598」のサウンドは従来モデルの「HD595」に伸び伸びとした厚みのある中低域のトーンが加わっているかのようだ。爽やかなオープンエアーの解像感やヌケの良さはもちろん、密度とハリの鮮やかさが同居する絶妙のバランスである。

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「HD598」のサウンドを確かめる岩井氏

『レヴァイン』の管弦楽器は滑らかで艶に溢れる描写だ。ホールトーンはゆったりとリッチな響きに満ちて、太い音像がしっかりと立ち上がる。『AP』のストリングスも流麗で、滑らかなハーモニーが響いている。ふくよかなリズム隊のリリース、ウェットで肉付き良い存在を見せるボーカル表現も艶かしい。

『オスカー』のピアノは低域まで厚みがあり、ハイノートも深く融合する。ウッドベースはむっちりとした質感で胴鳴りはスムースに伸び、スネアの胴も太い。『スコーピオンズ』のエレキは表情豊かな音を紡ぎ、ボーカルは初老とは思えない艶と若々しいハリに満ちたトーンで、透明感溢れるリヴァーブの乗りも良い。

ハイレゾ音源である『Suara24/96』では、ピアノの響きも深みが増し、リッチな音場感が得られる。ボーカルの密度もましているようでふくよかなボトムと瑞々しい口元がバランスよく立ち上がる。キレの良い声のリリースも非常に生々しい。iPodに繋いだ場合であるが、安定した厚みのある音像とハリ良い高域の際立ちが融合し、ふっくらとしたトーンが耳馴染み良く感じられた。

 
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ふくよかさとバランスの良さ、懐が深くマルチユースな「HD558」のサウンド

続いてミドル機の「HD558」であるが、「Advanced Duofol」ドライバーユニットや『E.A.R.』テクノロジー、共通仕様となる着脱式ケーブルのほか、「HD598」同様に最適な音響空間性を作り出すサウンドレフレクターを内蔵している。ヘッドバンドの自在なしなりも継承し、ベロアのイヤーパッドとともに上級機譲りの優れた装着感を実現している。「HD598」の豊かな中低域を幾分か抑えたような傾向で、適度なふくよかさと引き締りのバランスを持ったサウンドである。

『レヴァイン』のハーモニーはすっきりとして、管弦楽器のほぐれ感もちょうど良い。スムースな音運びであり、広がり豊かな音場である。『オスカー』のピアノは軽いタッチで、アタックの粒も細かい。低域にかけて厚みがある音像だ。ウッドベースの弦は厚みがあり、腰高で朗々とした胴鳴りを響かせる。

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新HD500シリーズのミドルモデル「HD558」(写真はクリックで拡大)
「HD558」のヘッドバンド。ブランドロゴがプリントされている(写真はクリックで拡大)

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「HD558」のイヤーカップ。メッシュ素材を配した落ち着きのあるスタイリッシュなデザインとしている(写真はクリックで拡大)

「HD558」のイヤーパッドはベロア生地を採用。色はブラック(写真はクリックで拡大)


『AP』の弦のハーモニーはハリ良く、ふっくらとした余韻を残す。リズム隊はドライで程よい肉付きを持ち、ボーカルは厚みのある音像で、ウェットな口元の質感も得られる。『スコーピオンズ』のエレキはエッジが細やかで、派手な煌びやかさも伴う。リズム隊はほど良い膨らみを持ち、厚みがある安定した音場が展開。ボーカルは伸び良いボトムを持ち、高域はソリッドに浮き上がる。iPodでも厚みのあるサウンドは健在だが、すっきりとヌケの良い見通しも感じられた。


バランスよいエッジの鋭さが魅力、ロック&ポップスも軽快に鳴らす「HD518」

最後にシリーズのエントリーモデルである「HD518」にも触れておこう。ドライバーユニットの基本仕様や『E.A.R.』、ケーブル着脱など、上位モデルの流れをそのまま引き継いでいるが、バランスよくコストダウンを図り、一般的な生地素材によるソフトイヤーパッドや、ホールディング性能の高い、硬めの感触となったヘッドバンドを採用。装着感に関しては上位モデルほどではないにせよ、従来モデルからの流れに近い感触ではある。

HD518
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新HD500シリーズのエントリーモデル「HD518」(写真はクリックで拡大)

「HD518」のヘッドバンド。HD558同様にブランドロゴをプリント(写真はクリックで拡大)


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「HD518」のイヤーカップ。本機もオープンエアタイプとなっており、水平方向に配置されたスリットの奥に細かないくつもの孔を設け、開放的なサウンドを実現している(写真はクリックで拡大)

「HD518」のイヤーパッドはクッション製の高い化学繊維の素材を採用している(写真はクリックで拡大)


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「HD518」のヒンジ部にモデルナンバーを配置。ヒンジの長さが調整でき、快適な装着感を実現している(写真はクリックで拡大)

「HD558」「HD518」ともにケーブルの着脱が可能。写真は「HD518」(写真はクリックで拡大)


サウンドにおいては全帯域でスマートな音像描写をしてくれる傾向で、ゼンハイザーの中では硬質なベクトルのモデルと言えそうだ。『レヴァイン』では細身の管弦楽器がクリアに浮き上がり、ローエンドも弾力良く引き締めて、透明感ある音場を作り出している。『オスカー』のピアノは澄んだ高域のトーンを硬めなアタックに載せて描写。ウッドベースは弦のたわみ感を際立たせ、胴鳴りは腰高な制動感あるものとなる。

『AP』のストリングスは奥が深く、ハーモニーの余韻もクリアな見通しで確認しやすい。ベースラインはむっちりとしているが、ボーカルはドライな質感で、クールなエッジで描かれる。『スコーピオンズ』のエレキはキレの良いピッキングを感じることができ、リズム隊もスマートでタイトさが感じられるようになる。トータルの完成度では上位機には及ばずとも、ロックジャンルに限定すれば「HD518」の持つバランスよいエッジの鋭さに優位性を見出すこともできる。iPodではハリ艶良いボーカルと穏やかな鳴りを見せるリズム隊によって低域の透明度も高く、澄んだ音場を感じられる。


どのモデルもじっくりと聴き込んでみたくなるヘッドホンだ

新「HD500」シリーズはいずれも同じクラスのヘッドホンのレベルを超えた解像感の高さ、量感の豊かさを感じられるモデルであり、音楽再生だけでなく幅広いユースに耐えうる対応力の広さも実感することができた。じっくり使い続ける事でより深みのある穏やかな部分も出てくると思うので、長時間のリスニングにも最適なチョイスとして選択肢に加えていただきたい製品群である。

Iwai

◆筆者プロフィール 岩井喬 Takashi Iwai

1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。


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